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‘味’という表現があります。
この‘味’こそ個性を表し、万人ではなくあるターゲットや層に支持を得るクオリティの高さを意味するものである点に注目します。
例えば、ロックアルバムの通年で歴代ベストテンに必ず入るジョン・レノンの『ジョンの魂』この録音の全ギターパートはジョン自身が手掛けています。もしこのギターを交友のあったエリック・クラプトンが弾いていたら全く別の形になっていたのは誰しも想像に難くないと思います。
この名盤の良さはジョンの声とメロディ、詞に依るところは非常に大きいのですが、私はシンプル且つ抑制されたアレンジ、演奏に一際惹かれるのです。
その重要パートにジョンのギターがあります。ざらついたタッチの粗いストロークとカッティングに情念すら感じています。この音そのものがジョンの人格を表現していると捉えられるからです。

そこで考えられるのは、反面、物事には洗練し過ぎて逆に悪くなってしまうケースも多々あるのではないかということです。
この洗練を昨今のスマホ社会における、検索エンジンやAI、汎用アプリ等を使用して何事も簡便に仕上げられる成果物に例えられる気がしなくもありません。
個性を形にするやり方、あるいは個性自体が果たしてそこには存在するのか、という見方もあるでしょう。
要領の良さから道具の扱い方さえ把握出来ればそれで良しとして、乱造される様々な媒体に普遍的なる意味や価値は必要なく刹那的です。
この様相を洗練とはまた意味合いが異なるものかもしれませんが、ある作りにおけるレイアウトや構造という意味でのスペックの精度に驚かされるケースもしばしば見受けることもあります。

そこで方法の選択が浮き彫りになると同時にロジカルに選択の理由付けは出来るか否か…低予算で良いものを作れる以外の理由は無いだろうと私にはそれしか推察する理由は見つかりません。
まさに分かれ道です。
面倒くさいを避けて損得がフィルターになる現代思考と言えます。
その現代思考から『ジョンの魂』のような音世界は絶対生み出せないだろうなと断言できます。

一方若い人たちの間では、古いものに価値を見出そうと考える向きもあるかと思います。レトロスペクティブやリノベーションへの取り組みです。新しいものを作り出すために古きを知り、その意外な精緻な世界に驚くという経験に繋がっていきます。これが現代の逆張り、唯一のカウンター文化なのだと感じるのです。冒頭の‘味’が個性でありながら質は高いものだとするならば、‘味’への昇華が案外、歴史を継承する姿勢であり、そうした系譜に連なることだと理解して私は間違いではないと考えます。

ヨーロッパの格言に、
地獄への道は善意で舗装されている」という有名な文言があります。
人は利己的な動機で行動する故に、もし地獄への道が善意で舗装されているとすれば、その理由の一つは、大抵の人が選ぶのがまさにそのような道だからだと、それで良いのではないかと無責任に流れる傾向への警鐘とも受け取れます。

いかに人はがもてるか、その軸は本当にあなた自身なのか。
‘味’には必ず軸があるのだと思うのです。

【漁港口の映画館 シネマポスト 上映中作品紹介】

3月2日(土)から8日(金)までアメリカインディペンデントの最重要、最注目監督であるケリー・ライカート監督作品『ファースト・カウ』が絶賛上映中です。

‘味’をテーマにnoteに記そうと思ったきっかけこそ、この作品の影響があります。
細部に渡るこだわりと見事な人物描写、そして絶妙なカット繋ぎと、最も映画本来の原理的な魂に触れたような、そんな質感があります。
ぜひ劇場で体感してみてください。

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