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新酒、春酒、夏酒、ひやおろし、そして

日本酒は、季節に応じた表情を持っている。

寒さの厳しい年の瀬に醸され、若々しさを楽しむ「新酒」。草木が芽吹くのと一緒に姿を現す、やわらかい陽光のような「春酒」。突き抜ける青空のように爽やかで、瑞々しく喉を潤してくれる「夏酒」。暑さの和らぎを覚える頃、角の取れた味わいで読書のお供に欠かせない「ひやおろし」。

多分、この4つが今は最もメジャーな分け方。「間酒」「寒前酒」「寒酒」といったものもあるようだけど、ただの呑兵衛が耳にする機会は少ない。

そんな日本酒の季節感について、今日ごーださんのこちらの記事を読んで考えたことがあります。


生酒は、日本酒の表情を豊かにした

江戸時代、寒さの厳しい冬場に仕込む「寒造り」(寒仕込み)が日本酒の伝統的な製法だった。

日本酒は、原料となるお米を微生物の力で発酵させて造られる。低温の環境は、発酵の邪魔をする雑菌の繁殖を抑えられるだけでなく、発酵自体もゆっくりと進むので、良質のお酒を醸すのに適している。

何より、秋になれば原料となるお米が収穫されるし、酒造りの担い手である農民たちの手も空く。所説あるようだが、10月1日が「日本酒の日」であることもお米の収穫時期と関係しているとされる。

しかしその後、冷凍・冷蔵技術が発達して、温度管理さえ徹底すれば季節を問わず良いお酒を造ることができるようになった。日本酒は四季醸造のお酒となった。今や、酒蔵全体を冷蔵庫のようにしているところもある。

技術の発展は流通革命を引き起こし、火入れ(加熱して発酵を止めること)をしていない「生酒」を呑兵衛たちの手元に届けた。

生酒は、火入れのお酒と違って躍動感があり、若々しい。微発泡を伴ったものも多く、時に暴れん坊で荒々しくすらある。冒頭で紹介した「新酒」は、生まれたての状態を楽しんでもらいたいという想いから、生酒として提供されることが多い。「新×生」という言葉の掛け算も、イメージがいい。

一歩進んで、最近は「無濾過生原酒」という形で出荷されるものも多い。文字どおり、生酒以上に生まれたときままの姿で出荷されるもので、そのお酒の個性がよりはっきり出ているということで人気を博している。

生酒は、日本酒のバリエーションをぐっと豊かにしてくれたと思っている。


移ろいを愛し日本酒を愛する

冒頭のごーださんの記事では、生酒を尊ぶ日本人について次のように書かれています。

より鮮度の良いものを、より生に近い状態で食べられるようにする。
そこに日本文化の思想が垣間見えます。極力手を加えず、純粋であり自然であるものを尊ぶような、そんな思想が生食から透けて見えます。
冷蔵庫が憧れの象徴として君臨したのは、日本文化の思想が具体化する非常に贅沢な家電だったからと言える。

冷蔵庫についてこの発想はなく、とても面白い一節だと思った。

ボジョレー・ヌーボー、生ビール、新たまねぎ。

「新」「鮮」「初」「生」が大好きな日本人は、その一瞬をできるだけ長く楽しませてくれる冷蔵庫にひときわ魅力を感じ、神器の一つとして奉ったという物語。三種の神器の中で冷蔵庫だけがワンクラス、いやツークラスぐらい格上に見えてくる。

「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」と山口素堂が詠んでいるように、日本人は四季それぞれの表情をずっと楽しんできた。初物が好きなのだ。

四季の移ろい豊かな日本では、新しい命が次々と生まれる。その儚い一瞬を大切にする精神が、生ビールや生酒に憧れる文化を育んだのかなとも思っている。それこそ、桜を愛でるのと同じように。

新酒、春酒、夏酒、ひやおろし。春酒や夏酒は最近になって巷を賑わすようになってきたけど、季節感を大切にしたいという想いが込められている。

旬の食材と合わせることで楽しみは倍増する。今これを書いていて、春酒でフキノトウの天ぷらを、夏酒でアスパラガスのマリネを食べたくなった。こうした日本酒の表情は、「そのとき」を一層楽しい時間にしてくれる。

生酒は、その表情にもう一つの変化を与える。季節という時間軸にはない、生まれたばかりという「そのとき」だ。

あらゆるローフードに言えることだと思う。だけど、四季の移ろいとともに嗜まれる日本酒の世界に新しい移ろいが交わることは、えこひいきかもしれないけど、他の何よりも鼓動を高鳴らせてくれる。



これからの季節、アルコール度数が低くて飲みやすい夏酒が出回ります。

爽やかで、瑞々しい飲み口のものが多く、日本酒を好きになるきっかけ作りにはもってこいの季節です。青空と新緑の下で、夏酒を注いだ江戸切子を片手にした日なんて最高でしかありません。

季節の移ろいを感じながら、お気に入りの日本酒で「そのとき」を楽しむ。最高です。また「最高」って言った。それぐらい、最高です。

ちなみにぼくは生酒だけを激推しする日本酒ファンではありません。冒頭の記事に出逢って、生酒に対して熱い想いを抱いてしまっただけです。火入れにも生酒にも、それぞれの良さがあります。どっちかというと、火入れ好きかもしれません。おいおい。


だけど今日は、ちょっと生酒の気分です。

一足先に、乾杯。

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