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ライトノベルの賞に応募する(8)

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モモは灰色の男たちに皆が奪われた時間を取り戻す。僕の時間は灰色の男たちに奪われてしまっているのだろうか。毎日6時には起きて、ミワのお弁当を作り、家族の朝食を用意する。ミワと祖母が日中困らないように支度をする。自室にほとんど籠ったきりで、テレビを大音量で、掛け口を開けば怒号を発する父親の機嫌を損ねないようにする。4時までは友達とサッカーをする。週に2回は地元のサッカークラブに通うことを許されている。火曜日と木曜日。その日だけは父親がミワを幼稚園まで迎えに行く。先生に聞くところによると、いつも6時ギリギリなのだそう。
 僕は一年ぶりにモモを通して読んでみようと思った。去年読んだ時には気が付かなかった何かに気が付けるかもしれない。朝読書の時間に、図書室でモモを借りてきた。去年と同じオレンジの枠で縁どられたモモの本。このオレンジを見ると、モモを思い出す。借りるときに書いた図書カードの裏面には僕の名前があった。その後に7人ほど名前が続いている。教科書に取り上げられているから、読む人も多いのだろう。この中の何人が最後まで読んだのだろうか…。図書室で本を借りると2週間の期限がある。あんまりおもしろくない本だと、僕も途中であきらめて、そのまま返してしまうこともある。それでも朝読書の時間は貴重だ。一年生から続くこのわずか20分ほどで、僕も本を読む面白さに気が付いた。本の中には、無限に世界が続いている。作者の言葉に乗せて、僕は頭の中に自由にその世界を作り上げることができる。漫画では、絵を見ていろんなことを思い描く。でも主人公の顔も、物語の舞台も、わかってしまう。本はわずかな挿絵があるのみで、別にその挿絵に従わなければいけないわけではない。僕の頭の中で物語の世界を勝手に作り上げることができる。主人公の顔も髪型も背格好も、サブキャラのそれも。それが僕は好きだった。頭の中に僕だけの王国を作り、どんな人が、何を着てどんな家に住んで、どんな食器を使って、どんな風に生活して。物語に絵描かれていない細部を自分で勝手に想像して、その世界に自分が居たらどんな行動を取るだろう。どんな服を着て、どんな友達を作って、どんなものを食べて、どんな話をするだろう。その世界でどんな風に生きるだろう。僕の性格は今と同じなのだろうか。それとも環境が変われば考えることも変わるのだろうか。僕の頭の中は物語の世界で無尽蔵に拡がっていく。僕は本を読んでいるときだけは、何もかもから放たれて、真っ新な状態で、その物語に身を置くことができた。

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