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ライトノベルの賞に応募する(18)

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着いたのは不思議な建物だった。普通の人が住む家よりはずっと大きく、ビルというには小さい。表札も、なんの看板も立ってなかった。入口の前に、重そうな引く形の門がある。学校の門を小さくしたみたいだった。車に乗せられてどのくらい走っただろう。一時間は経ったんじゃないかと思う。時間の感覚があまりない。イレギュラーなことが起きると、時間はこんな風に過ぎていくのか…。ミワは僕の膝に頭を乗せて寝てしまっていた。
車が停まって、降りるように促される。僕は一旦先に降りて、ミワを抱きかかえようとするが、完全に寝ているミワを抱きかかえるのが難しい。運転をしていた松波さんが僕に変わって、ミワを抱きかかえてくれる。ミワはぐっすり眠っていた。
高梨さんがインターフォンを押すと、門が勝手に開いた。自動なのだ。階段を三段ほど上がって、玄関に入る。玄関には暖かい明かりと、二人の女の人が笑顔で出迎えてくれた。
「シュウ君ね! さあ入って入って!」
そう促されると、僕の後ろで「ガチャッ!」っと大きな音がして、扉が閉まった。靴を脱いで、勧められた子供用のスリッパを履く。
「まぁ、靴揃えて偉いのね! ミワちゃん寝ちゃったのね…。先に寝かしに行きましょう。」
そう言うと階段を昇ったので、僕も後に続いた。一つの扉を開けて電気をつけると、僕の部屋より少し少し広い部屋に、両サイドにベッドと勉強机が2つづつ並んでいた。
「ミワちゃんのお洋服のサイズわかるかしら?」
そう僕に聞きながら、ミワの襟物のタグを見ている。
「ちょっと待っててね!」
そう言って、扉から消えた。ドアの外では高梨さんと出迎えてくれた女の人一人が話し込んでいる。
ベッドに寝かされたミワの顔をそっと撫でる。松波さんは静かにその様子を見ていた。
「お待たせ。」
そういうと下着とパジャマを抱えた女性が戻って来た。
「お着換えしようね。」
寝ているミワに優しく語りかけると、ミワの園服から脱がしていく。
「おむつは外れてるのね。」
「…はい。」
僕はただその様子を目の前で見ていた。服を脱がせると、ミワの体を子細にチェックしている。僕がそれを不思議そうに見ていると、
「ごめんね。決まりだから。」
そう言って、ミワの体の上体を起き上がらせて、座るみたいな姿勢にして、背中もお尻も全部確認している。
「怪我はない。よかったよかった。」
独り言のようにそういうと、下着とパジャマを着せて行った。
「もうぐっすり眠ってるし、お風呂は明日にしましょうね。」
そう言うと、掛布団をミワに優しく掛けた。
「私しばらく様子見てますから…。」
松波さんがそういうと、女性は僕に立ち上がって部屋を出るように促した。
通された一階の部屋にはいくつもダイニングテーブルが並んでいて、食堂みたいだった。
「シュウ君、晩御飯食べた?」
女性に聞かれた。そういえば何も食べていない。
「…いえ。」
「レトルトで申し訳ないけど、用意するね。アレルギーはない?」
「はい…。」
そう言って一人奥の方に消えた。新しく電気が付く。きっと調理スペースなのだろう。
「シュウ君、座って。」
促されたテーブルの椅子に腰かけると、向かいに松波さん、僕の左側に女性が座った。
「はじめまして、荒井です。ここはね、児童相談所の緊急保護施設、って言われてるところなの。」
「さっ、お茶でも飲んで。」
松波さんが僕の前に置かれたコップを勧める。
僕はそれを手に取ると、口をつけて一口飲んだ。気が付いていなかったが、のどがカラカラに乾いていた。飲み込むのに少し苦労するが、それが喉の奥に消えると、もっと飲みたいと思った。コップに注がれたお茶を一気に飲み込む。松波さんがボトルから新しいお茶を注いでくれた。僕は二杯目も一気に飲み込む。それで僕は少し落ち着いた。
「松波さんも召し上がります?」
キッチンから声が掛る。
「じゃあ、いただこうかしら。」
松波さんが答えた。
「警察の方からね、とても仲のいいご兄弟だから、一緒の部屋にってリクエストがあったの。」
荒井さんが微笑みながら、話し始める。でも、やっぱり目の奥が笑っていない。
「今日は大変だったわね…。」
僕は、コップに視線を落とした。
「今日はもう遅いから、ご飯食べて、お風呂入って、寝ましょうね。」
荒井さんが続ける。
「おまたせー♪」
もう一人の女性が、器を四つと、食パンを四つ切にカットしたものをお皿に乗せて持ってきてくれた。
「キャンベルのスープだけどね…。こんなものでごめんね。」
そう言うと、テーブルに配膳を始めた。
僕のスープの皿が一番大きく、僕だけ食パンもたくさん乗っている。手前にスプーンを置いてくれて、松波さんの隣に腰かけた。
「じゃあ、いただきます!」
荒井さんがそういうと、3人はスプーンに手を伸ばす。
僕もつられて、スプーンを手に取り、両手を合わせると、小さな声で「いただきます」と言った。
スープは白かった。クラムチャウダーだ。
食べるつもりなんてなかったのに、3人が口に運ぶから、僕もつられて、スープを口にした。
「おいしいね♪」
と食事を用意してくれた女性が笑いかけてくれる。
僕はなんだか、涙がこぼれてきた。泣くつもりなんてなかったのに。
荒井さんがテッシュの箱を僕の前に差し出してくれた。

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