小さな記事に注目!

○日経新聞は日本の代表的な経済紙です。同紙は大事なことと見なせば、大きな文字の見出しで半ページ~1ページ大もの長い記事で伝えるのが特徴です。ただ私は、小さな扱いの記事にも示唆に富む記事が多く、注目すべきだと思っています。例えば、2020年7月2日日経朝刊17面のコラム「大機小機」。13文字×25行×3段の小さなスペースですが、「コロナ禍の不都合な真実」として、今論ずべき3つのテーマを伝えています。

○まず最初は景気について。いわゆる「V字回復」はありえない──これについては誰も言いたくないだけで当たり前のことであり、説明は不要でしょう。

○次に、2021年に先延ばしにされた東京五輪について。東京開催は諦め、浮いた人的資源や財源を、コロナ対策に振り向けるべきではないかとしています。オリンピックは、競技のプレイヤーも観客も世界中から日本に集まることが前提です。その集まる動きが規制されており、集まる気分でもない。来年オリンピックができると考える方が、常識を外れていると私も思います。

○2020年7月5日に投開票の東京都知事選で、オリンピック中止をはっきり言っているのが、主要5候補と言われる中でわずか1人(山本太郎氏)、感染症対策の専門家が開催困難と判断すれば中止(宇都宮健児氏)、4年後などに延期(小野泰輔氏、立花孝志氏)、予定通り来年開催(小池百合子氏)となっています(ここの5候補の主張のまとめは、2020年7月3日の東京新聞)。

○最後は財政再建の問題だとコラムは言います。「これまで与野党ともに積極的な財政支出に熱心で、ほとんど誰もがその後始末に言及しない。しかし大盤振舞のツケは誰かが払わなければならない。いずれは増税が必要になる」と。

○全国民への10万円一律給付時の、いきさつを思いだしてみましょう。当初は減収世帯に30万円支給する補正予算案が閣議決定されていましたが、これを組み替えて全国民への10万円一律給付となりました。10万円一律給付の方が減収世帯への30万円支給より、財源は3倍かかります。このため財務省は30万円案を推進していたようですが、規模が小さいという批判でひっくり返ったわけです。

○国のために倹約しようとした財務省が、本当は正しかったというわけではありません。こういう時は思い切った国民への救済策が必要というのは、今や世界的な定説です。リーマンショックの時に、too little, too late(財政出動が遅すぎるし、小さすぎる)を回避すべきだという教訓が生まれました。

○しかし問題はそのあとです。貨幣論の大家・岩井克人東大名誉教授は「人々の間にお金がジャブジャブと広がれば、貨幣に対する信頼が失われ……ハイパーインフレーションが起きる可能性も否定できない」と言っています。

○コラムはこう締めています。「我々が耳をふさいでいても厳しい現実はなくならない。心を開いて聞きたくない話にも耳を傾け、少しでもその厳しさをやわらげる努力をすべきだ」。どうです、中々の小さな記事でしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?