始まりは、青。
東の空から昇ったばかりの太陽の光とともに、流れる景色を窓の外に見る。
まだ少しだけ、夜の空気を残す街は青みがかった光の中に浮かんでいる。
明け方の電車に揺られるのは,これが初めてではない。
受験戦争に敗れ、なんとか滑り止めの大学に入学したことがかなり前のことのように思う。今の大学が嫌いなわけではない。現に今日もサークルでの食事会と二次会のカラオケの帰り道だ。楽しくなければ二次会など進んで参加しない。
窓に映る自分を眺める。地毛より少し明るく染め、毛先を軽く巻いた髪。少しの肌荒れをパウダーで隠した顔に、リップをひいた唇。耳につけた飾りは、針が怖くて穴を開けていないためにイヤリング。制服を着ていたころの自分には、今の私は想像できないだろう。
建ち並ぶビルの群れに、同じような街並みを通り過ぎる。
ふと思い出したのは、青々とした田んぼのなかを駆け回っていた少し幼い頃の姿。
あの頃は、周りには必ず仲間がいた。幼い頃を思い出すと、同時に彼らの姿がちらつく。
彼らは今、何をしているのだろうか。
ランドセルを背負っていた頃は、未来の自分を信じていた。ただ、純粋に。
何も知らなかった私たちは、疑いもせず、未来を語った。
15歳の春、私たちはそれぞれの道へ歩き出した。語り合った未来を信じて。
彼らは早々に自分の道をつかんだ。
宙に浮いているのは、私だけ。
今も彼らは自分の道を探り、進み続けているのだろう。
窓に映る自分が、ひどく虚しく見えた。
人もまばらな電車の中に響き渡るアナウンスは、最寄りの駅名を告げていた。
明け方の澄んだ空気の中、低めのヒールを鳴らしながら、活動を始めたばかりの街で信号を待つ。見上げた空は、あのころの空より心なしか狭く見えて、慌てて視線を前に戻す。
いつからだろう。ただいまを言わなくなったのは。
青い陽が差し込んでいる部屋に戻り、インスタントのコーヒーを淹れ、デスクに座る。
不思議と思考ははっきりとしている。
頭から離れない、そう遠くはない昔の風景。彼らの姿。輝く純粋な笑顔。
コーヒーのマグカップを片手に、ベランダに出る。街はもう活動を始めた。
私は何をしているのだろう。何ができるのだろう。何をしたいのだろう。
このままでは、大きな波に、見えない波に流されてしまう。
何かを始めなければ。
変わってしまった私に、彼らの面影が笑いかける。変わってしまった中にも、変わらない何かがあるはずだ。
また1日がはじまる。
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