見出し画像

雑誌の校了日

会社に入社して最初に配属されたのはある雑誌の編集部だった。
勤務時間は10時から6時だったけれど、朝出社したら同期の女性以外、誰も出社していない。呆然とした時に電話が鳴った。同期と戸惑いながら、恐る恐るその電話に出た時の恐怖を忘れない。何を訊かれるのだろう?
「〇〇さんはいますか?」
その電話は他愛のないもので、居ません、と答えるだけで済んだ。心底、ほっとした。
先輩の社員たちはお昼ごろ出社。夜中まで仕事するので、10時6時は全く守られていなかった。

校了(ゲラを最後に印刷所に渡す日)は、新入社員の私には、お祭りのように映った。夜明けまでかけて全部のゲラに目を通し、細かい修正をすべて終える。誤植がないように、行数がちゃんと合うように、それぞれの担当のページが点検されると、全員がすべてのゲラを回し読みした。終わるころには、白々と夜が明けている。
そんな徹夜作業の時、まだ校了まで間があり、作家の原稿を待っている先輩方が、小部屋で花札をしていた(毎月のように)。楽しそうに笑いながら、
「〇〇ちゃん、来い!」
と、コイコイをの札をばっとめくっていた。(ちなみに私はいまだにコイコイの遊び方を知らない。普通の花札はできるけれど)。
当時はメールなどなく、原稿はファックスで送られてきていた。ファックス受信の音がすると、勝負は一旦中止で、自分が待っている原稿か確認しにいっていた。

とにかく、まるで堅気とは思えない職場だった。少なくともまだ私が入社したばかりの平成元年頃は。(今はだいぶまともな会社に近づいたと思う)
先輩のデスクは書類や本がうずたかく積まれていて、その本の間から煙草の煙が立ち上っていた。パイプや葉巻を吸っている人もいた。
机の小引出しの一番下、ちょっと深くなったそこにウィスキーを常備していて、6時を過ぎると飲み始める人もいた(この時だけは10時6時の就業時間が守られていた)。懐かしい。そんな中で、私は作家に叱られつつ(なにせ先輩はなにも教えてくれなかったから)、楽しく、夢中になって仕事をしていた。
そんなころの歌。先日、うたの日に出したもの。

先輩が小部屋で花札やりながら原稿を待つ雑誌(ほん)の校了日
                   うたの日12月4日

♪をくれた人に、とても感謝しています。


この記事が参加している募集

今日の短歌

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?