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 私は小児科医である。
 大学医学部を卒業する際、場合によっては、その後の研修医が終わる際に、内科や外科といった専門科を選択するのが一般的だ。私は子どもが好きで、子どもに関わる仕事をしたいと考えていた。だから私の場合は、大学卒業する際に「小児科」を専門とすることを選んだ。だが小児科というものは、とにかく手間のかかる科だった。これは、その科で従事しないと、分からないことかもしれない。手間がかかるということは人件費がかかることと同意だ。
 また子どもは症状をはっきりと言えない上に、病状が大人に比べると急速に変化しやすい。だからだろう。リスクが高い分野であると、同級生や先輩から諭された。実際自分もその通りだと思う。自分がしたい仕事と現実は違うのだと、自分自身を説得した。
 しかし、病院で赤字部門と叩かれる小児科で、孤軍奮闘している先輩を見て、やはりもともとの夢であった小児科医を目指すことにした。私の道はここにしかないと思ったからだ。とはいえ、やはり現実は厳しい。不採算の小児科は閉鎖や休止があいついでいる。
 少子化問題も、予想を遥かに超えて進んでいるというのもある。教育費や子育て支援等々の視点から、海外メディアは「日本は子どもが嫌いだから」「やがて日本は消滅する」と報道されたこともある。そう見られていることが悔しい。
 小児科の待合室に、ぐったりとしている付き添いのお父さんお母さんがいるのを見て声をかける。
「仕事を切り上げて来た。」
「これから夕飯の支度も掃除も洗濯もやることがいっぱいあるんです」
 子どもは国の宝。でも、お父さんお母さんも宝です。国が宝を大事にして、日本がたくさんの幸せな子どもで溢れますように。そう願っている。

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