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映画館のピンポン


その一瞬、館内のお客さんの何人かが、彼女の方を一斉に見た。

先日、映画館で「静かで熱いボクシング映画 『ケイコ 目を澄ませて』」を観ていたときの話である。

お客さんが一斉に見た「彼女」というのは、作中の「ケイコ」ではなく、、、1人の観客の女性である。

ちょうど主人公の家の中のシーンであり、スクリーンの中で、主人公の家のインターフォンが「ピンポ~ン♪」と鳴った。

その瞬間、1人の観客のお姐さんが、急に吐息のような小さな声で「ハッ!」と軽く叫んで、バタバタバタッ!と劇場の出口の方に駆けて行った。

ただし、彼女はそのまま劇場から出て行くことはなく、急に思い直したように、ゆ~っくりと自分の座席に戻った。

今日の午後、ふと「あれは、いったい何だったんだろうか?」と思い出した。

真相はよく分からないが、仮に夢うつつのまま、自宅のインターフォンと錯覚して、来客を出迎えに行ったのだとしたら、なかなかに面白い人だと思う。

(完)

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映画館の思い出

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