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量り売り→お客様が容器持参→プラごみ削減という仕組み


家業をあなたが継がなければならない


「量り売りじゃダメなのかな?」と母や姉、従業員の前で「思わずこぼれ出た」言葉がこれだった。
 考えに考えた末、出てきたアイデアでもなく、ただ目の前にある途方に暮れるような処理しきれない「モノ」を目の当たりにした結果、思わずその言葉がこぼれ出たのだ。喉の奥からごくか細い声で。
 その「モノ」とは、プラスティック包装袋や容器のことだ。父が1990年に立ち上げた会社は、私が入社を決めた2011年11月時点で設立21年目を突っ走っていた。仙台の老舗百貨店のギフトや、仙台の秋の風物詩であるオクトーバーフェストに毎年出店。この頃はほぼ「この時期になったらこの仕事」「この月はあのイベント」とルーティーンが決まっていた。それが当たり前になっていた。
 私がジャンボン・メゾンに入社する8か月前に、宮城県は東日本大震災に遭った。私はその時、仙台に住んでいて、全く別の仕事をしていた。実家の家業である、ハム・ソーセージを作って販売をする仕事は、父と母が中心となり、長女である姉が手伝いをしていて、従業員さんはアルバイトを含めると8人ほど働いていた記憶がある。
 東日本大震災の年、私はその時の仕事を退職する予定でいた。丁度40歳になる年で「二度目の成人式」からは本当にやりたいことをやる、と数年かけて密やかに準備をしていたことがあったからだ。しかし3月11日に、大地震が来てしまった。その大きな揺れの中で色々な感情が頭の中を駆け巡ったことをはっきりと覚えている。地震が起きて治まるその長いような短いような揺れの中で、私はこれから生きていく時間の使い方の事を同時に考えていた。考えていたというより「メッセージを受け取っていた」に近いような気がする。あるいは「誰かの声をキャッチしていた」がしっくりくる。
そのメッセージが「家業をあなたが継がなければならない。いよいよその時が来た」というものだった。

いよいよ「継ぐ時」が来た

ミニマリスト視線


残念ながら私が密やかに準備していたことは、その揺れでフェイドアウトしていった。それよりも先に着手しなければならないことが家業の事で、自分のやりたいことよりも先にやらなくてはいけない気がしてならなかった。入社したのは2011年11月1日。この頃はまだ気候変動がさほど気にならない、いつものような極寒の冬の始まりを迎える頃だった。とてもよく覚えている。寒かった。私は一通りの仕事の流れを、そこから数か月かけて覚えていくことになった。
そんな最中、強烈に印象に残ったのが、商品を包装するプラスチック製の袋や、イベントの時に使用するやはりプラスチック製の皿や、テイクアウト用の容器の「山の頂」だった。単純に「これ多いな」と思ったのと、これだけの量のプラを所有しなければいけない会社の現実に、単純に「うーん、嫌だな」と感じてしまった。なぜ、そう感じたのかは、私自身のライフスタイルや、それまでやっていた仕事がかなり影響していた。
私のライフスタイルは「ミニマリスト」である。ミニマリストとは「最小限の」という意味のミニマル(minimal)から派生した造語で、モノを出来るだけ減らし、必要最低限のモノだけで暮らすこという考えの人を指す。同時にジャンボン・メゾンに入社する以前は、仙台の宅配専門の生協、あいコープみやぎで環境担当の理事をしていたこと。これは私を形成する上では、かなり影響されている。環境問題に携わる委員会に所属していたので、仙台市のゴミ減量推進課や環境関連のNPO団体との交流も盛んで、意見交換や情報の共有は常だった。言ってしまえば「プラごみ」は削減したい派の方にいたのに、会社に入った時点で推進派にならなければいけなかった。
この大きな矛盾との戦いが、冒頭で書いた「ハムって、量り売りじゃダメなのかな?」に繋がっていく。 


パッケージに包むことで表示義務が生まれる


その頃の私の素朴な疑問に対しての答えは次の通り。
Qイベントで焼売りして提供したものは「表示しなくていい」のはなぜか。
A飲食店許可を取っていて、飲食店が客の注文に応じて弁当、総菜をその場で容器に詰めて対面販売する(テイクアウト、デリバリーを含む)場合や、ランチタイムなどの繁忙時に備えてあらかじめ販売見込み量を容器に入れて対面販売する場合、食品表示は必要ない。
これは製造者が消費者に直接販売することとなり、品質について説明できると考えられているためだ。ハムの場合、その場で「切る」行為は、調理行為とみなすので飲食店許可がある場所でないとオーダーカットはできない。なるほど。パッケージに包むということは、流通させるという側面と、製造者から商品が離れてしまうという側面から「表示義務」が生まれるというわけだ。確かに「アレルギー」の説明や「添加物」の説明は、製造している人でないと説明できない。その責任は確かに私にあるということを理解した。 今のジャンボン・メゾンの販売スタイルは、自分で店頭に立って説明しながら売るのではなく、商品を陳列して売るスタイル。例えばこのスタイルを変えたいとなれば、大幅なリニューアルが必要になる。
しかし既にルーティーン化されている時間軸の中で、大胆なリニューアルは不可能に近かった。「この時期になったらこの仕事」「この月はあのイベント」という一連の流れを遮るということは、経済活動も同時に止まるということ。理想に近づけるためには、何をするかではなく、何をやらないかが鍵になる。まず、流通させることと、店舗に置くことは今まで通りのスタイルでキープして、最低限の経済活動は続行したい。ギフトもしかり。この二つに関して包装容器は必要不可欠である。 
では、何をどうしたいか?

包装容器を持参してもらうのはどうか?


藤崎百貨店「アトリエ・ドゥ・ジャンボンメゾン」デビュー

コンセプトブックも準備した

2018年11月10日、仙台市青葉区北仙台にオープンした「紫山のごはん会分室」で、プライベート商談会を開催した。紫山のごはん会主催の佐藤千夏さんには、弊社の商品をいくつかプロデュースをお願いしたことがあって、彼女が手掛けるシャルキュトリーは全てヒット商品になっている。その彼女が経営していた「分室」を借りて、自分主催の商談会を開いた。自分が仕事をしたい人だけを招待する完全非公開の商談会である。 
この時、足を運んでいただいた方は以下。

・藤崎百貨店 バイヤー3名
・Planning Laboratory 渡辺小百理さん
・メゾン・レクラ 木村美枝さんとスタッフの皆さん
・仙台breadfes主催 まなちんさんとスタッフの皆さん 

ビッククライアントである藤崎百貨店さんと商談した内容は「ポップアップショップを藤崎さん会場でデビューさせて下さい」だった。 ブランドは、アトリエ・ドゥ・ジャンボンメゾンで、ブランドコンセプトは「旅するハム屋」「画家が新作を発表する個展スタイル」。この活動を通して、お客様が容器を持参することで、プラごみを削減すること。そしてオーダーカットというスタイル。お客様が欲しいハムと枚数またはグラム数を、お客様が決める。ただの買い物ではなく、自分の考えることや自分で決めることが許される場所であり、世の中が決めた常識と自分の正しい常識のズレを調整する場所であること。そこに「はっ、」と気が付けるように、私たちはハムを通して演出する。大切なことに気が付いてほしいために。 百貨店が演出する「特別感」とは、真逆の位置にある考え方だったので、バイヤーがどんな風に受け止めるか心配だったけど、将来性を見込んで答えは「やりましょう」だった。2019年4月4日~17日、藤崎地下1階の特別ブースで、オーダーカットハムの専門店「アトリエ・ドゥ・ジャンボンメゾン」のポップアップストアがデビューした。 その後、4月22日のメゾン・レクラさん一周年記念、5月1日のザルツさんの10周年記念で、オーダーカット会を開催、同時に地方番組と雑誌の取材を受けた。 
そしていよいよ6月、量りマルシェ仙台のデビューである。

オーダーハムカットでのディスプレイ

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