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『女生徒』(太宰治)1/300

きっと、誰かが間違っている。わるいのは、あなただ。

『女生徒(百年文庫『憧』より)』p,41)


Goodnote。みなさんこんばんは。つづりです。
あけましておめでとうございます。

今日からスタートした〈百年の旅〉、300話の読書記録。


第1話は『女生徒』(太宰治)です。

あらすじ

父を亡くし、姉が嫁いで、未亡人となった母親と2人で暮らしながら、女学校へ通う少女の絶望が描かれる。就職か、結婚か。宙ぶらりんの生活を送る彼女は、未亡人の母が、世間にへつらう姿や、街行く大人の女の汚らしい女らしさを目にする。自分も徐々に嫌悪する世俗に塗れた女に近づいていることへの失望に絡めとられながら、眠りに落ちていく。


少女版人間失格~女という呪い~

ー女はいやだ。自分が女だけに、女の中にある不潔さが、よくわかって、歯ぎしりするほど厭だ。金魚をいじったあとの、あのたまらない生臭さが、自分のからだ一っぱいにしみついているようで、洗っても洗っても、落ちないようで、こうして一日一日、自分も雌の体臭をはっさんさせるようになって行くのかと思えば、また、思い当たることもあるので、いっそこのまま少女のままで死にたくなる。

『女生徒(百年文庫『憧』より)』p,41


リストカットのような自傷文学。

『人間失格』で同じみの自己言及が、女性でないと思い悩むことの出来ない内面を切り裂いて行く。

 彼女がえぐり出す女性像は、女にとって心当たりのあることばかり。化粧をするときにどんなことを考えているのか。美容室に行けば何を思って髪型をオーダーするのか。男性の前で作る笑顔や高くする声音、仕草にどんな意図が込められているのか。

世間と個性

ー自分の個性みたいなものを、本当は、こっそり愛しているのだけれども、愛して行きたいとは思うのだけれど、それをはっきりと自分のものとして体現するのは、おっかないのだ。人々が、よいと思う娘になろうといつも思う。たくさんの人たちが集まったとき、どんなに自分は卑屈になることだろう。口に出したくも無いことを、気持と全然はなれたことを、嘘ついてペチャペチャやっている。そのほうが徳だ、得だと思うからなのだ。そうすると、こんな卑屈さも、また自分のためでなく、人の思惑のために毎日をポタポタ生活することも無くなるだろう。

『女生徒(百年文庫『憧』より)』p,29

 少女はあるときには、母を支えて、女として生きることの運命も受け入れて立とうとけれど、あるときには、あれほど嫌っていた世俗の女になることへの嫌悪に押し潰されそうになる。

 そうして演じてみる。世俗の女を心では見下しながら、頭ではきっちりとその世俗の女のイメージを作り上げて、見下す心のままで、見下している女の、心にもないことを口にし、動く。

 でもこれって、女の人が普段からしてることだ。現実と観念との摩擦で、少女の心が擦り減り、目に見えない血が流れ落ちていく。

 前にも行けず、かといって来た道を引き返すこともできず、傷が増えていく。

感想

明日もまた、同じ日が来るのだろう。幸福は一生、来ないのだ。~幸福は一夜遅れてくる~幸福を待って待って、とうとう耐え切れずに家を飛び出して

『女生徒(百年文庫『憧』より)』p,82

タイトル『憧』の意味を考えると残酷さが際立つ。少女にとっての『憧』は女性としての未来ではなくて、父や姉に囲まれて、女性としての自我を武装する必要のなかった少女のままでいられた過去のことだから。

少女は、無事に自我のリストカットを終えて、大人の女性になるのだろうか。

少女の地獄には、何の救済も用意されていない。でも若いことや、少女をデフォルメした誤魔化しもない。

等身大の少女像がここには書かれているので、やっぱり、現役の少女にお勧めしたい作品だ。

エッセイ001

年末年始もクリスマスもわたしにとっては消化不良の種だ。

だいたいクリスマスでイルミネーションやら、ケーキやらチキンやらクリスマスソングやらで散々、街を散らかした後、そそくさと、門松、鏡餅、注連縄を飾って、慌ただしく、せかせかしているのも、いや。

浮かれて、わくわくして、何かに期待して、過ぎてみれば、壮大な肩透かしを食らっているみたいだ。日常に心身を戻ることを考えれば、億劫で面倒で悲しくて。

でも、年末年始でもなければ、連絡を取らない人がいたり、考えないことがある。年末年始というのは、とかく理由になりやすい。

というわけで、この〈百年の旅〉を始めた。
エッセイも300話続く。もちろん、途中でわたしが死んでしまわないかぎりはね。

食わず嫌いは良くない。読まず嫌いも良くない。
能動的に過ごすのは難しいことだから、読み切らなきゃ終わらない300話の読書記録を追っていただきたい。


















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