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シニアに学ぶ『退職後の輝き方』第11回 中西利美氏『培ってきたアナログ技術の伝承』 

この記事は、2012年~2017年にかけて当委員会で連載されたインタビュー企画である「シニアに学ぶ『退職後の輝き方』」を再掲載するものです。インタビュー対象者のご所属等については、掲載当時の肩書のままになっていますので、ご留意ください。

三翠建設コンサルタント(株) 技術部長
中日本建設コンサルタント(株) 技術顧問
1949 年生まれ。東北学院大学工学部土木工学科卒業後、1971年中日本建設コンサルタント(株)入社。以後上下水道部門(上水道及び工業用水道)のコンサルタント業務に従事。2012 年に退職後、三翠建設コンサルタント(株)で業務に従事するとともに中日本建設コンサルタント(株)の技術顧問を務め現在に至る。
インタビュー日: 2014 年 7 月 22 日
聞 き 手 : 山田拓也,高橋麻理,菊地良範

再掲載に当たって(委員会より)
「働き続けたい一心でいた。」との言葉を聴き、黒澤明監督の「生きる」にある「他人の称賛や感謝を求めず、自分が成すべき事をせよ。」のセリフを思い出しました。女性の技術者が少ない時代、苦労も絶えなかったと思いますが、中西さんは先駆者として、女性が活躍できる環境づくりに貢献された。さらに、「土木施設は死ぬまで面倒を見る必要がある。」の情感には、技術者の覚悟と愛情が溢れています。その熱意が伝播し、周りの同僚が一緒に動いてくれた、のではないでしょうか。『土木』には人と人を結びつける側面があり、情熱を持って人と交わることで、自らも輝き続けることができる『場』ともなる、と改めて感じました。      (2023.6.26 M)

若手社員への技術伝承

どのような業務に従事されてきましたか?
 1971 年入社後、20 歳代の頃は官の委託業務としての上下水道、工業水道、河川、し尿処理施設の計画・設計に従事してきました。
 31 歳で技術士を取得した後は、主に上水道事業全般のコンサルタント業に管理技術者として関わってきました。
 定年間近の頃は、照査技術者としての業務が増えましたが、実質担当者として定年退職間際まで実務をこなしてきました。
 定年退職即再雇用後は、私が関わっていた業務の内容・特徴の伝授等について若手技術者と話し合って共に勉強しています。
 また2年前からは、三翠建設コンサルタント株式会社の技術管理者となり、若手社員の技術指導、技術の伝承等を行っています。

アナログ技術の伝承
 若手社員への伝承にあたり、これまで培ってきたアナログでの仕事の仕方の伝承を心掛けております。皆様も是非伝承して下さい。いざ鎌倉の時に、デジタルではなくアナログ的技術が役に立つと確信しております。ボタンをただ押すだけではなく、元の仕組みがどうなっているか、原始的な処置・考え方を若い人に伝えていく必要があると考えます。

上水道の技術者として

技術士取得により自信を持てた
 31 歳で技術士を取得した結果、一人で堂々と打合せに行けるようになり、自信を持って仕事に臨めるようになりました。その意味でも、自分の中では大きなターニングポイントだったと考えます。
 技術士取得は、それ自体が目的の「達成」ではなく、あくまでも経過地点であり、これから視野を広げるための「パスポート」だと考えています。

継続して働くことに対する社会的障壁は?
 女性技術者としてこの業界に飛び込んだときから、私も周りも初体験の連続であったと実感しました。当時は女性の土木技術者が殆どいない時代であり、事務員と間違われたことも多くありました。
 私が必要と思われることにより、働き続けさせるために制度(環境)が整えられてきたと思っています。子供の保育園の関係で、時間を区切ったり、内容を事前に示すこと等により打合せを早く終わらせるよう工夫したこともありました。他の出席者の理解を徐々に得ることができたことを記憶しております。
 私が働き続けたい一心でいたことが、周りを動かす原動力になったのかなあとも自負しています。現在では、当社にも女性技術者が10 数名在籍しています。

現在の職場で必要な経験、スキルなど?
 資格を有することも必要ですが、それ以外にも仕事から逃げない姿勢も大切と考えます。また、長年の経験を踏まえ業界の信用を得ていること、若者と一緒に仕事ができる柔軟さがあること、社会情勢を常に把握していること、業務委託場所の慣習・文化・歴史を勉強すること、等も大切と考えます。

人々に愛される土木施設を

現在の仕事を何歳まで続けたいとお考えですか?
 現在勤務する会社では任期満了まで責任を果たしたく思います。常勤はたまには辛くなることもあります。というのも忙しいときは苦にならないのですが、手持ちの仕事が無い時の過ごし方に戸惑いも覚えますし若い人に申し訳ないと感じることがあるからです。有難いことに現在は仕事があるので余り肩身の狭い思いを感じずにいます。 

技術伝承にあたり心掛けること
 世間的には土木という言葉があまり良いイメージで使われていないことがあります。しかし、人間が現在の便利な生活が営めるのも我々土木技術者が計画設計したものを安全に確実に施工する土木作業員のおかげであると誇りをもって語りたいと思います。
 常に自然と語り合いながら如何に人間や動植物の生命を守っていくか、土木技術を駆使し続ける必要があると思っています。人々に愛され、必要な施設の建設に心がける必要がありますが、一方で膨大な費用が投じられますので、設計時の初期の考え方を人々に常に認識していただく必要があることを伝えていきたいです。
 水関連施設も含め土木施設は人の為に必要不可欠です。それを使う人々のことを考え計画設計メンテナンスをしていただきたいと思います。子供と一緒で、産み落とされた土木施設は死ぬまで面倒を見る(育てる)必要があります。
 技術を使うのは技術者です。自分を磨き続けることと、愛を持ってこれら技術を使って欲しいと思います。人々に愛される土木施設は人々に大事に使われ、育まれ、安心感や癒やしまでも与え続けていると思います。

最後にシビルエンジニアの方々にメッセージを
 仕事に命を掛けてこられたシビルエンジニア(性別に関係なく)の皆様、長い間人々のために奉仕され続けてお疲れ様です。
 定年の数年前から、勤務先の定年後のプログラムとご自分の描いているプログラムを照らし合わせてご家族と話し合い、その時が来ても慌てないように準備される事をお勧めします。
 冒頭でアナログ技術の伝承について触れましたが、電力事情の悪い世界はまだまだ多いです。目まぐるしく変化した電子化に対応せねばならなかったわれわれ世代の能力は伝承に値すると勝手に思っています。
                         (文責:山田拓也)

【COLUMN】やる気曲線
 中西さんの、シビルエンジニアとしての人生を振り返った際に、上げ潮、下げ潮のような波がどうだったかを表していただきました。

【中西さんのコメントの一部抜粋】
 22 歳で入社し、指標となる先輩もいない中での船出で、31 歳で技術士を取得したことが自信につながった。
 しかし、40 歳頃は子育て・介護等でやる気はあっても時間的に制約があり、仕事は欲張らないことにした。
 54 歳の頃久々にときめきの仕事に従事し、がむしゃらに没頭した。
30 代の希望に満ちたやる気に比べると気持ち的には劣るが仕事のこなし方は優っている。
 幸いなことに、トータルでみてあまりアップダウンはなかった。

やる気曲線

インタビューを終えて(聞き手から)
中西さんとお会いしたときの第一印象は「とても若々しく元気な方」でした。私の両親と同年代とのことでしたが、10歳ぐらい若く感じました。色々とお話を伺っている中、若手社員と共にいきいきと働かれている姿を感じ、これが元気の源なのかなと思いました。
 また、お酒も大変お好きとのことで、「酒はうれしい時に飲むものであり、辛いとき・悲しいときには飲まない。」という話がありました。辛いとき・悲しいときこそしっかり直視していく姿勢を見習いたいと思いました。

委員会からのメッセージ
中西利美さんは、建設コンサルタントで女性技術者の先駆けのお一人として上下水道の設計に携わってこられました。定年後の現在も、関連会社で後進の指導を中心に業務に係られていらっしゃいます。早くに資格を取得され管理技術者として活躍された現役時代と定年後の仕事内容の相違など、技術者の退職後の参考になるようなお話を聞けたらとインタビューをお願いすることにしました。

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