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お雑煮diversity

楽しいことを書きたい。楽しいことと言えば食べることと飲むことだ。お正月に食べるといったらお雑煮。雑に煮てなんかいないのに、雑煮。

小さい頃は、お節があまり好きではなかった。

甘辛いのも小魚も苦手なのに、重箱の隅を毎年司る田作り先輩。二番手に控える安定の昆布巻きさん。味が濃いですつらいです。くわいは何だか全然よくわかんなかったし、数の子はこの世から消えればいいと思っていた。口の中で粒々に拡散する絶望のどこか謹賀新年なのだ。

べろべろだけは許せた。何それ。金沢では有名なハレの日の郷土料理で、「えびす」とも呼ばれます。

出汁を引いたほんのり甘い寒天に溶き卵を散らし、羊羹みたいに棒状で固めてつくる。母方の祖母がそちらの出身だったこともあり、毎年必ずお正月に出てきました。派手さこそないけれど、食卓を穏やかなめでたさで包んでくれるやさしさがあります。

唯一、昔から好きだったのがお雑煮でした。おいしいよね、お餅。

大人になってから知りましたが、お節も然り、お雑煮は津々浦々たくさんの種類があるんですね。西は丸餅、東は角餅。おつゆに味噌を溶かす地域もあれば、お澄ましに近いところもある。具材のパターンに至っては百花繚乱。調べたことないけれど、本が一冊くらい書けそうな気がする。

妻の出身地である会津では、お雑煮の代わりに「こづゆ」を食べます。干し貝柱で出汁をとった温かいおつゆに、細かく切った糸こんにゃく、にんじん、里いも、お麩などがぎっしり入った郷土料理。地元の方は、雑煮と聞いてもピンとこない人もいるそう。ちなみにお餅は入ってない。たぶん。

我が家のお雑煮は、小松菜、なるとを入れたおすましにお餅を浮かべただけのシンプルなものでした。どの地域に由来しているのかはよく知らない。

いただきますの前に鰹節を少々。お椀から立ち上る湯気で鰹節が一瞬踊ったかと思うと、ふにゃりとお澄ましに沈んでいく。やわらかいお餅を箸でこれでもかと引っ張り、一枚しか入ってないなるとをまじまじ見つめてから、ぱくり。お節の箸休めにもなる薄味のお雑煮が、ぼくは好きでした。

食の多様性は、ゆたかさそのものだなあと思います。

ぼくは日本酒が大好きです。だいぶ減ってはしまったけれど、日本にはおよそ1,500に近い蔵元があり、その一つひとつが、誇りを持っておいしいお酒を醸しています。深遠な歴史と文化を兼ね備え、今や和食に限らず、幅広い味わいでどんな料理の伴侶にもなってくれる懐の深さ。そんな彩りのゆたかさに心を惹かれ続け、かれこれ十数年が経ちました。

日本酒もお雑煮も、地域ごとの顔があり、どれもがゆたかさを織りなす大切な1ピース。手元ではぼんやりしていても、遠くから眺めれば色鮮やかなタペストリーに見える。一つ減るくらいじゃ気付かなくても、続けばいつか煌めきを失ってしまう。あること自体に、意味がある。

お酒が好きになってから、食への興味がぐっと増しました。新年の抱負といってしまうと構えそうですが、今年は、お酒と料理にまつわるエッセイをもっと気楽に書けるといいな。



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