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まほろば流麗譚

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記事一覧

思慕一途柳問答 4

「ぐすん、、痛いよぉ、、」

「だから言ったのですよ。貴女には不向きだと。」

「ぐすん、、ですが、私は妻です。旦那様の仇を取る
 のは当然の行いで御座います、、痛いぃ、、」

「そうは仰られましてもね、、それを使いこなすには
 鍛えられた強い精神が必要なのです。現に物の怪は
 実体化しておりますまい。」

「されど、されど!私の力とはなっております故、全
 くの不向きとは言えませぬ!うっ!痛いぃ

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思慕一途柳問答 3

「また、あの男かい?」

「つくづく物の怪に縁があるんでしょうなあ。」

「馬鹿な男かと思ったけどねぇ。それでも何度も首を
 突っ込んで、生きてるんだよ。何だってんだい?」

「勇さんは、、何ですかね、妙な運がある男なんでさ
 ぁね。死んだ親父さんから受け継いだ人足たちを、
 ああも纏め切るなんざ、正直誰も思っちゃあいませ
 んでしたぜ。」

「ふーん、、あんたも妙に信じてるじゃないかね。
 さて

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思慕一途柳問答 2

「勇也ぁー!大丈夫!?」

流園と勇也の元に美代が駆けて来た。

「ああ!また物の怪だぜ!」

「えっ!?またぁー!」

「ありゃあ、何だ?首の長くてウネウネした奴?」

「ろくろ首で御座んすね。」

「あーそうだ!あの女ろくろ首だ!」

「女!?今度は女なの?ダメだよ!勇也!」

「へ?何がよ?」

「女の相手はダメだって言うの!」

「いや、相手って物の怪だぜ!?」

「もう女に関わんな!この

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思慕一途柳問答 1

江戸の町には人足たちが住む長屋がある。
仲間同士で寄り集まって暮らす小さな部屋がズラリと並び、側には川がある。
川の水がまだ井戸の変わりをしている。
その川の前を歩いて行くと大きな柳の木がある。
枝垂れた葉は全て落ちているが、江戸の恋仲が約束の場所に定めるのは冬になっても変わりはしない。

顔立ちの整った一見女と見間違える男が、この柳の下に現れる様になったのも、寒い冬になってからの事であった。

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第二話 あとがき

天空凧揚げ合戦
いかがでしたでしょうか?

まほろば流麗譚の世界観が伝わっていたら、幸いです。

今回は勇也と美代の件が少なかったので、少し重かったかもしれませんね。

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綺麗にまとまるお話は理想です。
ただ僕はあまり考えていません。

その瞬間、その瞬間にインスパイアされて思い出される光景や言葉。

そんなものが、その瞬間まで信じていた考えをガラ

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天空凧揚げ合戦 13(完)

「儂が欲しかった物は貰った。」

「ああ?」

「お主の左手に握られた、これよ。」

半蔵はその手にした、秋月草太の左拳を見せた。

「な!」

慌てて見ると、草太の左手には拳が無かった。
血は流れてはいない。
斬撃があまりも早く鋭かったのだ。
まだ身体も脳も自身の異変に気付いてはいない。

「この珠よ。」

半蔵は拳を無理に開き、珠だけを取り投げ捨てた。

「この野郎!俺の手を!」

顔を真っ赤

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天空凧揚げ合戦 12

動けば動く程、天狗が布に包まれていく。

「やったぜ!落ちやがる!」

「天狗が、、落ちる、、」

勇也と共に雪がその姿を見つめている。
あの天狗が、、兄貴の仇の天狗が落ちる。

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「舐めるなよ!伊賀者共があー!!」

月夜に何者かが吠えた。
何かが飛ぶ音がする。
木々の間から幾つかの呻き声がした。
そんな声がした枝のひとつに人影が立った。

「俺

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天空凧揚げ合戦 11

林道の出口が近づくと、大きな松の木がほぼ平行に並んでいる。
その松を過ぎると、巨大な蛇の腹の中みたいな道が終わる。

そこを抜ける事は、江戸から吐き出される事だ。
暗闇から広い世界に投げ出される事だ。
身の安全の欠片も無い、戦さ後の世の中。
食うに食えず彷徨う者たちの根城。

だが雪はその世界に光があるのを知っていた。
あんなに辛くて江戸に来たのに、木々に遮られていた光が溢れると喜びを感じた。

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天空凧揚げ合戦 10

雪の左から風が煽る。
天狗は少し後ろから、ゆったりと団扇を振り風を送ってくる。
団扇を振りその身体をクルリと回し、次に右に跳ね同じ事を繰り返す。

「馬鹿にしやがって、、雪の積もった山を走ってきた
 あたしが、こんなもんで転ぶもんかあ!」

天狗が少し距離を詰めてきた。
雪が蹌踉けないのが面白くないのだろう。

なら団扇を強く振ればいい。
やはり飛びながら強い風を起こすには、様々都合があるのだ。

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天空凧揚げ合戦 9

「今、俺らは見えてねぇのかあ!?」

「おうよ、勇さん。伊賀忍びの隠れ蓑は、天狗の目も
 誤魔化せた。」

勇也と手下たちは馬に乗っていた。
正確には馬を操る侍の後ろにちょこんと座っていた。
その手には少し太い糸があり、皆凧を持っていた。

「この糸にも工夫があってな。」

「分かるぜ、鉄っあん。透けてて見ねぇや。」

「天狗からしたら余裕で大凧を追っかけてたら、急に
 後ろに凧が沢山浮き上がって

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天空凧揚げ合戦 8

夜風が頬に心地良かった。
雪は腰に括られた縄をもう一度確かめていた。
この縄の先には大きな凧が繋がっている。

話はこうだ。
雪は全力疾走をして、この凧を揚げる。
この林道を見ているであろう天狗は、挑発に乗り雪を追ってくるだろう。

そこを林道の出口の木に登っている伊賀忍びが、網を張り捉えようと言うのだ。

雪は呆気にとられた。
そんな馬鹿馬鹿しい事に、あの残忍な天狗が引っ掛かるのか?と。

だが

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天空凧揚げ合戦 7

「落ち着いたかい、お雪ちゃん?」

中山鉄斎は握り飯を食ったら、すぐそこまで届け物があると出て行った。

「恥ずかしいところを見せたね。

 でも、あたしはさ。

 やっぱり天狗をこの手で。」

握り飯を食った雪の顔色は戻っていた。

「握り飯、美味かったろぉよ?」

「あ、、ああ、美味かった。」

「だろぅ!?美代の握り飯は絶品なんだ!」

勇也は屈託なく笑った。
その顔を見ていると、雪は何だか

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天空凧揚げ合戦 6

「なあ、お雪さん。あんた、どうやって仇を討つつも
 りなんだい?」

「どうって、、何だってやってだよ。天狗を殺せるな
 ら何だってやる。」

「、、殺すかぁ。人の格好をしてるもんを殺すと、胸
 の辺りにしこりが出来るぜぇ。」

雪は身体をピクリとさせた。
だが、、、それでも天狗は許せない。
雪は拳に力を込めて中山鉄斎を睨みつけた。

「なあ、あんた刀や槍が使えるのかい?それとも喧嘩
 が滅法強ぇ

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天空凧揚げ合戦 5

伊賀忍びが目眩しを施した籠は、天狗の目を欺けた。
こいつはひとつ収穫に違いない。

「旦那ぁ、生きてますかねぇ。」

鉄斎が思案する中、艶のある声が急死に一生を得た柳生宗矩に掛かっていた。

「分かって聞いておろうが、澪。」

「あらまぁ、だったら早く起き上がって下さいな。」

鎧武者がその身を僅かに動かすが、手足をバタつかせるのも儘ならぬ様子。

「起きれんのだ、、」

「あらまぁ、、」

そん

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