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まほろば流麗譚

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記事一覧

思慕一途柳問答 10

皆さ、勇也を誤解してるよね。
勇也は大胆だし決断力もある。
判断は早い方だと思う。

でもさ、この人は意外と繊細なのよ。
だから物凄い早さで色々考えてる。
そして決めてる。

口では何と言ってても、約束した事は守る。
守れないとひどく落ち込む。

あたしがろくろ首に関わるな!って言ったから、今回はそのつもりに決めてたんだね。

だから澪さんが屋台に来た時、嫌な顔をしてたんだ。
深入りすると放ってお

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思慕一途柳問答 9

「へえ?どういう事ったよ!?」

訳が分からないのは勇也も同じである。

「あんた、お節介なんだよぉ。
 そうやって目に映る連中に片っ端から関わるから
 当たりを引いちまうって話さぁね。」

「ああ、確かに勇さんは、それだ。」

珍しく信幸が口を挟んだ。
澪がその信幸を見る。

「あんた、武士だったねぇい。」

「お恥ずかしい、、
 身に付いたものはぁ、どうにも。」

「澪さん、何で分かるの?」

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思慕一途柳問答 8

「ひゃっあ!!」

不意に後ろから声を掛けられた女は、やはり素っ頓狂な声を出し小さく身体を飛び上がらせた。

「お妙、、はい。以前はそう呼ばれていましたけれど
 ぉ、、どちら様ですかぁ?」

それから振り返らないままで答えた。

「お妙、あっしの事が分からねぇのかい?」

「あのぅ、誰かと間違えてませんかぁ。今の私を妙と
 呼ぶ人はいませんからぁ。」

そこに堪らず勇也も来る。

「流園さん、どう

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思慕一途柳問答 7

信幸の屋台は柳の前の小道を進んでいくとある。   
同じ川沿いにはなる。
その小道の先には少し開けた場所がある。
川の水が使え、人数が居る事も出来る。
元は勇也の組が大八車や仕事道具を置くのに使っていた。

今はそこに余った切り株やら樽やらが置いてある。
そこに大八車に乗っかった形に鉄斎が作ってくれた屋台が入り、皆で輪になり飲み食いをする。
冬になってからは三箇所に火鉢を置き、そこにそれぞれが座る

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思慕一途柳問答 6

「何だか難しい話になったり、痴話話になったり。」

信幸が笑いながら紫乃に言うと

「まあ、いいじゃありませんか。なんだかんだで仲良
 く話してるんですから。」

「そうだな。こういうのが幸せな店なんだろうな。」

勇也や美代に澪を遠巻きに見ながら夫婦が笑った所に、、、

「すいませ〜ん!これにぃお酒を分けていだたけませ
 んかぁ〜!」

調子っぱずれの素っ頓狂な声が掛かった。
見ると首に厚手の布

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思慕一途柳問答 5

「あたし、勇也が危ない事するの、嫌なんです!
 勇也は物の怪退治が仕事じゃないんです!
 そんなぁ、戦ったりしなくていい人なんです!」

特に今回は女じゃないのぉ!とは言わないままで、美代が澪に懇願していく。

「あなたたちが誰で何なのかは分かりません。
 でも物の怪退治をしているなら、お願いです!
 勇也を巻き込ないで下さい!」

雪は支えながら美代の身体が熱くなっていくのを感じていた。

「強

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思慕一途柳問答 4

「ぐすん、、痛いよぉ、、」

「だから言ったのですよ。貴女には不向きだと。」

「ぐすん、、ですが、私は妻です。旦那様の仇を取る
 のは当然の行いで御座います、、痛いぃ、、」

「そうは仰られましてもね、、それを使いこなすには
 鍛えられた強い精神が必要なのです。現に物の怪は
 実体化しておりますまい。」

「されど、されど!私の力とはなっております故、全
 くの不向きとは言えませぬ!うっ!痛いぃ

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思慕一途柳問答 3

「また、あの男かい?」

「つくづく物の怪に縁があるんでしょうなあ。」

「馬鹿な男かと思ったけどねぇ。それでも何度も首を
 突っ込んで、生きてるんだよ。何だってんだい?」

「勇さんは、、何ですかね、妙な運がある男なんでさ
 ぁね。死んだ親父さんから受け継いだ人足たちを、
 ああも纏め切るなんざ、正直誰も思っちゃあいませ
 んでしたぜ。」

「ふーん、、あんたも妙に信じてるじゃないかね。
 さて

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思慕一途柳問答 2

「勇也ぁー!大丈夫!?」

流園と勇也の元に傘を差した美代が駆けて来た。

「ああ!また物の怪だぜ!」

「えっ!?またぁー!」

「ありゃあ、何だ?首の長くてウネウネした奴?」

「ろくろ首で御座んすね。」

「あーそうだ!あの女ろくろ首だ!」

「女!?今度は女なの?ダメだよ!勇也!」

「へ?何がよ?」

「女の相手はダメだって言うの!」

「いや、相手って物の怪だぜ!?」

「もう女に関わ

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思慕一途柳問答 1

江戸の町には人足たちが住む長屋がある。
仲間同士で寄り集まって暮らす小さな部屋がズラリと並び、側には川がある。
川の水がまだ井戸の変わりをしている。
その川の前を歩いて行くと大きな柳の木がある。
枝垂れた葉は全て落ちているが、江戸の恋仲が約束の場所に定めるのは冬になっても変わりはしない。

顔立ちの整った一見女と見間違える男が、この柳の下に現れる様になったのも、寒い冬になってからの事であった。

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第二話 あとがき

天空凧揚げ合戦
いかがでしたでしょうか?

まほろば流麗譚の世界観が伝わっていたら、幸いです。

今回は勇也と美代の件が少なかったので、少し重かったかもしれませんね。

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綺麗にまとまるお話は理想です。
ただ僕はあまり考えていません。

その瞬間、その瞬間にインスパイアされて思い出される光景や言葉。

そんなものが、その瞬間まで信じていた考えをガラ

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天空凧揚げ合戦 13(完)

「儂が欲しかった物は貰った。」

「ああ?」

「お主の左手に握られた、これよ。」

半蔵はその手にした、秋月草太の左拳を見せた。

「な!」

慌てて見ると、草太の左手には拳が無かった。
血は流れてはいない。
斬撃があまりも早く鋭かったのだ。
まだ身体も脳も自身の異変に気付いてはいない。

「この珠よ。」

半蔵は拳を無理に開き、珠だけを取り投げ捨てた。

「この野郎!俺の手を!」

顔を真っ赤

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天空凧揚げ合戦 12

動けば動く程、天狗が布に包まれていく。

「やったぜ!落ちやがる!」

「天狗が、、落ちる、、」

勇也と共に雪がその姿を見つめている。
あの天狗が、、兄貴の仇の天狗が落ちる。

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「舐めるなよ!伊賀者共があー!!」

月夜に何者かが吠えた。
何かが飛ぶ音がする。
木々の間から幾つかの呻き声がした。
そんな声がした枝のひとつに人影が立った。

「俺

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天空凧揚げ合戦 11

林道の出口が近づくと、大きな松の木がほぼ平行に並んでいる。
その松を過ぎると、巨大な蛇の腹の中みたいな道が終わる。

そこを抜ける事は、江戸から吐き出される事だ。
暗闇から広い世界に投げ出される事だ。
身の安全の欠片も無い、戦さ後の世の中。
食うに食えず彷徨う者たちの根城。

だが雪はその世界に光があるのを知っていた。
あんなに辛くて江戸に来たのに、木々に遮られていた光が溢れると喜びを感じた。

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