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ライトノベルの賞に応募する(15)

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玄関の鍵は想像通り開いていた。父親の部屋のドアも、祖母の部屋のドアも開けっ放しだ。玄関には溢れんばかりの靴が脱ぎ捨てられている。僕はリビングのドアを開けた。奥には3人の警察官に取り囲まれた父親が床にへたり込んでいる。リビングの椅子には祖母が女性警官を前に座っていた。二階からミワの泣く声がする。部屋の中は何もかもがぐちゃぐちゃだ。
扉を開けた僕に警官が気が付く。父親を囲んでいた警官の一人が僕に向き直っていた。
「息子さんですか?」
「はい。」
「ちょっとお話聞かせてもらってもいいかな?」
そういうと、リビングから外の廊下に二人で出て、ドアを閉めた。
「お父さんは、いつも家族に暴力を振るうの?」
「えっ? 何があったんですか?」
「お母さんがね? お父さんが、お母さん殴るのはいつもなの?」
言っている意味が分からなかった。
「いえ、そういうことはありません。」
「そうなんだ…。」
「父親は…、母に暴力振るったんですか?」
「うん。そうみたいなんだよね。お母さんから110番があって、今僕らが来てる状態なの。わかる?」
「…はい。」
「お母さんはかなりひどい怪我をされてたから、僕たちから救急車を呼んだの。」
「さっき外で会いました。」
「じゃあわかるね?」
「はい。…あのミワは…。」
「妹さんだね? 妹さんはとりあえず、ご両親から離して、2階に行ってもらってる。」
「泣く声が…。さっき、妹の泣く声が聞こえたんです。」
「妹さんにけがはないよ。でもお父さんとお母さん喧嘩してびっくりしちゃってると思う。」
「はい。」
「君、名前は? シュウです。大森シュウ。」
「シュウ君? これからお父さんは警察署に行くからね。そこで詳しい事情を聞くから。」
「はい。妹は…。」
「二階に婦警さんと居るから、行ってあげていいよ。」
「はい。」
「怖がってるから、安心させてあげてね。」
「はい。」
僕はそう返事をすると、父親の方向は見ずに、階段を駆け上がった。ミワは自分の部屋に居た。
「お兄ちゃん!」
「ミワ!」
ベッドに腰かけていたミワを抱きしめる。ミワの目は赤く腫れあがっていた。
「ミワ…。痛いところはないか?」
「お父さんとお母さんがね!」
「わかった、わかったから。何も言わなくていい。」
ミワは僕に顔をうずめて泣いている。僕はミワを堅く抱きしめた。
婦警さんが立ち上がり、僕たちの方に来た。
「ミワちゃん、お兄ちゃん来てよかったね。」
ミワは返事をしない。
「あの…。何が…。」
「座りなさい。」
そういうと婦警さんは、僕たちをベッドに座らせた。婦警さんが僕たちの前でしゃがみこむ。そして話始めた。
「妹さんとお母さんがね、幼稚園から帰ってきたら、お父さんと口論になったみたいでね…。」
「母は今日仕事で、父親が迎えに行くはずでしたが…。」
「そうだったんだね。幼稚園に時間になってもお迎えがないから、お母さんに連絡が入ったみたいなのね?」
「父は行かなかったんですか?」
「そうみたいなの。それで二人が帰宅したところで、お父さんとお母さんが口論になって、お父さんがお母さんに暴力を働いたみたいなの。」
「っ…。」
「お父さん、アルコールが入っていたみたいで、お母さんが110番して、私たちが来てる状況なの。」
「はい…。伺いました。」
「お母さん、お怪我がひどくてね、救急車を呼んだのよ。」
「さっき外で…。」
「お母さんと話せた?」
「ほんとに少しだけ…。」
「じゃあ、お顔は見れたのね?」
「…はい。」
腫れ上がった顔をした、母の顔が浮かぶ。あれは全部父親が…。
「そういう状況だから、お父さんはこれから警察署で事情を聞くことになるのね。」
「…はい。」
「お父さんは、普段からお母さんや、あなたたちに向かって暴力をするのかしら?」
「父は…。口論はありましたが、暴力は今までありませんでした。」
「…そうなの…。じゃあ今日は限度を超えちゃったのね…。」
「っ…。」
僕はミワの頭を撫でながら、言葉が出なかった。
「ミワちゃんは、その一部始終を見ちゃったのよ…。」
「…ミワ…。あの…ミワに怪我は?」
「私たちが駆けつけて、妹さんは私と2階に上がって、一応全身を見せてもらったんだけど、怪我はないみたい。お兄さんがゆっくり見てあげてくれる?」
「はい。」
園服姿のままのミワの頭を撫でる。
「お名前は?」
「シュウです。大森シュウ。」
「シュウ君。あなたたち二人はね、これから児童相談所っていう所に行くことになると思う。」
「えっ?」
「お母さんは病院で、お父さんは警察でしょ? 保護者が居なくなるから、あなたたちだけでおうちに置いておくわけにいかないでしょ? おばあさんは?」
「祖母は認知症が始まっていて、日中はデイサービスに通っています。」
「そうなのね。おばあさんは多分どこかの施設に、一旦行ってもらうことになると思う。あなたたちは何歳?」
「年中と。小五です。」
「四歳と十歳かしら?」
「僕は11です。」
「そうなのね。あなたたちは未成年だから、ご両親から安全に保護する必要があるのよ。わかる?」
「家のことは、普段から僕がやっています。だから僕たちだけでも大丈夫です。」
「…。そうなのね…。これから児童相談所の人が来るから、詳しく聞かせてもらえるかしら?」
「…はい。でも、ミワと離れるのは…。できません。」
「大丈夫。ご兄弟が一緒に居られるようにしてもらうから、安心してちょうだい。シュウ君は今日はどうして遅くなったの?」
「サッカーの…。サッカーのクラブに通っていて…。」
「そうなのね。シュウ君はサッカーをやっているのね。」
「週に二回通っていて…。その日だけは、父が妹を迎えに行くことになっているんです。」
「そうなのね…。じゃあほかの日は、シュウ君がお迎えに行ってるのかしら?」
「…はい。…母は仕事で遅いので…。」
「お母さん、お仕事は遠いの?」
「母は、〇×病院で看護師をしています。」
「そうなのね、立派に働かれてるのね。お父さんは?」
「…父は不動産の自営業をしていますが…。最近はいつも家にこもりきりで…。」
「そうなのね。お母さんとお父さんはいつも喧嘩するのかしら?」
「母が夜遅くに帰ってくると、父と口論になることはありました。…でも暴力なんて…。」
「…。悲しいわよね…。大好きなお父さんがね…。」
「…。」
僕は肯定も否定もできなかった。僕は父が好きなのだろか…。
「一旦、私たちと一緒に、パトカーに乗ってもらえるかしら?」
「…はい。」
ミワはやっと泣き止んで、僕の胸に身を預けたままになっている。僕はミワを堅く抱きしめたまま、ミワの頭を撫でた。

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