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「みー君は、お父さんとお母さんの宝物だよ」

お父さんとお母さんは、いつもそう言って僕の頭を撫でてくれる。
だからね、僕もお父さんとお母さんが喜ぶことをしたいんだ。

勉強も頑張るし、お手伝いも頑張る。そしたらね、お父さんもお母さんも、
「みー君はすごいなぁ」
「みー君、ありがとう」
って言ってくれるんだ。それが嬉しくて、僕、何でも頑張っちゃう。

あとね、お父さんとお母さんは、僕が「欲しい―!」って言ったら、何でも買ってくれるんだよ。この前も、欲しかったゲームを買ってもらったんだ。

だから僕は、またお手伝いをしようとしたんだけど、お母さんの隣には妹と弟が、お皿洗いのお手伝いをしていて、僕がお手伝いできる場所がなかったんだ。僕がお手伝いをしたいのに。

「おい、のけよ! 邪魔だよ!」

僕は、妹と弟を押しのけて、ようやくお母さんの隣に立つことができた。これでようやく、お手伝いができる。よかった。

僕は小学1年生なんだけど、今日は席替えだって言ってた。今の席が気に入っていたのにな。
今の席は、真ん中の一番前の席。勉強するならここの席に限るよ。

「では、席替えをします。席順は黒板に書いた通りです」

席替えって、先生が勝手に決めるんだね。
黒板に書かれた僕の席は、廊下側の列の前から3番目の席。
あんな席じゃ勉強ができないよ。僕は勉強がしたいんだから、やっぱり前の席がいい。

僕は、新しく真ん中の一番前の席になったクラスメイトを押しのけて、自分が座った。
うん、やっぱりここが一番落ち着くな。

「こらっ。自分の席に戻りなさい!」
「いやだ。だって僕は、この席がいいんだもん」

その夜。先生が今日のクラスの席の話を、お父さんとお母さんにしたらしい。けど2人も、僕に対しては何も言ってこなかった。
ほらね。僕はお父さんとお母さんのたからものだから、何も言われないんだ。先生が間違ってるんだよ。

よーし、もっと頑張るぞ!

次の日。僕には大好きなお友だちがいるんだけど、その子が他の子と帰ろうとしているんだ。
僕はそれが嫌だったから、お友だちの服を掴んで引っ張っていたんだけど、間違えて押しちゃって、階段から落ちちゃった。幸い擦り傷で済んだみたいだけど、みんな僕が悪いって指をさして言うんだ。先生もやってきて、僕が悪いって言うんだ。

僕だって少しは……って思ってたけど、みんなで言うことないじゃないか!
もうみんななんて知らない!
学校なんか行くもんか!
みんな消えちゃえばいいんだ!!

その夜。今日のことは、もうお父さんとお母さんの耳に入っていると思う。けど僕は、2人のたからものだから何も言われないはず。席替えの時だってそうだったんだから。

「ねぇねぇ、お父さん。また欲しいゲームソフトがあるんだけど、買ってよ~」

僕がそう言うと、お父さんは僕の肩に手を置いて、お母さんは心配そうな表情で僕を見ていた。

「どうしたの?」
「みー君は俺たちの宝物だから怒っちゃいけないと思っていたけど、怒らないといけない。俺たちはみー君に正しく育ってほしいから」

その日、僕は初めて、お父さんとお母さんに怒られた。こんな2人を見たのは初めてで、僕はどうしたらいいのかがわからなかった。

翌日。学校には行きたくなかったけど、2人に「行きなさい」と言われて、仕方なく行ったんだ。それなのに学校では僕を見るなり、みんな僕を怒り始めた。

なんだよ、これ。
僕はお父さんとお母さんに褒められたかっただけなのに。

授業が終わって僕は、家に帰るなりすぐに、お母さんに飛びついて泣いた。今日はお仕事がお休みだったのか、お父さんも家にいて、泣いている僕の背中を撫でてくれた。

「みー君は、悪いことをしたかったんじゃなくて、お父さんとお母さんを喜ばせたかったんだよね」
「そうだよ。僕はいつだって、お父さんとお母さんに喜んで欲しいだから」

お父さんとお母さんがわかってくれたこと、僕が正直に気持ちを言えたことで、なんだか心が気持ちよくなった。
あんなにモヤモヤしてて、イライラしてたのに。もしかしたら僕、何かに意地を張っていたのかも。そう思ったら、ふとあることに気づけた。

「僕、悪いことをしたと思ったら、謝らなくちゃいけなかったんだよね」

僕がそう言うと、お父さんとお母さんは、僕の名前を呼んでギューッと抱きしめてくれた。

「そう、そうだよ。わかってるじゃないか。さすが俺たちの宝物だ」
「えへへ」

次の日。僕は階段から突き落としたこと、席を奪ったことを謝った。

「ようやく謝ってくれましたね。みー君の根底にある気持ちは、お父さんとお母さんに褒められたかったということだったんだね」

先生にそう言われて、僕は嬉しくなった。僕の気持ちをわかってくれたから。

そうだ。今まではお父さんとお母さんのたからものでいようって思ってたけど、みんなにとってのたからものも目指してみようかな。だってみんなからも褒められたいもん。

よーし、もっと頑張るぞ!

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