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⑥「思春期・青年期の友達関係による心の成長を観る」、2022年秋アニメ Do It Yourself!! ーどぅー・いっと・ゆあせるふ‼

ジュリエット・クイーン・エリザベス・8世(ジョブ子)

澄ました表情と飛び上がった一束の前髪がプライドの高さを感じさせます。

画像引用元:https://diy-anime.com

チャムシップと悲嘆(grief)


未来との出会い

 第3話の冒頭でジョブ子が湯専のセキュリティゲートで佇んで俯く様子を見て未来が気になってDo you need any help?と声をかけても強く断りました。その時は間違えて潟女に入学してしまった悔しさから未来に強く当たってしまいました。しかし、他の生徒が気にも留めないで通り過ぎる中で未来が心配して声を掛けてくれたと言う優しさは覚えていたと思います。

強がり、ひねくれ

 未来が気にかけて声をかけても、DIY部に興味が有っても冷やかして軽口を叩く。褒めれることはまんざらでもない様子です。素直に慣れないのは年上の同級生に軽く見られたくないのか、早生まれのハンディからか。また、その様な気質なのでしょうか。
 もう一つ注目したい部分は母親とジョブ子は死別と言う形で第2次反抗期を迎える直前に強制的に分離させられた事です。そして、妻を亡くし気力をなくした父にぶつかることもなく留学決意しました。
 その先には更に年齢は小学生でも高校生と言う立場で早期にアイデンティティを確立に向かった取り組みを求められる状態にありました。
 したがって、手を差し伸べてくれる親切な目上の者であったり保護者的な働きに対しても第2次反抗期の様な心の働きにより素直に受け入れる事ができなかったと言う側面も考えられます。

 「Do you need any help?」「Shut up! Leave me alone!」

 しかし、頭脳明晰の天才で物理的に何不自由なく暮らして行けるとは言え、12歳でこの様な人生の課題を心理的な支えがなく1人で乗り越える事は無理でしょう。

ジョブ子は未来を選んだ

 ジョブ子はせるふの家に招待されて偶然?せるふの母に呼ばれた未来と三人で食事をしたりおしゃべりしました。そしてすすめられたお風呂を未来を誘って入り、話をすることで更に距離が縮まります。
 そして、ジョブ子はターム(学期)留学を未来の家で過ごすことにしました。その理由は湯専の授業の内容を教えてもらったり話が合うと言う事もありますが、ホームステイ初日、寝る前に未来に自分の家を選んだ理由を聞かれて「私とプディングなんか似てたから」と素直ではない性格の類似性を理由として答えました。
 また、セキュリティーゲートで俯きたたずんでいた時に声を掛けて貰った優しさはこれから寝食を共にする相手としての信頼を寄せる理由になったのではないかと思います。

未来との関係

 ジョブ子は飛び級で同年齢の人とふれ合う時間が少なく、勉強も先を行くので同年代の友達と話が合わなかったりした事からジョブ子は友達はいてもチャムシップを経験するほどの親友はなかったと考えます。
 チャムシップと言うには未来と年齢は離れていますがジョブ子と未来のお互い素直になれない部分に気づいて認めて重ね合わさる様に成長してゆく様子や誰にでも話すわけでは無い母親との想い出を打ち明けたりとチャムシップに類似した関係だと思いました。

素直になれる場所

 未来の母親も留守がちな「家」であり、二人きりで寝食を共にして距離は縮まります。すなおになれない二人ですが話が合い、ジョブ子は未来を頼りにしているところもあり。そして未来はジョブ子を必要以上に子ども扱いせずに対等に接している事もあり致命的な衝突もなく仲良く暮らしています。
 さらに、ジョブ子は特に何か相談や頼み事をするときは未来とお風呂に入っている時で、様々な事も素直に話しました。二人は短いターム留学期間で友達以上の付き合いをしました。
 最終話で未来との別れ際にジョブ子は自分と未来の素直になれない部分を認め合って「いつも本音で話せたら、もっと楽なのにねわたしもpuddingも」とお互いを確認しました。

ジョブ子が踏み出したの最初の一歩

 「1人は嫌なの」と素直に未来の袖を掴んでお風呂に誘った時でしょう。そこから未来に対しては素直に話せる様になり、チャムシップのような関係へと発展したのだと思います。

停滞していた悲嘆のプロセス

 ジョブ子のもう一つの課題は亡くなった母の悲嘆です。後に明かされる父親は未だに最愛の妻を亡くした喪失感から立ち直れずにジョブ子も取り付く島がない状態でした、そんな父から距離を置くために留学を決意した事を最後に未来に話した。
 ジョブ子は母親の事を思い出して悲しむことはあっても勉強に対する興味を失ったりすることは無く正常の悲嘆と言えると思います。
 DIY部に興味があっても悪態をつき冷やかしに来るのはプライドが高く素直になれないだけではなく、DIYをすると言う事は母との楽しかった日々を思いだすと同時に悲嘆に直面化してしまうと言う両価性からの行動も考えられます。

向き合う気持ち

 未来が出したツリーハウスのアイデア、それは偶然ジョブ子も母親とツリーハウスを作った思い出とも重なりました。
 母との楽しかった思い出のツリーハウス、皆と造って楽しみを共有したいとの思いから経験もない製図を引き受けてしまったジョブ子ですが未来の支えもあり、図面も完成してツリーハウスをDIY部の皆と一緒に取り組みます。
 父親と母親との悲嘆を支え合うことが叶わなかったジョブ子ですがきっとツリーハウスに取り組むことは母と過ごした時間に向き合い、徐々に新しい意味を作り始めたようです。

受容

 物語の序盤では母の存在は未だ心の中に在り、思い返していたようですが第9話ではノートにI can challenge to build a tree house ! Mom と母にあてたメッセージを綴っていました。
 さらには第11話で工具を触りながら天を仰ぐように母親に「Mom、やっとツリーハウスが作れるよ」と心の中で呼びかけました。それら2つの場面は、母の死を受容して自身から分離して考えることが事を意味しているのだと思います。
 そして12話ではジョブ子の心は未来との生活やツリーハウス作りを通して整理されて、帰ったら父にツリーハウスを作ったことを話してみることを未来に語りました。

おわりに

 ジョブ子は天才少女とは言え12歳で飛び級で年上の友人との付き合い、早期のアイデンティ形成への取り組みや悲嘆と言う6人の中でも最も課題が多く且つ重く大変な時期での留学でした。
 まだまだ未来の母親と亡き母を重ねて涙ぐむ事もあります。また、未来以外の友達には素直に接することも難しいですが日本を発つ前にプライベートジェットのタラップで見せた微笑みは未来をはじめ仲間たちと過ごしたターム留学から得た成長と、悲嘆を乗り越えて自分の進む道が見えてきたという希望。さらには感謝の気持ちにあふれていたと感じました。

付録

問題

 そうです、未来が起きたら既にジョブ子は部屋にいて勝手にPCを操作しているのです、これは不法侵入とセキュリティーシステムとPCの不正アクセスです。ジョブ子は2月24日生まれの12歳ですので触法少年にあたります。(表3-2)

著者作成

 令和3年に不正アクセス禁止法違反で補導された最年少の者は奇しくも12歳でした。詳しくは「思春期・青年期の友達関係によるこころの成長を観る④」、22年秋アニメ Do It Yourself!! ーどぅー・いっと・ゆあせるふ‼の付録に法務局の資料を引用しましたが14歳未満の少年(触法少年)は検挙件数及び検挙人員としては計上していません。
 触法少年は犯罪少年と違い基本的に児童相談所において一時保護として少年の身柄を拘束される可能性はあります。最も未来もその母も特にお咎めなしなので明るみに出ることは無いでしょう。

チャムシップ体験

 ジョブ子と未来の関係をチャムシップに類似した関係としました。本来のチャムシップは同質を求める同年代の親友の事ですがジョブ子も未来も素直になれない部分が有り「私とプディングなんか似てたから」と性格の類似性を挙げています。年齢についてはジョブ子が12歳で未来が15歳と3歳の差があり、ジョブ子はチャムシップを結ぶ年代に対して未来はピアシップと関係性が変化する時期ではあります。年齢やチャムシップの様なかかわりをシンメトリー経験として吉井健治. (2020)の提唱した概念があります。(以下引用)

⑴ チャムの関連概念 チャムとは,Sullivan(1953)が提唱した概念であり,同性同年輩の親しい友人のことである。これと似た概念 には,想像上の仲間,普遍性,分身自己対象がある。

吉井健治. (2020). 不登校の訪問臨床における子どもと訪問者の関係性 ―― チャム的関わりの意義 ――. 鳴門教育大学研究紀要, 第35巻, 1–22. https://core.ac.uk/download/322597734.pdf

 ジョブ子と未来のシンメトリー体験は年齢差があり、ホストファミリー側と留学生と言う立場の現実の関係で「普遍性」に分類することができます。(図2)
 

吉井健治. (2020). 不登校の訪問臨床における子どもと訪問者の関係性 ―― チャム的関わりの意義 ――. 鳴門教育大学研究紀要, 第35巻, 1–22. https://core.ac.uk/download/322597734.pdf

 しかしながら二人の関係は年齢差は有りますが未来はせるふとのチャムシップで見つめることが出来なかった素直になれない自分をジョブ子との関係で見つめることが出来て、且つジョブ子とは年齢は違いますが同級生と言う対等な立場で向かい合っていました。つまり、チャムシップに残した課題を同等の立場で向き合いやりなおすと言う事は限りなくチャムに近い普遍性であり、チャムシップと言って差し支えないと思います。

悲嘆のプロセス

 ジョブ子はDIY部のベンチで泣いていました、ホテルでベッドによこたわりスマホで母との思い出の画像を眺めて涙を浮かべていました。
 後からわかる事ですが留学先で知り合いや友達が無く一人ぼっちになっている事だけではなく母と死別した事の悲嘆のプロセスが完了しているわけではない様でした。

災害グリーフサポートプロジェクト. (2020). 災害で大切な人をなくされた方を支援するためのウェブサイト. https://jdgs.jp/

 ジョブ子は父親と距離を置くために留学をしたのですが最先端の湯専で学びたいという進路まで考えられることから悲嘆のプロセスはParkesが提唱する4段階を説明した上記引用の図で照らし合わせると回復の段階に来ていますと思います。
 4段階は直線的に進むわけではなくそれぞれの段階で一番特徴的な状態を示しています。ジョブ子も強くは無いですが切望と悲しみの段階の状態が時折見られました。
 物語の最後には帰国して距離を置いていた父親と留学先の友達とツリーハウスを作った思い出を話すことに決めました。
 母と作ったツリーハウス、それを褒めてくれた父親。その思い出に触れる事は母の死に再度直面化する事になります。しかしそうする事で母と生きてきて日々に父親と2人で話す事で意味付けをしてゆき、新たな希望に繋げて行こうと決めたのだと思います。
 なお、本文では「回復の段階」ではなく表現上の相応しさからキュブラー・ロスの死の5段階説の「受容」を使いました。

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