超こわくない話(ギャグ劇団笑)『カラオケボックスのゆーれい』
「このカラオケボックス。怖い話がある。だから誰も深夜の担当になりたがらない」
店長は言った。
カラオケボックスの研修を担当してくれている。
この24時間営業のカラオケボックスは、深夜アルバイトの募集が常にされていて有名である。
担当者がいなくて、店が潰れそうだという。
「夜。444号室で女の声が聞こえる」
「あの声を聞いたものは呪われる」
店長の声が震えている。
僕は、お寺の息子。フリーター。
後なんて継ぎたくない。
線香臭いのが嫌。何より正座をして長時間、お経をあげ続ける毎日なんて耐えられない。
僕は本当は怖がりだ。できれば見たくない。だが、お寺の息子なので見えてしまう。
そんなジレンマを抱えている。
今まで怖い幽霊に遭遇したことはない。
幽霊は寂しがり屋である。何か事情があって、世の中に出てきてしまう。そんな存在なのだ。
実家のお堂で遭遇するのも、怖がりの僕でさえ、笑い出したくなるほど滑稽な幽霊ばかりだった。
「444号室の幽霊は、このカラオケができる前、この土地で自殺した女の怨霊が消えないからだ。そろそろ帰る。外も暗くなってきたから」
店長は、勤務を終えるとさっさと帰っていった。
信じられないが、深夜のなり手がいないので、使える部屋を制限してアルバイト一人に任せて営業しているらしい。
そのうち、店内は無人となった。
女の幽霊の話は、近所でも知られてしまっているのか、客はほとんど来なかった。
深夜の2時がやってくる。
丑三つ時だ。
『ルルル……』
444号室から、インターフォンの呼び出し音がなった。
「はい受付です」
声をかけても、反応はない。
耳を当てると、かすかに物音が聞こえる気がする。
本当は怖がりの僕は、震えながら、いわくつきの444号室に向かった。
そっとドアに耳を近づける。
真っ暗な部屋の奥から「ぅぅうううううう……」と、むせび泣く声が聞こえる。
若い女だ。自殺した女の幽霊らしい。
「失礼」
僕は、おそるおそる扉を開けた。
女が背を向けて突っ立っている。マイクを握っているようだ。
「何してるのですか?」
僕は聞いた。
「みんな、怖がっているから。成仏してください」
「気にしないで」
「わたし生前、オンチだったの。あの世ではうまく歌いたいので練習しているの。あなた歌を聞いてアドバイスしてよ」
僕は夜明けまで、歌の練習に付き合う羽目になった。
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