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自然はどのようにして気候変動と戦うことができるのかーNCS(自然の力を活用した気候変動対策)の誤解

つい最近まで、自然が気候変動問題を解決しようとする私たち人間にとって、強い味方になるという考えは、ほとんど知られていませんでした。
人間活動による影響が生態系に出ているにもかかわらず、私たちが毎年排出する温室効果ガスの約半分は、自然がすでに「吸収」していることが研究で明らかになっています。2017年の研究結果により、さらに、私たちが自然を守り、再生させることができれば、自然の力によって気候変動の進行を反転させ、危機を回避するために世界が必要とされる温室効果ガスの吸収の3分の1以上をまかなうことができることがわかりました。

この研究が発表されてから、「自然の力を活用した気候変動対策(Natural Climate Solutions:以下、NCS)」は主流になりつつあります。多くの政府や企業は気候変動への取り組みに「自然」を積極的に取り入れるようになり、より広い世界から注目されるようになりました。NCSを取り上げたメディアの記事は、2019年から2021年の間に263%も増加しました。
 
2017年の研究を率いたコンサベーション・インターナショナルの気候科学者、ブロンソン・グリスコム(Bronson Griscom)は、「当然のことながら、認知度が高まるにつれ、NCSがどのようなもので、どのように機能するのかについて、いくつかの議論や混乱が生じていて、それを解き明かすことが重要だと考えています」と話します。
NCSとは何か(測定可能で、修復可能なもの)?、そして何がNCSでないのか(グリーンウォッシング)について、グリスコムが説明します。

なぜNCSについて共通理解を深めることが重要なのでしょうか?

グリスコム:自然と気候は密接に関係していて、自然を保護し、再生させなければ気候危機を回避することはできない、という考え方は広まりつつあります。国連で採択された、2030年までに地球の陸地と海域の30%を保護する目標には約190カ国が合意していますが、このような世界的な約束が合意されたことはとても大きな前進でしょう。構想からアクションへと移し、気候変動による最悪の結果を回避するために何が必要か、具体的な行動に落とし込みつつあります。
同時に、NCSがどのようなものなのかについては、誤解が生じることがでてきました。そこで私たちは、効果的なNCSとは何かを明らかにするため、新しい論文を発表したのです。

「誤解」というのは、どういったものでしょうか。

グリスコム:カーボンクレジットは、NCSの手法の一つに過ぎませんが、時として「グリーンウォッシング」だと批判されることがあります。どうせ植林するのだからと、悪質業者がこれまで通りの悪い慣習ビジネスを続けるための隠れみのになっていると言う人もいます。はっきり言っておきますが、それはまったく違います。真のNCSとは、科学的根拠に基づくものであり、排出量の削減や炭素固定の改善を通じて、持続的かつ効果的に炭素汚染を減らすことができるものです。
 
最新の報告書は、企業が事業活動においてどのように気候変動と向き合っているか調査しています。その結果、カーボンクレジットを活用している企業は、活用していない企業と比べて自社のカーボンフットプリントをより削減していることがわかりました。また、サプライチェーンやバリューチェーンにおける気候変動への対応についても、競合他社を上回っています。

それでは、どのようなNCS原則があるのでしょうか。

グリスコム:私たちは、効果的なNCSがどこで、誰によって実装されるかにかかわらず、要素となるべき5つの主な原則を考えました。簡潔にまとめると、NCSは以下のようなものでなければなりません。

  • 生態系を保全、および(または)自然の状態に戻すことを目指す行動。たとえば、森林の転用を防ぐと同時に、劣化した森林を回復させるために伐採や管理の方法を改善する森林経営者がいる。

  • 気候変動に直面する農村部の経済と生物多様性の回復力を維持し、向上させる行動。たとえば、アフリカのサバンナに外来樹木を植林しても、それはNCSにはならない。外来樹木は炭素は吸収するものの、火災を起こしやすく、サバンナの高い生物多様性を損なうことにつながる。それに対して、森林減少が起こった場所に在来種の樹木を再生することは、NCSであるといえる。

  • 従来の土地管理を変えること。NCSは人間の行動を変えるものでなければならない。NCSとは、たとえば、森林が牧草地やパーム油のプランテーションに転換されるのを防ぐなど、他の方法では実現しなかった持続的な気候変動への効果をもたらすものでなければならない。

  • 測定可能な気候変動へのメリットがあること。どれだけの量の炭素を吸収できるのか測定できなければ、真のNCSとはいえない。

  • ·      最後に、NCSは、これまで見過ごされてきたような先住民や地域コミュニティの権利や知識、生活を尊重したものであるべきである。

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このNCS原則が反映された具体例を教えてください。

グリスコム:コンサベーション・インターナショナルがコロンビアのカリブ海沿岸、シスパタ湾で行うカーボンプロジェクトは、まさにこの原則に基づいています。
マングローブは、気候変動の期待の星であり、1平方マイルに広がるマングローブは、自動車9万台分の年間排出量に匹敵する炭素を吸収することができます。しかし、政府の保護策があったにもかかわらず、シスパタ湾のマングローブは畜産業や農業のために伐採され続けてきました。つまり、従来の価値観では、マングローブは生きているより失われた方が価値が高かったのですが、このプロジェクトによってその価値観は覆されました。プロジェクトでは、マングローブの根本にある泥に蓄えられた炭素量が初めて測定され、その結果、マングローブを保護することに対する経済的なインセンティブが生み出されることになりました。今では地元コミュニティはプロジェクトの管理、モニタリング、データや種の保全に積極的に関わっています。
これは、測定が可能で、地元の人びとに良い影響をもたらすNCSの必要性を物語っています。30年間のプロジェクトを通じて、マングローブ林は約100万トンの炭素の排出を防ぐことが期待されています。これは、18万4000台の自動車が1年間道路を走るのを止める量に相当し、周辺で暮らす1万2000人の生活を支えています。

このレポートの狙いは何でしょうか?

グリスコム:私は、このレポートによってNCSに対して、誤解から生じる様々な摩擦を減らし、NCSの拡大に向けて集中できるようにしたいと考えています。時間は刻一刻と過ぎていきます。壊滅的な気候変動を回避するために、農業や林業を含む土地セクターは、2030年までに実質的な排出量ゼロを達成しなければなりません。そのためには、NCSについて共通の理解を深め、迅速かつ効果的に実現していくことが極めて重要なのです。


投稿 :Mary Kate McCoy  ※原文はこちら
翻訳編集: CIジャパン
TOP写真:コロンビア・シスパタ © INVEMAR-Fundación Natura


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