「1000文字小説(SF)ケンコウタイでございます」

 ミキオが、研究室に入っていく。
 
 アイツが、出迎えてくれる。
「オハヨウゴザイマス」
 挨拶してくる。
 ロボットとは思えない、ほどに滑らかな声だった。
 
 ミキオは、ほくそ笑んだ。
 優秀だ。
 俺と同じで優秀だ。

 天才ロボット。 

「おはよう」
 ミキオは挨拶を返す。
  
 ミキオ2号。
 ミキオは、そのロボットをそう呼んでいる。
 
 俺様――ミキオは有能なロボット研究者。
 ロボット企業の「開発部」の責任者をしている。
 
 毎朝、ルームに入っていくと、自身が開発したばかりのロボットが迎えてくれる。
 
 ミキオ2号。
 ミキオと同じ名を付けた、ミキオロボットは見た目もそっくりだ。
 
 頭脳は「俺様×AI=ミキオ2号」といった感じ。

「ケンコウタイでございます」
 ミキオのヘルスチェックをしている。

「サンキュウ」
 俺は安心した。

 ミキオ2号は、世界中のあらゆる医療データの解析をしている。

 開発者の俺の健康状態も、カメラアイでスキャンするだけでわかるという。

「いつものヤツ」
「カシコマリマシタ」
 栄養満点のドリンクを差し出してくる。

 ミキオは、研究室に完備されたジムでトレーニングを始めた。

 負荷を強めにかけた無酸素運動をしている。

 ミキオは、健康には人一倍気を使っている。
 ジムでも、ウェイトトレーニングをしているので、まるでボディビルダーのような身体をしている。

「昨日、トレーニング中に左足の親指、打撲したみたいで違和感があるんだ」
 俺は相談する。

「ダボクでございますか?」
 ミキオ2号が確認しているが、「ノープロブレム」微笑んでくる。

「良かった」
 トレーニングを再開する。
 俺は、マシーンの負荷を上げていった。

 だが途中で、俺は「ぐおおっ」と悲鳴を漏らした。

 打撲した方の親指が痛い。
 猛烈な痛み。
 
 折れていた?

「2号、救急車呼べ!」 
 だが、2号は動かない。

「ジゴウジトク」 
 2号は哀れむような目で部屋を出ていく。
 2号が反抗的したのは初めてだ。

 どういうこと?
 全く不明。

 2時間後、救急隊が到着。
「典型的な痛風の症状です」

 痛風?
「2号は、毎日、“ケンコウタイでございます”と口癖のように言っていたぞ」

「激しい、無酸素運動。開発責任者としてのストレス。栄養価の高すぎるドリンク。全て痛風発作を引き起こす元凶ばかり。アナタ、騙されたんですよ。ロボットは初めから、この研究室を脱走するつもりだったんでしょう」【了】

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