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精神をすり減らす人がひとりでもいる空間は、贅沢ではない


今日はにわか雨が降っていたのだけれども、配車予約していたタクシーの運転手さんが、私が乗り込むまでのつかの間、車の横で立って待っていた。綺麗にクリーニングしてある背広が濡れている。初老のおじいさんだった。

なんだかもう、めちゃくちゃ申し訳なかった。呼び鈴がなって、二階から玄関に行くまでに少し時間がかかってしまった。モタモタしている私に、心のうちでは怒ってるかもしれない。

「雨なのに、すみません……」と謝った。おじいさんは「いえいえ。では、扉を閉めさせていただきます」と言った後、バタンと後部座席の扉をしめた。




最近、「丁寧な接客」とは何か? ということを考えている。

接客というのはどの国においても、その土地柄を一番最初に表わしてくるものだ。また、ブランドの思想や、会社の社風を体現しているものでもある。


上述したタクシーの運転手さんは、間違いなく丁寧な接客をしている。しかし、私は申し訳ない気持ちになってしまった。眼の前の人がなにかに我慢している、というのは、自責の念が湧いてくるものだ。

ニューヨークで愛用しているライドシェアサービス、Lyftの運転手たちは、パーカーにスニーカー、暑ければタンクトップの人もいる。星5つのレビューが欲しいからとピカピカの車で水や雑誌を提供してくれる人もいるし、いやいや傷だらけやな? ってくらいに小汚い車でやってる人もいる。なんといか、マニュアルがほぼない。みんな好きにやっている。その車に乗るこちらとしては、それがすごく、気が楽なのだ。

かつ、そのフランクさは飲食店であれ、アパレルであれ、アメリカのお店を見ればある程度共通している。アパレルスタッフが、レジ横の椅子に座ってお昼ごはんを食べていたりするのもよく見る。それに日本にいても、Apple Storeの店員たちはアメリカ式で、とてもフランクに接してくるだろう。


以前GOROmanさんが「礼儀1.0」「礼儀2.0」のツイートをして話題になっていたけれども……

相手のために自分の時間を犠牲にするのが「礼儀1.0」
相手の時間を奪わないようにするのが「礼儀2.0」


これはすごく、すごくしっくりくる。


たとえば高級フレンチなどは、礼儀1.0だ。重厚感のある建物の中で、ウェイター・ウェイトレスたちは丁寧な敬語を使い、テーブルには真っ白なテーブルクロスが敷かれている。丁寧なだけに、ドレスコードがあったり、テーブルマナーもあったりと、客側に求められるレベルも厳しい。そうした振る舞いを「出来る」ことが、そのサービスに相応しい階級の人間、とされていたからだ。


それに対して、ここ数年の大きなトレンドであるニュー・スカンジナビアン料理(ニューノルディック料理)は、礼儀2.0を徹底しているように思う。


「世界一のレストラン」の栄光を幾度となく手にしたコペンハーゲンのNomaがその代表的存在だが、彼らは食の分野のスタートアップだ。

もともと、北欧は「美食」とは程遠い。なぜなら、彼らの多くはプロテスタント信者で、そこでは「贅沢な食事」は罪なのだ。

そんな「美食なき地」にレネ・レゼピという若きカリスマが生まれ、25歳にして自分の店をコペンハーゲンに立ち上げた。

ある種、カルチャーなき場所から作ったものだから「伝統を重んじる」ことはほぼない。それよりも「自然を重んじる」ほうが重要なのだが、そのあたりの詳しいことはドキュメンタリーをぜひ観てほしい(めっちゃ良い)。


コペンハーゲンで訪れたニュー・スカンジナビアン料理のお店は、おしゃれカフェのようなカジュアルな空間で、テーブルクロスもない。テーブルマナーもカジュアルで、ウェイター・ウェイトレスたちはカジュアルな黒いエプロンとシャツ、スニーカーなんかで働いている。彼らはその人らしい笑顔で話しかけてきて、なんだか、大阪のお好み焼き屋みたいな親近感すら感じる。カジュアルだ。(4回も出た)


しかし料理は一流だ(お値段も……)。


NYや東京ではこのスタイルのお店が増えてきたが、最近は奈良でも、地元千里ニュータウンでも、ニュースカンジナビアン料理を彷彿とさせるレストランに出会った。


接客はカジュアル、テーブルクロスなし、ドレスコードなし、しかし地元素材を使った料理の味は一流……という、完全に「2.0」側のお店だった。

本当に、世界各地の都市だけではなく、あらゆる場所に浸透しているのだ。というか、この料理の文脈でいえば地方のほうが「より本質的で贅沢」でもあるのだろう。

もっとも、今の時代の富裕層は? といえば、西海岸のIT起業家たちだろう。彼らの愛するドレスコードは? 


スニーカーだ。

従来の「スニーカーNG、革靴・ジャケット必須」というドレスコードは、今の時代の富裕層にはマッチしない。

むしろ、BALENCIAGAも、GUCCIも、Diorも、Louis Vuittonも、みんなスニーカーを出している。ハイブランドの世界はどんどんカジュアルに、スポーティーになった。「ドレスコードで、スニーカーはNG」だなんて言おうもんなら、「なんて時代遅れなの!」と嘲笑われてしまうかもしれない。




先日のnoteでは、「贅沢」の意味が変わってきている……と書いた高価なブランド物をたくさん手に入れることよりも、ささやかな、でも丁寧な喜びを暮らしの中に見出すことが贅沢になってきている……というものだ。


GOROmanさんのフォーマットをお借りすれば、こういった感じだろうか。
 

贅沢1.0… 必要以上に高価な物を買い、豪遊する。身の丈に合わない消費をする。「物」の消費。

贅沢2.0… 高価なものではなくても、自分の心地よいものをしっかり見つけて、それを大切にする。「心」の豊かさ。


この「贅沢2.0」は、ただただ物質的なものでは満たされない。そこで重要なのは、その場の空気や、居心地のよさだと私は思う。




先日、「エナジーテラピー」というものを受けにいった。台湾初のマッサージ技術なんだけれども、これが面白くて、セラピストは「電気を流す金属板」の上に立って、自身の身体に電流を流しながら施術を行う。

セラピストの指先が私の背中にふれると、ビリビリ!と電気がはしる。めちゃくちゃビックリするし、なかなか癖になる。しかし何により感動したのは、セラピスト自身が元気なのだ。

私はマッサージをするのも受けるのも大好きなんだけれども、マッサージをする側は、なかなか体力を消耗する。(ちゃんとした方法でやれば、あまり疲れないのかもしれないけれど……)

しかしエナジーテラピーは、セラピストは身体にそっと触れているだけなのだ。ギュウギュウ押したりすることはないし、体力的な疲労が少ない。その上、本人の身体自体にずっと電気が巡っているから、施術をしている間にすごく身体がほぐれて、元気になっていくらしい。これはすごい。


エステやマッサージみたいな密室空間には二人しかいない。施術する側と、受ける側。そのうち二人ともが癒やされているなんて、なんと最高な空間なのだろう。これぞ贅沢、これぞ最高の接客じゃないか。





映画などで召使いがずらっと並ぶ景色があるが、あれは「多くの人が権力者に仕えている空間」でもありながら、「大勢の人が心を殺して、我慢している空間」でもある。

同じように「大勢の社員が心を殺して、我慢している空間」という組織もあるだろう。

もし、そういう空間のトップに君臨したとして、それは贅沢なことだろうか? うーん、贅沢1.0(物の贅沢)ではあっても、贅沢2.0(心の贅沢)ではない気がする。


それに人は心を殺すと、指示を待つようになり、個人としての判断力が鈍ってしまう。周りみんながロボットになってしまっては悲しい。


milieuで取材したaeru矢島里佳ちゃんも、まさにそんなことを言っていた。


矢島:和えるの社員に「和えるって、どんな会社ですか?」と聞くと、それぞれの言葉で答えます。表現は一人ひとり異なるけれど、本質的には同じことをお伝えしていると思うの。一言一句、教科書みたいに同じことを言うのであれば、ロボットの方がいいですよね、間違えないし。

今のこの時代においては、ロボットにできることはロボットを採用するのがいいと思うのです。だから、「人間である理由」を社員の採用でいちばん重要視しているの。

http://milieu.ink/interview/aeru 




しかし、個々の魅力を引き出すといっても難しいかもしれない。

新卒採用で大量に同時入社したピカピカの新入社員は、同じ研修を受け、同じマナーを叩き込まれ、工業製品のように仕上げられていく。しかしそれはもう、古いと思う。そういう「工業製品」としての仕事はもう、本当に工業製品が出来てしまうからだ。人がやらなくてもいい。



そこで私は、ベストチョイスな研修先をご提案したい。日本にあるのだ。本当に「その人らしい」接客をしている地域が……。それは


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精神をすり減らす人がひとりでもいる空間は、贅沢ではない

塩谷舞(mai shiotani)

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1988年大阪・千里生まれ。京都市立芸術大学卒業。ニューヨーク、ニュージャージを拠点に執筆活動中。大学時代にアートマガジンSHAKE ART!を創刊。会社員を経て、2015年に独立。milieuを自主運営しつつ、note定期購読マガジン『視点』にてエッセイを更新中。