見出し画像

【ネタバレあり】映画『ラストマイル』の結末を【2つのマシン】から考える

こんばんは、アベヒサノジョウです
先週、8月23日(金)から公開となった映画ラストマイルを見てきました。

テレビドラマ「アンナチュラル」「MIU404」の監督・塚原あゆ子と脚本家・野木亜紀子が再タッグを組み、両シリーズと同じ世界線で起きた連続爆破事件の行方を描いたサスペンス映画。

流通業界最大のイベントである11月のブラックフライデー前夜、世界規模のショッピングサイトの関東センターから配送された段ボール箱が爆発する事件が発生し、やがて日本中を恐怖に陥れる連続爆破事件へと発展する。関東センター長に着任したばかりの舟渡エレナは、チームマネージャーの梨本孔とともに事態の収拾にあたるが……。

主人公・舟渡エレナを満島ひかり、梨本孔を岡田将生が演じ、事件に巻き込まれる関係者役で阿部サダヲとディーン・フジオカ、捜査を担当する刑事役で「アンナチュラル」の大倉孝二と「MIU404」の酒向芳が出演。さらに「アンナチュラル」から三澄ミコト役の石原さとみ、中堂系役の井浦新、久部六郎役の窪田正孝ら、「MIU404」から伊吹藍役の綾野剛、志摩一未役の星野源らが再結集する。主題歌も「アンナチュラル」「MIU404」に続き米津玄師が担当した。

2024年製作/128分/G/日本
配給:東宝
劇場公開日:2024年8月23日

映画.com 様より

今回はその結末部分と「この映画が伝えたかったこと」を考察していきたいと思います。
※あくまでも私の考えであることと、結末に関するネタバレを含みますのでご注意ください!




【2つのマシン】

この映画では二つの対照的な機械が登場し、重要な役を担っている。
それが、

◯ベルトコンベア
●洗濯機

であり、それぞれには以下の内容が象徴的に込められていると考える。
その二つのマシンの関係を考察していく。


丈夫で安全な洗濯機を開発したものの、大量生産やコストの面でも利益が出ず、経営は悪化。やがて倒産し、宅配業者として厳しい生活を行うのが、宇野祥平さんが演じる佐野 亘

それに対してDAILY FASTは、大量の商品を販売。より効率的に大量の商品を売るためにベルトコンベアを開発。その保管・発送の関東拠点となる工場が、今回の映画の舞台である。

ベルトコンベアは、今回の映画のキーとなる部分で映画の導入部で謎の暗号として登場する「2.7m/s→70kg→0」にも関わっている。

【2.7m/s→70kg→0】


2.7m/s→70kg→0とは、前任の工場長「山崎 佑」がロッカー内に書いた暗号と思われる。

最初の2.7m/sは、ベルトコンベアが進むスピードを表しており、次の70kgはベルトコンベアの耐久重量(あるいは前任の工場長の体重)最後の0は、ベルトコンベアの稼働率を表しており、《0=停止》である。

つまり、ベルトコンベアに自ら飛び降りることで停止させようとする意志の現れであった。

劇中では実際にベルトコンベアに向かって身を投げ、昏睡状態となった。

「ブラックフライデーが怖い」

直前までそう語っていた山崎 佑はブラックフライデーの前日に身を投げ、過酷な労働環境で働く人々を訴えようと行動を起こした。
しかし、ベルトコンベアに横たわった体は無理やり下に降ろされ、稼働率が0になることはなかった。

【0《ゼロ》】


2.7m/s→70kg→0の暗号に隠された意味は「ベルトコンベアを、身を投げて稼働率を0にする(出荷を止める)」という意味であった。

稼動率を「0」にするという内容ではあったが、それ以外にも「0」には意味があったと考える。

理由は、「ラストマイル」にはテレビドラマ「アンナチュラル」「MIU404」の2つが関わっていることだ。

「MIU404」の最終話は「ゼロ」というサブタイトルがついている。

ドラマでは、0というのは、自分達の「出発点」という意味でも使われており、ドラマのラストでは星野源さん演じる志摩と綾野剛さん演じる伊吹の会話で締められる。

2020年 夏 
オリンピックが中止になった会話などを経て
伊吹「…てかさこれからどうなんだろうなぁ」
志摩「毎日が選択の連続……また間違えるかもなぁ」
伊吹「うん?」
志摩「………まぁ、間違えてもここからか」
伊吹「フフッ  そういうこと〜」
ちょっかいをかける、伊吹。
志摩に嗜められていると警視庁から連絡がある。
伊吹「…機捜404 ゼロ地点から向かいます。どうぞ」
バックに東京の新国立競技場が映る。上空から見るそのドームは「」の形をしていた。

MIU404 11話「ゼロ」より

MIU404では、その時その時の選択によって連鎖し、大きく変する人々の人生がテーマになっている。

しかし、ラストの志摩のセリフからは「例え間違えてしまっても、ゼロからやり直せばいい」という前向きな意志が読み取れる。

ラストマイルでも、 満島ひかりさん演じる舟渡エレナが、ベルトコンベアの稼働を自らの意志で停止させた。その責任問題も含め、舟渡エレナはDAILY FASTを去る決断をする。
決断後、最後の仕事を終え「0(ゼロ)」からのスタートとなった舟渡エレナは、どこか満足そうであった。

それに対して、その仕事を引き継ぐことになった岡田将生さん演じる梨本 孔は2.7m/s→70kg→0と書かれたロッカーの前で悩み座り込む姿で「ラストマイル」の物語を終える。

【ロッカー】

結論から言うとこの物語のロッカーは「従業員」を表しているのだと考える。

仕事はロッカーで始まり、ロッカーで終わる。
DAILY FASTには大量のロッカーがあるものの、ほとんどが使われていない。これも「規模に対する人員不足」を表しているのではないだろうか。

舟渡エレナは、初出勤の日にロッカーを使おうとして、手を掛けるが開かない。

舟渡「あれ、開かない」
梨本「それ壊れていますよ」
舟渡「…ふーん、直せばいいのにね」

「ラストマイル」

この時点で「替わりはあるのだから壊れたら別のを使えばいい」という、DAILY FASTの会社理念が読み取れるのだ。

画一的なロッカーは、外から見てもどれも同じだ。
しかし、その見えない内側には2.7m/s→70kg→0という言葉が刻まれていた。その文字は、その仕事を受け継いだ人にしか見えてこなかった。

梨本「その文字、絶対に消すなと言われているんです」

おそらく、同僚もわかっていたのだろう。従業員だけが、そのことを理解し共有して受け継いできた。

ロッカーに宿る意志。ラストはその手前で、苦悩する梨本だった。
もう一度【2つのマシン】に戻って考える。

【2つのマシンが意味するもの】

導入で説明したように、この物語を大きく分けるのは二つのマシンである。それが、

◯ベルトコンベア
●洗濯機

二つのマシンはそれぞれの会社の明暗をはっきりさせた。

●利益や効率を追求して作られたベルトコンベアによって、会社は急成長。しかし、それによって命を落とす従業員もいた。

◯こだわりを持って作った洗濯機。大量生産できず会社は倒産。しかし、そのこだわりによって救われた命があった。

洗濯機によって命が救われた(爆発物から身を守った)ものの、倒産した会社が復活を遂げるわけではないし、爆発事件の原因となったDAILY FASTは今後も成長を続けるのだろう。

何を大切にして生きるのか。
問われている物語なのだ。

「自ら0にした人間」と「身をもって0にしようとした人間」、「それでも0にしたくない人間」などが、それぞれの役割を果たそうと働き、苦悩し、そして考えを改めながら物語を作っていく。

舟渡エレナが一度、0にしたこの物語を梨本 孔はどのように作っていくのか。

「間違えても『ここ』から」
そんな言葉が聞こえてきそうな、映画だった。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?