文身 岩井圭也
2年前にデビュー作を読んで以来のファンである。
『文身』は「最後の文士」と呼ばれた作家の物語。私小説作家となったことで翻弄される、兄と弟とその家族の人生の物語だ。
物語の内容に言及すると、あらすじ解説じゃなくてネタバレをしてしまうのが私の常なので、これ以上はしない。
岩井圭也さんの作品の真骨頂は、悲しみの場面の情景描写の美しさだと思う。今回も、しっかり心臓をわしづかみにされてしまった。感服。
目に映像がありありと浮かぶ、なんてものじゃなくて、その場の温度や肌に触れる感触までわかる。登場人物の、すぐ隣で話を聞いているような気持になる。
臨場感という言葉では、その言葉が便利すぎて言い表せていない気がする。臨場感というより、当事者感と言った方が正しいのではないかと思うくらい、毎作品のめりこんでしまう。
だけど、文章はちっとも難しくないんだよなぁ。
2年前に、HYGGEのブログでも、「永遠についての証明」の感想を書いた。
本作『文身』は、今年の新作。ほぼ同時期に文庫『プリズン・ドクター』も出版されている。早く読みたくて焦れてしまう。
岩井圭也さんの刊行されている作品は、上記各リンク先3作と、もうひとつ『夏の陰』の計4作。『プリズン・ドクター』はまだ読めていないけれど、未刊行の『裂果』を岩井さんのnoteで全文公開されていた時に読んだ。(『裂果』は期間限定公開だったため、現在はリンク先では読めない)
いずれの作品も、テーマは重たい。
『永遠についての証明』は孤高の数学者の話。
『夏の陰』は殺人加害者の子と、その被害者の子との対峙の話。
『文身』は「最後の文士」となるべく人生を賭した兄弟の話。
『プリズン・ドクター』は刑務所に勤める医師が、受刑者の死の謎に迫る話。
どの作品にも、人生をかけた葛藤と生死についての描写がある。テーマは重く難しいが、丁寧でやさしい文章が、物語の奥へ奥へと導いてくれる。
年齢の話は、あまり意味が無いし、進んでするだけ馬鹿々々しいとは思うのだけれど、岩井さんは同年代。ほぼ同い年で、なんでこんなの書けるの―――――?! と馬鹿丸出しで叫びたくなる。ていうか、叫んでる。枕に向かって。
好きなものに対する熱量に反比例して、理性とか知性とかなんてものは無惨に溶けてしまうのだ。
本記事を書きながら岩井さんの情報をネット検索していたら、『夏の陰』の時のインタビュー記事を発見した。
『プリズン・ドクター』をまだ読んでいない現時点で言うのもなんだけれど、次回作が本当に楽しみ。もう、ずっと追いかけていきたい作家のひとりである。