見出し画像

来週の相場見通し(4/11~4/15)

 ウクライナ危機は、ロシア軍がキーウから戦略的に撤退したものの、戦争はウクライナ東部や南部で継続している。キーウ近郊のブチャではロシア軍による残虐行為により民間人に多数の犠牲が出たことが明らかになり、欧米諸国はロシアの戦争犯罪を追及し、追加の制裁に動いている。欧州は人権問題には目をつぶれない特性を持つ。ブチャの非人道的な戦争犯罪は氷山の一角であろう。今後、より非人道的な状況が徐々に明るみに出ることが予想されるなか、欧州はロシアへのエネルギーに対する全面的な制裁に踏み切らざるを得ないと思われる。ただ、その決断は政治的にも経済的にも安全保障の観点からもリスクを伴うものだ。

ここでドイツの期待インフレ率のチャートと、米国の期待インフレ率のチャートを見てほしい。

(ドイツ期待インフレ率)


(米国期待インフレ率)

ドイツの期待インフレ率はどんどん上昇している一方で、米国の期待インフレ率は頭打ちになっている。期待インフレ率は、市場の中央銀行に対する信頼度である。市場は、FRBがここまでタカ派になれば、インフレは抑制されると見込んでいる一方で、欧州についてはウクライナ危機により、ECBが景気後退とインフレに挟まれて、結局はインフレをコントロールできないシナリオを織り込んでいるということだろう。ラガルド総裁が、ECBの金融政策でタンカーを増やすことはできないと言っているように、ロシア産のエネルギー依存から脱却することの痛みを、金融政策で対応することは不可能なのだ。

ロシア軍の今後の動向は不明なものの、現状の状況はプーチン大統領が戦争を終結できるような戦果に乏しい。ラブロフ外相も先般のトルコにおけるウクライナの和平提案について、「容認できない内容が含まれる」として拒否する姿勢を見せた。また、キーウからの撤退に関しても、ロシア軍は多数の地雷を敷いた。報道によれば、新型の人感センサー付きの地雷が使われており、安全に撤去する場合にはロボットで行う必要があるとのことだ。停戦をする気があるなら、こんな撤退の仕方をするだろうか?撤退作戦で脅威なのは、ウクライナ軍がロシア軍を追って攻撃することだが、ウクライナにはロシアを市街戦で迎え撃つジャベリンのような対戦車砲は十分にあるものの、ロシア軍を追いかけて撃退するような兵器は乏しい。つまり、ロシア軍の地雷を敷いた撤退作戦は、通常のロシア軍の作戦ではあるものの、安全に逃げるためというより、ウクライナ軍を回復させないための地雷ではないだろうか。キーウからの撤退は、単にロシア軍のプランBの一環で、軍を再編して戦争を継続するためのものと考えるのが普通だろう。さて、そのロシアでは
最大の祝日である大祖国戦争の勝利記念日の5/9が注目されている。この日に勝利宣言や祝勝パレードは難しくとも、プーチン大統領は何らかの演説を行うだろう。それまでに、プーチン大統領が軍備を再編した上で、更に激しい攻撃を行う可能性が高いと目されている。


そんな中、国連人権理事会において、ロシアを追放することが決まった。賛成93ヶ国、反対24ヶ国、棄権58ヶ国という投票結果であったが、はっきり言ってこの状況化で棄権する国は、実質的には反対としてカウント可能だ。そうなると、ロシアのあの非人道的な状況を突き付けられても、世界の半分はロシアを擁護しているということだ。
フリーダムハウスが行っている自由度調査によれば、世界では自由な国が年々減少し、権威主義的な国が増加している。(下図)恐らく経済規模では民主主義諸国が圧倒ているだろうが、人口では権威主義的な国々が多いかもしれない。これが今の現実の世界なのだ。

(自由度調査)

米国議会は、ロシアとベラルーシの最恵国待遇を取り消すための法案を上院は全会一致で可決した。下院でもほぼ全会一致である。西側は必死になって制裁強化を急いでいるが、やはり世界で一致した対応とはなっていない。米国は苛立っている。特に中国やインド、中東のロシアとの貿易取引継続姿勢には悩まされているだろう。いつの間にか急落したはずのロシアルーブルも回復している。下のチャートは、ユーロとルーブルのクロスレートだが、ウクライナ侵攻後の急落を全て取り戻している。史上最大の経済制裁がロシアに課せられており、その影響はロシア経済に大きなダメージを与えているものの、米国が期待したほどではない可能性が高い。現在、マーケットではロシア中央銀行には引き続き、フローとして潤沢なエネルギー輸出の代金が支払われており、その規模はロシア国債の支払いを十分に賄えるし、戦費としても問題ないのでは?と言われている。

(ユーロ・ルーブル)

懸念はそれだけではない。ウクライナ危機の最中に、ハンガリーで国民議会選挙が行われたが、親プーチンのオルバン首相率いる与党が圧勝した。野党は共闘したものの、選挙前より議席数を減らした。またセルビア大統領選挙でも、親ロシアの現職のブチッチ氏が勝利した。こうした流れを受けて、4/10のフランス大統領選挙が警戒されている。実際にルペン候補が追い上げており、ドイツとフランス国債のスプレッドは拡大している。ハンガリーなどの国民はロシアに厳しい対応をして、エネルギー高騰等により生活が苦しくなることを回避したい意向が強かったと思われるが、今後のEUの結束を難しくさせるだろう。これは、かなり面白い動きだ。すなわち、ロシアがウクライナ侵攻をした後、初期の段階では各国の首脳陣は支持率を高めた。マクロン大統領も何度もプーチン大統領との交渉を行い、その姿勢はマスコミで報じられることから露出も増えて、支持率上昇に繋がった。フランス大統領選挙で言えば、この時点で「ウクライナ危機でマクロン再選は確定」と思われた。しかし、ウクライナ危機が長期化して、エネルギー価格の高騰が欧州の市民の生活に圧し掛かってくるなかで、いつの間にか「この生活苦をなんとかしてくれる政治家は誰だ?」という点にシフトしたのだ。ルペン氏は、その昔はEUからの離脱を公約にして、ユーロからフランに戻ることを目指していた政治家だが、一貫して「エリートを倒して、庶民に寄り添う」という分かりやすい政策を掲げてきた。今回の大統領選で言えば、富裕層に高い税金をかけて、庶民は大幅減税をするというものだ。ウクライナ危機が生活に影響が出る中で、ルペン氏がまさかの追い上げをしているのだ。マクロン氏がエリートであることも逆風となってきた。しかし、あのフランスにおいて、このタイミングでルペン氏が勝利することはないと信じている。ルペン氏はEU離脱の公約は現在は取り下げているが、NATO離脱は依然として公約である。メルケル首相が引退した欧州の、この難しい局面で欧州を分断させるような激しい変化を国民は、最後の最後では避けるだろう。これは、コロナの発生により、米国大統領選挙でバーニー・サンダース氏の勢いが失速したことが先例だ。混乱の中では、革新的、急進的な政治家は最後は倦厭されるのだ。そう市場も信じているだけに、仮に4/24の決選投票までにルペン氏がまさかの勝利の可能性が高まってくると、欧州株だけでなく、先進国の株価は大きく動揺する可能性があるだろう。

新興国の債務状態も要注意だ。スリランカはデフォルト不可避の状況でIMFへの支援要請を模索しているほか、パキスタンでもデフォルト懸念が高まっている。エジプトも外貨不足が深刻化し、IMFに支援を要請中だ。ウクライナ危機の二次的影響により、新興国の中には今後もかなり厳しい状況に追い込まれる国が出てくるだろう。トルコもロシアとウクライナの停戦の仲介などしているが、トルコの3月のインフレ率は61.1%で過去20年で最高水準。コア指数でも48%、食料品価格は70.3%上昇し、PPIは115%上昇とめちゃくちゃだ。トルコの実質金利はマイナス47%だ。こんな状況で、よく仲裁なんてしているなーと感じる。

さて、米金利については一段と上昇基調を強めている。FOMC議事要旨では、量的引き締めについて、米国債600億ドル、MBS350億ドルの上限額を設定してバランスシートを縮小させる方向性が示された。またバランスシートが縮小したあとに、MBSを売却して米国債中心のポートフォリオに移行することなども議論されていた。これだけ、詳細が詰められているなら、パウエルFRB議長は3月のFOMC後の記者会見で、もっと情報提供できたはずだ。しかし、敢えてしなかった。利上げやドットチャートにおけるタカ派転換とセットでQTのリアルな話までしてしまうと、マーケットがクラッシュする可能性があると考えたのだろう。マーケットの利上げの織り込みがFOMC後に十分進むまで、市場に知られたくなかったと思われる。また、FOMC議事要旨発表の前日にブレイナード氏がほとんどリーク的な発言で地ならしを行う入念さだ。ブレイナード氏の講演での発言はスタンドプレーではなく、連携プレーだと思う。

さて、いずれにしても2年半で2.6兆ドルのバランスシート縮小ペースと目され、前回の2年で0.7兆ドルよりもかなり積極的であり、米国債のリスクプレミアムを高める可能性がある。 FRBによる積極的なQT姿勢を受けて、イールドカーブはスティープ化している。来週の3年、10年、30年債の入札次第では、米金利が一段と上昇する可能性があるだろう。しかし、株式市場にとっては、未だこのQTペースを織り込む作業中と思われるものの、来週の米国債入札が終われば、もう完璧に織り込むだろう。株式市場はFRBの利上げを織り込み、まだ情報不足で織り込めなかったQTについても、これで消化することになる。ここまでくると、もうFRBの動向は怖くない。米長期金利が無秩序に上昇する展開とならない限り、徐々に堅調さを取り戻し、来週以降の決算発表に集中して取り組めることになると予想している。

但し、米実質金利が急上昇している。過去においては短期間に実質金利が50-60bp上昇すると、米国株は大きく売られるケースが多かった。しかし、今回は既に80bpも上昇し、しかもその水準も久しぶりにプラス圏まで浮上しそうな領域(▲0.19)まできている。それでも、米国株はそこそこ耐性を強めているように見える。このことも、株式市場がFRBを怖がらなくなっている一つの兆候かもしれない。

(米国実質金利)

北朝鮮は今年に入りミサイル実験を頻繁に行っているが、先般はICBMの発射に踏み切った。4/15は金日成生誕110周年にあたることから、核実験再開など一段と強硬な行動に出る可能性もある。我が国の安全保障改革は待ったなしの状況である。核実験まで始めると、市場もさすがに動揺する可能性が高い。

さて、岸田政権が誕生して半年が経過するが、海外投資家の月間の日本株売買動向(現物と先物)では10月こそ買い越しとなったが、それ以降は売り越しが継続している。3月は先物だけは1週目~4週目までに約1.3兆円の買い越しとなり、少し話題になったが、5週目に1.2兆円弱の売り越しとなってしまった。結局、現物と先物の合計では、月間で1.1兆円以上の売り越しとなった。これは1月以来の大きな売り越しだ。

(海外投資家売買状況)

ちなみに、歴代政権の就任から半年後の日経平均の状況は以下のようなものだ。麻生政権はリーマンショックの真っ只中なので、比較としてはふさわしくないかもしれない。5月から6月は、外交では日米首脳会談、クアッド首脳会談が予定されているほか、内政では緊急経済対策(4月末まで)や、新しい資本主義のグランドデザインが示されることから、海外投資家の日本株投資動向に注目したい。

(就任半年後の株価騰落率)

中国の証券市場から資金が流出している点は、今後しっかり見ていく必要がある。3月の純流出額は175億ドル(株式63億ドル、債券112億ドル)とのことで、2015年以降で最大だ。米国の利上げに伴う影響だけでなく、コロナ蔓延とウクライナ危機により権威主義的な国から投資フローが逃げている可能性がある。本来、そうであれば、その資金の受け皿はアジアの安定した民主主義国である日本の株式市場のはずだが、現状ではそうなっていない。むしろ、中国株のヘッジとして日本株が売られている可能性もある。今のところ資金の受け皿は、やはり米国株と豪州に流れていると思われる。
さて、来週だが徐々に決算発表がスタートする。先週末の安川電機のガイダンスは良好で、安川ショックで始まる可能性はないだろう。米国株は底堅くなっているが、来週は米国のCPI、そして一連の米国債入札、さらにはECB理事会など金利が引き続き注目となるだろう。米金利上昇が一服して、ナスダックなどのハイテク銘柄も反発となれば、日本株はそこそこ大きな反発が期待できるかもしれない。レンジとしては26,600円~28,000円を想定している。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?