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ボルダリングを始めてくれるというのは運なのか。

 筆者はボルダリングを趣味として始めてから約1年経つが、世の中の多くのクライマーからしたら当然、ペーペーであるし、ビギナーと判定されるだろう。
 この1年、ボルダリングを始めてから今までに多くの初心者と出会ってきた(便宜上、このページ内でいう初心者はボルダリングを始めてやりに来た人のことを指すことにする)。
 残念ながら、私の体感的にその初心者の8〜9割はもう一度ジムに来てボルダリングをしに来てくれず、その場限りのボルダリングで終わってしまう。
 筆者はもちろん、ヒトというものは自らが面白いと思うこと、興味を持っていることに相手も共感してくれることを喜ぶ生き物である。筆者は、せっかく勇気を出してジムに来てくれた初心者に1回だけとは言わず2回、3回とジムに来てボルダリングをしてもらい、遂にはハマってもらいたい。が、もしかしたらそれは運次第なのかもしれない。

初心者がジムの門を叩く前にする3つの杞憂

 私が初心者の頃は約1年前のことだったので鮮明に初心者の感情を描けることをまず約束する。
 初心者は初めて、ボルダリングジムに行く時、不安に感じることは大きく3つあるだろう。

 まず1つ目は、筋肉に自信がない、体重が人より重い、スポーツ経験が浅いなどといった自身の能力値に関する不安を感じる。
 よく考えてみれば、その不安は妥当なものであろう。初心者が思い描くボルダリングというものは重力に逆らって上へ、上へ…というスポーツで、壁を登るというのは非日常的なこと、加えて学校の体育ですらやったことがないのだから。私もジムに行く前にGoogleで「ボルダリング 初めて 筋肉 大丈夫」などと検索した記憶がある。

 2つ目は一人で行くこと対して不安を抱く。
 私は幸い、ボルダリングを10年近くやっている友達と一緒に行けたからこそ、この不安は感じなかったが、そうでなかったらとてつもなく不安であろう。これはボルダリング以外のスポーツにも当てはまることだが、他スポーツより明らかに競技人口が少ないボルダリングなら、なおのこと起きやすい不安だと考えられる。
 そもそも一人で行くことがどうして心配につながるのか。その心配を深ぼってみると多くはボルダリングとジムに関する知識の欠如が原因であった。具体的に言うと、ボルダリングジムはチョークや自分にあったシューズを貸してくれるのか、男女比いかほどで、教えてくれる人は同性なのか、そもそもボルダリングジムは選手が通うような場所で遊び感覚で行くところではないのではないか、などと挙げられる。
 もしそのジムに通う友達、もしくはボルダリングをしたことがある友達がいれば、その友達がボルダリングおよびそのジムと初心者の媒介役となって初心者の知識不足を補ってやることが可能であるだろう。

 そして3つ目はジムにいるクライマーへの不安である。
 ボルダリングというスポーツは安全を考慮して、登っている人に近づいてはいけず、マット内への侵入も許されないのが一般的であるため、初心者が登っている時、他クライマーの視線は初心者に集中する。
 ヒトというのは失敗を嫌う者がほとんどな生き物で、ましてやその失敗を人に見られることなんて耐え難い。
 つまり、自らの失敗(落ちることはもちろん、壁に張り付いたまま逡巡することも)がどのようにクライマーへの受容のされるのか、ということに不安を抱く。初めて行うことに対して悲観的な人は、他クライマーに迷惑をかけてしまう、苛立たせてしまう、楽しい環境を乱してしまうと思ってしまうだろう(筆者はそうだった)。
 また、クライマーたちがひっきりなしで登っているところに合流できるのかという不安もある。
 多くボルダリングジムでは、順番を守りましょう、壁の独占はいけません、などといったことはもはや不文律である。しかし、そのような不文律をどうして初心者が解ろうか。 
 私は一度だけ、せっかくわがホームジムに初めて来てくれたのに全く登れず、登っているクライマーの背だけ眺めて帰っていく女性を見たことがある。そこでは常連クライマーが垂壁・スラブ課題でセッションしていた。
 初心者や、はじめたての人はパワー的に前傾壁に取り掛かることができず、多くの場合、垂壁かスラブを登る。そこを強そうな常連クライマー4,5人がセッションしていたらどうだろうか。私だったら割り切ってマットに足を踏み入れることはできない。加えて、多くの場合、受付に張り付くジムオーナーや店員はその事実に気づけず、後押しすることができない。そもそも、初回レクチャーの際に、クライマーの様子を見てマットに入り込んじゃいましょう、なんて説明はされない。

あなたが1人ぼっちの初心者なら人混みをかき分けて壁に登りに行けますか。

ギャップを埋めたい

 以上であげた初心者が抱く不安はいかがだっただろうか。
 私は信じる。9割のクライマーから「そんな心配、全くしなくていいよ」と言ってもらえることを。
 すなわち、以上で挙げた3つの不安というものは、初心者とクライマーのギャップなのだ。
 そもそも、そのギャップが埋められなければよほどの人がまずボルダリングジムに行ってみよう、とはならない。
 そのギャップがうまく埋められた運ある初心者こそ、ジムの門を叩けるのではないだろうか。

ボルダリングをやってみて1回目で終わるか、2回目以降もやってくれるか

 「小見出し」に関して、どっちでもいいという考えはあるかもしれないが、私はボルダリングを興味とするヒトなのでそうはならない。できれば後者に収まってほしい。
 私はこの「1回目で終わるか、2回目以降もやってくれるか」の分岐は9割「できないことに対してポジティブに捉えるか、ネガティブに捉えるか」で決まってくると思う。
 ある初心者は8級、7級、6級と課題をこなせました。登ることができる課題がテンポよく続いた中、どうやってもクリアできない5級課題に出会いました。ネガティブな人なら、「できない!くそ!つまらない!やめてやる!面白くない!」となる。逆にポジティブなクライマーなら「できない!くそ!面白い!どうやってできるか考えてやる!次来た時には絶対登ってやる!」となる。多くの場合、素性でネガティブでない人でも手が痛い、皮が剥ける、明日は筋肉痛、何回も落ちてしまう、といったネガティブな背景が重なり、結果としてネガティブな人パターンに収束してしまう。 
 そもそもボルダリング・クライミングは「できない」を「できる」にして達成感を味わうスポーツで、「できない」は当たり前なのである。その事実を理解してそれでもやってやりたい、という初心者こそボルダリングにハマると筆者は考える。
 そのような性分があることを我々クライマーはクライマー気質があると呼ぶが、そのような気質を持つ人がボルダリングに出会うことは運なのではないか。

ボルダリングは指の負傷はつきものだか…。

詰まるところ、「ボルダリングを始めること=運」なのか

 さて、上で初心者がボルダリングジムにそもそも行くこと、そしてジムに行った初心者が2回目以降もやってくれることは運なのかと投げかけたが、筆者は正直、運がほとんどを占めているのではないかと悔しながらも考える。
 しかし、その運を高める方法はあると思う。その方法とはクライマーが初心者の背中を押してやることだ。
 ボルダリングというスポーツは気になってはいるけどどうやって始めるものだろうか、というジムの門を叩く前の知人や友人がいるならば逐一質問相手になってやること、そして一緒に行ってあげることが背中を押すことにつながる。
 そして勇気を出してジムに来た初心者を我々クライマーが気づいてやり、「気にしないで好きに登ってください」や「そこはこうすると上手く登れるんですよ」といった初心者を想う声がけや「また来てあの課題落としちゃってください!」のような声がけで、ジムが初心者にとって心地よい居場所なのだと示唆することが重要である。
 ジムに来た初心者を見て、「俺もあの頃あったけど、続けてほしいなぁ」と少しでも思うクライマーは是非とも初心者に以上のことを実践してほしい。
 それが初心者がボルダリングを続けることの後押し、ひいてはボルダリングというスポーツの競技人口を増やすになるだろう。


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