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日本酒を紡ぐ

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愛してやまない日本酒への想い。
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ハッピーアワーのハシゴ酒

土曜日、桜木町の駅を出て野毛の飲み屋街を歩いてきた。行楽日和の三連休初日は、どこも軒先でジョッキやグラスを傾ける人で賑わっていた。 一軒目は、浜焼きのお店だった。無造作に網の上に乗せられて焼かれるハマグリと赤海老、名前も知らない大きな貝。赤海老の半身が焦げてきたところで、貝と一緒に上下を返す。パカっと開いてからは、磯の香りを漂わせながらぐつぐつしてるのをひたすら見守る。 貝殻から身が離れたら頃合い。海を閉じ込めたような旨味に唸りつつ、キンキンに冷えたレモンサワーを流し込ん

最近おいしかった日本酒をおいしかったなあと思い出してみた(夏)

飲んだ日本酒を思い出しながら、「おいしかったなあ」と書き綴るだけのnote。2023年夏バージョン(でも何故か夏酒はない)。 根来桜 山廃本醸造(和歌山)「ねごろざくら」と読む。春も過ぎ新緑が深まる頃、いつものお店で、竹の子と白魚を卵でとじたのと一緒に食べた。ぐつぐつ、あつあつの卵と合わせるのは、もちろんお燗。最高だった。 一杯目は常温で。思ってたよりは軽めの山廃かなと思いきや、お燗にしたら爆発的においしくなった。濃い旨味が軽やかさを纏って、ぽーんとジャンプした感じ。まさ

夏の宵のペトリコール

暑い日だった。袖を捲った腕にちりちりと差す日差しは力強く、無邪気だった。電車の窓から見える空の隅々まで、夏が広がっていた。 オフィスを出る時間がいつになく早かった。部活終わりの学生。夜の予定に向かうと思しきビジネスマン。普段と違う景色は、足取りを変える。一つ手前の駅で降り、いつもなら通り過ぎるだけの広場のベンチに腰掛けた。 喧騒とは無縁な駅前に、踏切の音が木霊する。テラス席と呼ぶのも憚られる屋外のパイプ椅子で足を組み、クレープを食べている初老の男性が目に入った。笑顔の理由

最近おいしかった日本酒をおいしかったなあと思い出してみた

日本酒について書こうとすると、つい力が入りがち。ゆるゆる思いつくままに書きます。呑むのも、書くのもゆるゆるがいちばんです。 大信州 別囲い純米吟醸 番外品 生(長野) 年明け、高校の同級生とこじんまりとした同窓会をしました。ぼくのnoteに度々登場する田中の出産祝いを兼ねて。会場は別の友人が働いているお店。このお酒は、そんな彼が田中への贈り物に用意してくれた一升瓶です。良いやつ。 別囲いは、その名のとおり、その蔵の通常の醸造工程とは別に手間暇かけて作られたお酒。ひと口飲

お雑煮diversity

楽しいことを書きたい。楽しいことと言えば食べることと飲むことだ。お正月に食べるといったらお雑煮。雑に煮てなんかいないのに、雑煮。 小さい頃は、お節があまり好きではなかった。 甘辛いのも小魚も苦手なのに、重箱の隅を毎年司る田作り先輩。二番手に控える安定の昆布巻きさん。味が濃いですつらいです。くわいは何だか全然よくわかんなかったし、数の子はこの世から消えればいいと思っていた。口の中で粒々に拡散する絶望のどこか謹賀新年なのだ。 べろべろだけは許せた。何それ。金沢では有名なハレ

富久長 秋櫻 が飾った門出  #お酒のひととき

今日は、広島県の今田酒造さんが醸す「富久長(ふくちょう) 純米吟醸 秋櫻(こすもす)」への想いを綴ります。今の時期のお酒ではないのだけど、何かと思い出深い。今日の二日酔いは浅い。 穏やかな吟醸香(華やかでフルーティな香り)に魅せられ、落ち着きあるほっそりとした旨味と、やわらかい酸の見事な調和に心安らぐ。あまりに芸術的なその味わいは、色付いた木々が秋風に揺れる夕暮れの景色を一足先に覗かせてくれるかのよう。 灯がふっと消え入るかのごとく儚く潔いキレは、辛口の一言で片づけるには

十旭日と太陽のトルティージャ #お酒のひととき

お日さまの料理を、お日さまのお酒で楽しむ。そんなマリアージュもあっていい。 最近、Twitterやnoteが黄色く眩しかった。そこらじゅうでトルティージャが焼かれていたのだ。HARCOさんのこちらの企画だった。 トルティージャって聞いたことはあるけどよく知らなかった。どうやらスペイン風オムレツのことらしい。うん、それならなんか食べた記憶あるぞ。じゃがいもや玉ねぎといったお好みの具材を入れて焼くだけ。なんだか見ているだけで元気の出てきそうな料理だ。 HARCOさんのnot

日置桜で寿ぐ正月 #お酒のひととき

お酒には物語があり、盃には思い出がある。音楽が記憶を呼び起こすように、酌み交わしたお酒にも確かな時間が宿っている。 ぼくはお酒と言葉を愛している。だからnoteを始めたとき「日本酒を紡ぐ」というマガジンをつくった。でもなかなか書くことができなかった。大好きな日本酒を綴った言葉が届かなかったり、届いたことでむしろその人を日本酒から遠ざけてしまわないか怖かったから。 でもこの夏、大好きな日本酒について紡いだ言葉が大切な人に届く喜びを教えてもらった。お酒は人と人を繋いでくれると

あなたを日本酒に喩えると?

人と人を繋いでくれる日本酒が、好きです。 今の部署に来た頃、飲み会で「わたしを日本酒に喩えるどんな感じ?」と質問を受けたことがありました。既に日本酒好きだとバレていたから。 少し考えて、こう答えました。 「酸がキラキラしてる鳳凰美田のこの新酒みたいな感じですかね…」 「やさしい包容力が、十旭日の特別純米のお燗並みだと思います」 そしたらまあ、えらく喜ばれたのを覚えています。それからしばらく、「わたしを日本酒で喩えてくれる人」と呼ばれました。嬉しかった。日本酒を好きにな

和えて、飲む #私の晩酌セット

でも今は敢えて飲んでる。これを書くために。 #私の晩酌セット のタグを見かけてから何か書きたいなあとかすかにほのかにゆるやかに思っていたら、最終日になってた。師走突入目前。どうしてくれるんだ。どうしようもない。 あ、いま飲んでます。七賢の甘酸辛苦渋。常備酒です。 地元山梨のお米を使い、軽快なタッチと滋味ゆたかな味を兼ね備えたこの蔵のレギュラー酒。四合瓶で千円を切る安心感。何年か前に蔵を訪れたときに買って、最近は都内のスーパーでも見かけるようになった。最高です。 大学生

グラスの音は時を超えて

キンとグラスを合わせる音が、ぼくらをあの日に連れていく。 お酒を飲むようになって10年余り。仕事でプライベートで、それなりの回数の盃を交わしてきた。浴びるように安酒を飲んだことも、おそるおそる高級酒を口につけたこともある。 景色ゆらぐ居酒屋の座敷、後ろのテーブル席の会話が気になる行きつけのカウンター、思いつきで友人と夜な夜な集まる近所の公園。ときには、誰にも(妻を除く)咎められない家のリビングで。 そこに、いつも乾杯があった。喧噪を切り裂くようなそれも、心の内を確かめ合

火入れだらだら系という原点回帰

そんなジャンルの日本酒が、確実に存在する。言うなればおふくろの味であり、お味噌汁である。 前回の記事に続き、またしてもごーださんの記事(下記)をきっかけにnoteを開いています。ごーださんありがとうございます。 前回の記事では、新酒、春酒、夏酒、ひやおろし、そして生酒を語った。ただ、これら以外にも日本酒の分類、ジャンル分けの方法はある。 醸造アルコールを添加せずに米と水だけで醸された「純米系」と、醸造アルコールを添加してある「本醸造系」。「吟醸系」はその名前のイメージの

文章を書くのは日本酒造りと似てる #呑みながら書きました

だって言葉も米も磨かないといけないから。 #呑みながら書きました に初参加しています。日本酒好きとして、唎酒師の端くれとして、呑むからにはお酒のことを書きたいと思ってたらこんなタイトルになり巻いた。 お供は、人生のお酒と言っても過言ではない「浦霞 純米吟醸 禅」。Twitterのアイコンにしてるお酒の写真dす(詳しくはこちらの記事参照)。 さっき撮ったこの記事のトップ画はは、宮城県にある浦霞の蔵元で買ったグラスです。いま、4合瓶(720ml)の口開けで、現時点で1合消費

新酒、春酒、夏酒、ひやおろし、そして

日本酒は、季節に応じた表情を持っている。 寒さの厳しい年の瀬に醸され、若々しさを楽しむ「新酒」。草木が芽吹くのと一緒に姿を現す、やわらかい陽光のような「春酒」。突き抜ける青空のように爽やかで、瑞々しく喉を潤してくれる「夏酒」。暑さの和らぎを覚える頃、角の取れた味わいで読書のお供に欠かせない「ひやおろし」。 多分、この4つが今は最もメジャーな分け方。「間酒」「寒前酒」「寒酒」といったものもあるようだけど、ただの呑兵衛が耳にする機会は少ない。 そんな日本酒の季節感について、