(冷蔵庫をあけては不可ませんと言われていたから、ぶぅんと鳴る熱い側面に膝の裏を押し当てて、あせもをなぐさめていた)夏。 耳の方から膨れていくみたいなゆううつをぐりぐりと力任せにスピログラフに巻き取っていく。 ねむたい歯車がながれてゆきます/お弔い/昨日しかたなくそうじきでみぃんなおかあさんが吸い込んだ子カマキリたちの/透明のからだになって/あの、のぼっていく/あれはね/違う/はずむ/きょうないてごめんなさいおかあさん 、もうしません。 ぼおやりと宙をながめると、 せかい
白昼堂々 、って、ことばが似合う、やさしいむかしむかし。 骨の白の月と薬指の爪のもらい星。 にげろ、にげろ、 耳鳴りが降ってきた。 日差しがちりちりと髪を焦がしてゆくから、春と夏の境目に印画された影になった気持ちがする。 熱い風が耳を遠くする。 カラカラと溺レる。 月曜日って、ゆくところがない。 大きな公園も図書館も動物園もアクアリュウムもみんな、おやすみ。 凍ったゼリィみたいな目をしたウサギが、かろかろに顔を出して、大きな動物に淋しさを滴下してゆく。
夢のなかで泣くはずだった感覚だけを残して始まってしまった一日は 治療したての虫歯みたいだ。 という、ろまんちっく。 ふ、ふ、 ゔぃおら ゔぃおろん ゔぃおれった 簡単にこぼすわけにはいかない泪の、生まれ損なった幽霊たち。 あれもこれもわたくしが悪いなんて、欲張りにも程がある。 水が飲みたかったんだから、億劫がらずに、起き出して、真夜中の冷たいフロォリングを踏みしめて、息を潜めて、きしりと蛇口を捻って、青いグラスに水を注いで
真夜中の空気をそろそろと撹拌する。 指先がどこまでもどこまでも宙に開かれていって、 海。 がくる。 うみってたとえばふやけた足の親指で、たとえばごいごいと縺れあった髪の毛で、たとえば膝の裏についた砂粒がきゅっと乾いていく感覚で、うぶ毛がきりきりと肌をひっぱる痺れで、 けれども、そのさきのさきに横たわるきんとした重たい水の《あを》をあたしは知らない。 おちてゆくゆすぶられるないているないて こんにちは、ゾエア 知ったかぶりっこはもうゆきます。
いのちのつぐないをついばみいかされる日々はもうおしまいです。 いいね。おままごとの子らのももいろが、にじんでゆく。 いろいろの雲がぐちゃぐちゃとならべられたそらに、 らせんをえがいてみなげしてゆくぎんいろの魚。 てのひらをあわせる、式日。 のどもとをすべりおちてゆく呼吸をなげく。 なにもかもが撫でゆるされたあしたがくるのだとしたら、 ゆうひの国であたしたちきっととりになってゆこうね。
てん、と、と、て、と、 と、と、と、と、 石ころの影が気になるんです。 踏み切りの赤の音がふと小さくなって、線路のきしみが追いかけてくる。 ね、かくれちゃおうよ。 しらない。 しらないわかりませんわかりません。あーあーあーあーあーあーあーあーあー。 おうちへ/かえろう。 Za-Za、と寄せてくるくらいそら。 きんとした夜のせなか。 の向こう側。 の、どこか。 の。 淋しさがぴりぴりと煮詰まってゆく。 さよならの飛行機とカシオペア、 白い息。
せかいが滲んで流れてゆきます。 蜘蛛の巣の中で、静かに静かにいのちが循環している。音。 雨季に身を寄せて震えるちいさい鳥たち。 雨いっぱいにかみさまはいて、困り顔をしていらっしゃる。 みずたまりを蹴散らしながら、さむい道を一心不乱に歩く。 (さかさまにころがってゆく、うちゅう) めぐるせかい かみさまのなみだ きえるせかいいのちはうまれる 青い道青い道青い道青い道 ゆ、ゆ、と呼ばれて顔を上げたら、 そこにはやさしいかたちのあじさいがひとつ、ころんと転がっているのでし
さよならの王国から拐ってきた鳥の名前よ。はいどらんじあ。 お星様、お星様。あーあーあーあー。鯨のお墓を受信しました。 ひとりぼっちのおさかなはしんこきゅうをすればはれつしてしまうのよ だれかいませんか。ごぅんと哭く海の底のことなど想って眠る。 ゆめのくにの菫の花はうなだれて代わりに泣いてくださる。ぽとり。 わたし、淋しくて淋しくて、淋しい。きっと動物園のカバより。 空中のプランクトンを追う遊び。退屈な土曜日の留守番。 色褪せたダリヤがぽとり、ないた空。ひとりぼつ
夏が始まる。空気がゆるゆると密度を増し始めて、そうなるともう呼吸でさえ、できるだけ熱を発さないように、そろそろと慎重な吐息に留めるしかなくなってしまう。 耳も目も塞がれたようになって、昼間の名残にぬるんだシーツを掴む爪先や、汗が気化してひやりとする臍、じわりと涙を含んだ眦の感覚が遠くなる。夜に、どこまでも広がってゆく、躯。 アオサギの甲高い聲と遠くの線路を揺らす、貨物列車のたたん、たたん。それから、細かくこぼれる、母音のつらなり。耳だけがどこか他人事のように、私と、その人を俯