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なぜ台風10号の進路予測が難しかったのか? 地球温暖化が影響している?

台風は、これまで偏西風に乗って進行してきました。しかし、最近の台風予測が難しくなっている理由には、地球温暖化が大きく関係している可能性があります。この記事では、台風予測の基本と、今回の台風10号の予測が難しかった理由について解説します。

偏西風の役割と台風の進行

  1. 偏西風とは

    • 偏西風は、地球の中緯度帯(約30度から60度の緯度)で西から東へ流れる大気の風です。地球の自転と大気の温度差によって形成され、主要な大気の循環パターンの一部です。

  2. 台風の進行

    • 台風は、低気圧の中心から強い風が外側に吹き出すことで形成される、非常に強い嵐です。台風の進行方向は、周囲の風に大きく影響されます。特に、中緯度帯の偏西風が台風の進行に重要な役割を果たします。

  3. 偏西風による進行

    • 台風が発生すると、偏西風がその進行に影響を与えます。偏西風は台風を東に運ぶ力を持ち、これにより台風は西から東へと移動します。台風の進行方向は偏西風の流れに沿って決まります。


そもそも、台風はどうやって予測しているの?



台風予測は、以下のようなさまざまなデータや技術を使って行われています:

  1. 衛星観測

    • 気象衛星は地球の上空から台風の雲の動きや温度などをリアルタイムで観測しています。これにより、台風の位置や大きさ、強さが把握されます。

  2. 気象レーダー

    • 地上に設置されたレーダーが、台風による雨や風の動きをキャッチします。これにより、台風の強さや降水量、風速を詳しく分析できます。

  3. 海上の観測

    • 海に浮かぶブイや観測船からは、海面の温度や気圧、風の強さなどが観測され、台風の強さや進行方向を予測するためのデータが得られます。

  4. 気球や飛行機からの観測

    • 上空を飛ぶ気球や飛行機が、台風の周りの風や気温、湿度を測定します。これにより、台風の動きの手がかりが得られます。

  5. スーパーコンピューターによるシミュレーション

    • 大量の気象データをスーパーコンピューターで処理し、台風の未来の動きをシミュレーションします。これを「数値予報モデル」と呼びます。


これらの観測データやシミュレーション結果を総合して、台風の進路や勢力が予測されます。しかし、今回の台風10号のように予測が難しい場合もあります。では、なぜ今回は予測が難しかったのでしょうか?

地球温暖化が影響している可能性があります。以下の研究を紹介します。

地球温暖化による台風移動速度の変化とその影響



2020年1月8日、気象研究所は地球温暖化により、日本など中緯度を通過する台風の移動速度が遅くなることを発表しました。これにより、台風が日本に及ぼす影響の時間が長くなり、降水強度の増加と相乗効果で台風の影響が増大する可能性があるとしています。
具体的には、温暖化によって偏西風が北上し、中緯度帯での風が弱くなるため、台風の移動速度が約10%遅くなるとされています。この影響は、熱帯・亜熱帯地域の台風にはあまり見られないものの、中緯度帯の台風には顕著に現れるとしています。
気象研究所は、高解像度の気候シミュレーションデータを用いて、今世紀末に地球の平均気温が産業革命以降4℃上昇した状態での台風の移動速度の将来変化を定量的に評価しました。その結果、偏西風の北上と大気の流れの変化が台風の移動に大きな影響を与えていることが示されました。
今後は、大学や研究機関と連携し、気候変動がもたらす台風リスクをさらに詳細に評価する予定です。

今回の台風10号、予測が難しかった理由

  1. 周囲の風が弱かった

    • 周囲の風が従来よりも弱いことが報告されています。これは、地球温暖化によって、偏西風が北上した可能性があります。

    • 台風は通常、偏西風や太平洋高気圧などの風に乗って移動します。しかし、今回の台風10号では、周囲の風が弱く、台風を動かす力が不十分でした。このため、台風の進行方向が不安定になり、予測が難しくなりました。

  2. 「寒冷渦」の影響

    • 台風の進路には、「寒冷渦」と呼ばれる冷たい空気の塊が影響を与えることがあります。この寒冷渦は、通常、ロシア、アイスランドなどの地域で発生します。しかしながら、地球温暖化の要因による偏西風の蛇行により、日本列島付近でも寒冷渦が発生しました。

    • 今回、台風10号はこの寒冷渦に引き寄せられる形で予想よりも西寄りに進みました。その後、寒冷渦の影響が弱くなると、再び進路が不安定になり、予測が難しくなりました。

  3. 海面温度の上昇

    • 近年、地球温暖化により、海面温度が上昇しています。

    • 台風は、海面温度が高い場所を通過すると勢力を強めることがあります。今回の台風10号では、日本列島に接近する際に海水温が高かったため、勢力が強まると予測されていました。この影響も予測が難しくなる要因です。

台風予測の基本を知って、最新情報に注意を


台風の予測は、多くのデータと高度な技術を駆使して行われていますが、自然現象である台風は非常に複雑で、予測が難しいこともあります。特に、周囲の風が弱く、気象条件が変わりやすい場合には、予測が変わることがあります。

今回の台風によって、日本を取り巻く環境が変わっている可能性があるため、今後の詳細な研究が求められています。台風の情報は常に最新のものを確認し、予測が変わった場合にも柔軟に対応できるようにしておくことが大切です。また、台風の中心から離れた場所でも、大雨や強風の影響が出ることがあるため、油断せずに準備を進めることが重要です。台風は自然の力の中でも特に大きな影響を与える存在です。正しい知識と最新の情報をもとに、しっかりと対策をしていきましょう。

■参考資料


掲載誌:Nature Communications タイトル:Global Warming Changes Tropical Cyclone Translation Speed 著者名:Munehiko Yamaguchi1*, Johnny C. L. Chan2, Il-Ju Moon3, Kohei Yoshida1, and Ryo Mizuta1 所 属:1 気象庁気象研究所, 2 ⾹港城市⼤学, 3 済州⼤学


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