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7万点以上本が出るなかで、編集者ができること/編集者の言葉#3

古今東西の編集者の名言から仕事のヒントを学ぶ「編集者の言葉」。第3回目は、雑誌「室内」の編集長でコラムニストの山本夏彦さん。思わず背筋を正される辛口な言葉があったので、あらためて本を取り巻く状況について考えてみました。

してみると、本はあんなにあふれているが、本当はあふれていないのである。ただ棚をふさいで、見るべき本の邪魔をしているのである。/

『編集兼発行人』

この言葉は、「人生は短く、本は多い」というコラムの中にある一節です。読書週間にちなんで、本の流通にふれながら本について書かれたものですが、実に辛口ですね。本書が刊行されたのが1976年ですから、44年たったいまの状況を山本さんが見たら、どんなふうに感じるだろうかと、ふと考えてしまいます。

実際、本の刊行点数はピーク時に比べると減ったものの、それでも2018年の刊行点数でいえば、71668点。一日に約196冊もの本が出版されていることになります。この記事で紹介されているグラフによれば、1976年の刊行点数は2万点ほどですから、3倍以上もの伸び率となっています。

いっぽうで、書籍と雑誌を含めた2019年の売上は、1兆2360億円で15年連続の減少となっています。書籍の推定売り上げが1兆円を超えたのが1976年なので、売上は少し増えてはいるものの、輪をかけて点数が増えている。つまり、売上の減少を点数で稼いでいるということで、初版部数は激減しているのが数字からも推測できます。

では、いま読むべき本は増えているのでしょうか。確かに人と人の分断をあおるような本がベストセラーのランキングを賑わすことはあります。「つまんねー、これ」と思う本もあります。

それに対してはなんとも言えぬ思いがありますが、それでもいい本は毎年生まれていると思っていますし、本は人の心を癒やし、多様な考えや立場を認める寛容さを育み、知を育み、喜びをもたらすものだと信じています。読むべき本は増えてきていると思っています。

ただ、あまりにたくさんの本のなかで埋もれてしまいがちになる。それが山本さんの言う「本が邪魔している」という意味だと解しています。それを回避するためには、「こんないい本があるんだ」ということを多くの方に知ってもらう必要があります。

もちろんHONZさんやALL REVIEWさんなど、ブックレビューサイトはたくさんありますし、読書ブログだってたくさんあります。しかし、それにくわえて、編集者自身も、本と読む人の出会いを、もっとつくっていけるといいように思うんです。

それは自分の担当本のプロモーションだけじゃなくて、これはと思った本はブログやSNSで紹介したりということでもあるし、作家さんを応援することでもあります。

私は、子供の頃から本が好きで、結局書籍の編集者に落ち着いたという人間なので、やっぱり本好きの人間が増えてほしいし、そのためになにができるかを、これからも考えていきたい。

山本さんの言葉に、そんな思いを新たにしました。

最後まで読んでくださりありがとうございました。
よい一日を!



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