岩松あきら

高校時代より映画制作を開始。東北新社・PHP出版などで映画評を執筆。現在、愛知県三河地…

岩松あきら

高校時代より映画制作を開始。東北新社・PHP出版などで映画評を執筆。現在、愛知県三河地域を中心に活動する“三河映画”を立ち上げ長編映画監督してます(https://mikawaeiga.com/)。「よく分からない」という感想の多い映画について、気の向いたときに書いてみます😅

最近の記事

映画「ミスティック・リバー」を読む

●ストーリー  たったひとつの忌まわしい出来事が、少年たちの運命を変えた・・・。ジミー(ショーン・ペン)、デイブ(ティム・ロビンス)、ショーン(ケビン・ベーコン)の3人は、ダウンタウンに近いイーストバッキンガム地区で少年時代をともに過ごした幼なじみだった。11歳のある日、いつものように路上で遊んでいた3人。その中の一人が、誘拐され、監禁されてしまう。その日を境に、彼らの少年時代にピリオドが打たれ、3人は離れ離れになってしまう。そして、25年後に起きた殺人事件。それは、過去

    • 映画「ハウルの動く城」を読む【完全解説】 ⑦

      ●ソフィーの呪いは解けたのか  観終わった後、多くの観客がスッキリしないのが、「ソフィーの呪いは解けたのか」という疑問。先述したように、ソフィーの呪いとは、「父親の戦死」とともに「心をなくしてしまったこと」であろう。「ソフィー=ハウル」であるとすると、ハウルが心臓を取り戻した時点で、ソフィーは心を取り戻していることになる。ソフィーは、なくした心を取り戻したから、人を愛することができるようになり、その結果、辺り構わず、キスをしまくるわけである。だから、彼女にとって、案山子の

      • 映画「ハウルの動く城」を読む【完全解説】 ⑥

        ●本能VS理性  ここまで、「ハウルと荒れ地の魔女」と「魔女・サリマン」の対決を「妄想(ファンタジー)VS現実」という側面から見てきたが、彼らの対決は、「本能VS理性」という側面からも見ることができるようになっている。彼ら三人は魔法使いだが、本作品では、どうやら「ハウルと荒れ地の魔女」の使う魔法と「魔女・サリマン」の使う魔法には違いがあるようだ。  まず、「ハウルと荒れ地の魔女チーム」の魔法についてだが、彼らが使う魔法を「本能的魔法」と名付けたい。本編で何度も繰り返し

        • 映画「ハウルの動く城」を読む【完全解説】 ⑤

          ●母性が世界を救う  ハウルと荒れ地の魔女とサリマンの三人の関係について、ここで改めてまとめてみよう。 ○ハウル=ソフィーの自己愛(現実を良く捉える心=ファンタジーを信じる心) ○荒れ地の魔女=ソフィーの自己嫌悪(現実を悪く捉える心=ファンタジーを信じない心) ○魔女・サリマン=現実世界そのもの  先述したように、ハウルと荒れ地の魔女の闘いは、現実世界に対して、揺れ動くソフィーの心の状態を示している。二人はソフィーの妄想によって生み出されたキャラクターであり、彼ら

        映画「ミスティック・リバー」を読む

          映画「ハウルの動く城」を読む【完全解説】 ④

          ●宮崎版「オズの魔法使い」  本作品の世界観の特徴の一つは、登場する主要人物たちが二つの姿を持っているという点である。ソフィーは「少女と老婆」。ハウルは「美少年(若き日の父親)と鳥人」。荒れ地の魔女は「かよわい老婆と巨漢の魔女」。マルクルは「少年と着ぐるみ」。カブ頭は「案山子と隣国の王子」。この作品世界に二面性を持ち合わせたキャラクターたちが集まっているのは、単なる偶然だろうか。また、主要人物の一人である魔女・サリマンには、もう一つの姿はないのだろうか。  児童文学の「

          映画「ハウルの動く城」を読む【完全解説】 ④

          映画「ハウルの動く城」を読む【完全解説】 ③

          ●「魔法の扉」の仕組み  「城=ソフィーの心」という暗喩を意識したら、もう一つの重要な暗喩も押さえておきたい。それは、ハウルの城の「魔法の扉」が示す暗喩についてである。「魔法の扉」は四つの場所につながっているが、その一つの「緑の扉」は、城が存在している「物理的な場所」への出入口になっている(最初、ソフィーが入ってきた扉)。そのほかの三つの扉は、「物理的な場所」とは違う別空間へとつながっている。ソフィーが城に入り込んだ当初、「魔法の扉」は、以下の四つの場所へとつながっている

          映画「ハウルの動く城」を読む【完全解説】 ③

          映画「ハウルの動く城」を読む【完全解説】 ②

          ●発狂したソフィー  本作品を鑑賞した観客の多くは、本作品は難解だと頭を抱えている。その原因の一つは、ヒロインのソフィーが90歳になる魔法をかけられたにもかかわらず、その後、いきなり少女に戻ったり、老婆になったりするからであろう。しかし、実は、これについては、さほど難しく考える必要はない。なぜなら、ソフィーは、最初から魔法になぞ、かかっていないからである。それに気づけば、本作品は、思ったほど難解なものではないと分かるはずだ。  ヒロインのソフィーは、三姉妹の長女。戦争

          映画「ハウルの動く城」を読む【完全解説】 ②

          映画「ハウルの動く城」を読む【完全解説】 ①

          後期の宮崎駿作品は、どんどん難解になっていくという感想を多く聞かれる。そういった感想のアンサーとして、「ハウルの動く城」の公開時に劇場で観た時の感想をアップしてみます。少々長いので、いくつかに分けてアップしていきます。 ●観客を置き去りにするギアチェンジ  映画は、「ストーリーを語る」と同時に「テーマを語る」ことを行っている。つまり、各シーンは、この両面を語るために、二重構造になっていることが多い。傑作と呼ばれる作品は、純粋に「ストーリーを楽しむ」というように表面的な見方

          映画「ハウルの動く城」を読む【完全解説】 ①

          映画「イン・ザ・カット」を読む【完全解説】

           ニコール・キッドマン製作、メグ・ライアン主演、「ピアノ・レッスン」のジェーン・カンピオン監督。3人の女性が「女性の性」に挑んだ問題作。カンピオン監督作品だけあり、一筋縄ではいかない映画をじっくり読み解いてみた。[ネタバレあり] ●スリラーと呼びたくない作品  本作品は、完全にヒッチコックを意識したスリラーだ。ヒッチコック・スリラーとの類似点があまりに多い。本作品の主題歌「ケ・セラ・セラ」は、元々「知りすぎていた男」のものであり、庭の花壇から死体が出てくるのは「裏窓」の設

          映画「イン・ザ・カット」を読む【完全解説】

          映画「シェイプ・オブ・ウォーター」を読む 【完全解説】

           本作品は、ギレルモ・デル・トロ監督が異種間の愛を描いたファンタジー。第74回ベネチア国際映画祭で金獅子賞。第90回アカデミー賞で作品賞、監督賞などを含む4部門で受賞。この作品も結構深い。読み甲斐のある映画だ。[ネタバレあり] ●なぜヒロインの首に大きな傷があるのか  本作品のヒロインは、「航空宇宙研究センター」で清掃員として働いている女性。彼女は聾唖者で、言葉を理解できるが話すことができない。彼女が半魚人と恋に落ちる物語ということで、なるほど半魚人版「人魚姫」かと。人魚

          映画「シェイプ・オブ・ウォーター」を読む 【完全解説】

          映画「三度目の殺人」-10の謎を読み解く【完全解説】

           本作品は、第74回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門の正式出品作品。第41回日本アカデミー賞の最優秀作品賞を受賞している。単純なサスペンス映画ではないので、「よく分からない!」という感想の多い本作品。その謎を10個に分けて読み解いてみました。ネタバレ全開ですので、鑑賞後、よく分からないなぁと思った方だけお付き合いください。[ネタバレあり] 謎1)誰が被害者を殺したのか  おそらくこの物語の事件の真相は、広瀬すず演じる食品会社の社長の娘・咲江の証言だと思われる。彼

          映画「三度目の殺人」-10の謎を読み解く【完全解説】

          映画「ドライブ・マイ・カー」を読む【完全解説】

           本作品は、村上春樹の短編小説の映画化。濱口竜介が監督・脚本を担当。第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、脚本賞、国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞の独立賞を受賞。なかなか読み応えある映画だ。[ネタバレあり]  本作品の冒頭、暗闇の中でシルエットとなった女性の姿は見えず、声だけが聞こえてくる。こうして主人公の家福の妻・音は、名は体を表すごとく、この作品に「音」として登場する。彼女は、セックス時に語り部となり、物語を口にするが、その後

          映画「ドライブ・マイ・カー」を読む【完全解説】