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対談:深谷の闘うもやし屋 飯塚商店「グローバリゼーションと原点回帰」

この記事は雑誌「1番近いイタリア」の2021年冬号からの抜粋です。

グローバリゼーションは食の領域にも大きな影を伸ばしている。私たちの食卓には知らず知らずのうちに、世界レベルの価格競争に勝ち抜いた商品が並んでいる。その裏では、小さな生産者が廃業を余儀なくされる例が後を絶たたない。そんな中、埼玉県深谷市で親子2代62年、グローバリゼーションと「闘ってきた」もやし生産者がいる。太くて白い大量生産型のもやしの出現と隆盛という逆境の中で、飯塚親子は、本来のもやし作りこだわり、家族一丸となってもやしを育ててきた。「闘うもやし」著者飯塚雅俊さん(対談「飯」)と、「一番近いイタリア」編集長中小路(対談「中」)が、「グローバリズムと原点回帰」をテーマに対談を行う。ポスト資本主義を生きる私たちが、追求すべき食とは何だろうか。

飯塚さん1

(飯)今朝のもやしは根っこも白く綺麗でした。こんなことはあまりないです。

(中)美しいですね。天使の髪の毛のような名の台湾のお菓子があったかと思いますが、それを思い出しました。

(飯)中華料理ではフカヒレが「金の糸」もやしは「銀の糸」とか呼ばれていたそうです。芥川龍之介は「蜘蛛の糸」ですけど。

(中)座布団一枚!笑

飯塚さん、本、とても面白いです。身震いがしました。

第一に自分自身が誇れる物を作ること、このことが持つ意味は大きいのだと改めて思います。

イタリアの農業でもこんな場面に何度も出会います。
例えばオリーブオイル。グローバリズムの波に押されながらも、村の小さな家族経営の生産者が、誇りを持って作っています。愚直に、誠実に育てたオリーブを絞ったオイルは、ブランドでなく、値段でなく、食べた瞬間に心身に響きます。効率主義が跋扈する世界ですが、偽りのない彼らの農産物には得も言わせぬ迫力があります。

(飯)時代が変わっても、コロナ禍においても、生産者こそが唯一無二のブランド。多くの生産者がそう目指したら世の中はもっと良くなると思います。

(中)なるほどです。メイド・イン・イタリーなど国の名前がブランド化するのを越え、今後は、メイド・バイ・飯塚のように、生産者のブランドがより重要になってくるということでしょうか。

(飯)メイド・バイ・飯塚(笑)は文字にすると照れますが、「もやし」ではその気持ちでやってます。

今、私がやってるもやしの活動はグローバリズムというフィクションによって自信を失っている生産者(だけに限りませんが)に希望を見せることでもあります。

(中)飯塚さんが行っていらっしゃる「もやしの活動」とは、バイヤーの言いなりで売るだけではなく、生産者が自らブランディングし、伝えるべきことを直接食べ手に伝えていくということでしょうか。

その中で、一生産者がこれからブランディング、発信していくにあたり大事なことは何でしょう?

(飯)大事なこと。まず流暢な建前の言葉よりも生産者が放つ「熱」です。その熱と同等の力が生産物(私の場合もやしですが)にあれば、食べ手にも響くものです。

(中)何よりも「熱」、なるほどです。
ブログでも「食の提供者として、自分や家族が食べて納得できないものを人様に提供するわけにはいかない」と書かれてますが、このある種誇りとプライドが原点となっているということでしょうか。

(飯)グローバリズムによって奪われた家族の幸せや生産者の誇り、それに対する「怒り」が12年前「もやしの活動」を始めた時の原動力になりました。ルサンチマン(怨嗟)ですね。

(中)なるほど、「怒り」なのですね。これは鶏と卵問題かもしれませんが、「熱」があるから「怒り」も生まれるのかもしれませんね。

(飯)でも、最初は怒りからでしたが、多くの人の言葉を聞くようになってから、実は沢山の人によって支えられていることに気づきました。

それからですね。もっと健康なもやしを作ろうと思い、大量生産の考えを捨てて、最終的に今のかたち(手作業)になりました。

また、もやしの熱を放ちながら伸びていく姿と、自分の生きる方向が見えたきた(シンクロしてきた)のもこの十年くらいです。

(中)どういうことでしょうか?

(飯)先代社長の父は先の大戦で3分の2が死んでしまったインバール作戦の帰還兵でした。その生への執念、その父が興したもやし屋「飯塚商店」、光も土もなく水と己の栄養だけで強く育つもやし、そしてどん底になってももやし屋を続けてきた自分、これらがみな一緒だなと思っています。

(中)なるほどです。飯塚さんのもやしの中に手を入れたら温かったです、生きているんだなぁと感じました。

(飯)あのもやしの温もりこそ、生きている、生命力の証です。

どんどん食べものの価値が薄っぺらになりがちなこの時代において、若い感性で食と生産者の心を広げていって頂けたらと思います。

(中)そうですね。私は今は「ポスト資本主義時代」と思っています。グローバリゼーションは進みますが、小さな原点回帰の動きも着実に起こっている。食においても経済的合理性を越えて人々が本当に大事にしたいものを求める時代になっています。

その中で熱を持って育てる生産者が「闘わずとも」生き残れる、人々が価値を見出せる仕組みを作りたいと思っています。その一つがこの雑誌でもありパスタの活動です。

面白いことしていきましょう!

飯塚さん2

深谷のもやし屋 飯塚商店

代表:飯塚雅俊
連絡先:048-571-0783
住所:埼玉県深谷市新井637
※都内百貨店、深谷市周辺のスーパーや道の駅などで販売

社長ブログ:
https://ameblo.jp/matt1119/
著書「戦うもやし」はAmazonで購入可

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