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ローリング・サラリーマン詩篇    chapter 8: MASSAGE

さして難しいことをやってるわけでもないのに、パソコン疲れに会議疲れ、ゴマすり疲れで、どうにも首・肩・腰が重くなり、仕事をサボってマッサージ屋さんに行く様になれば、それはもう立派に一流のサラリーマンである。こんな時、一流のビジネスマンは一体どうしているのだろう。


今日はサラリーマンのインスピレーションに従って、中国式に入店。ベテランらしき大連出身だと言うおばさんがついてくれた。

あたしゃこれまでこなした数が違うのよねと言わんばかりに、ぐい〜んぐわ〜んぐいぐぐい〜ん、と中原中也ばりのリズム感でツボを刺激してくれ、たいそう気持ちよかったのだが、彼女の何気ない一言が僕を一気下降にやるせなくした。


「オニイサン、痩せすぎ。女みたいね。」

さて、僕は女性を軽視してるとかあまりないと思うのですが、むしろ崇拝している方なのですが、僕自身のことを「女みたい」と言われると、あまり嬉しいとは思えないです。それはあれですか、男らしくないということですか。数々のボディを見て来た中でそういう見立てですか。ああそうですか。

ふーんだ。ふふふーんだ。すっかり気落ちした僕は、しばらく会話を打ち切ることにし、ふーんだのリズムでしばしの間眠りに落ちることにした。ふーんふーんふふふーん。ふーんふーんふふふーん。

どのくらい眠っただろう、「オニイサ〜ン、仰向けになってね〜」の声で眼を覚ますと、すぐに僕は身体の歓迎出来ない異変に気がついた。寝起きとあいまって、少しナニが妙なことになっていたのである。これはまずいですよ、オニイサン。さあ、男性諸氏ならお分かりいただけると思うのであるが、痴情劣情とは全く一切、責任を持って関係なく、こういった膨張現象が自然の摂理としてこの宇宙には起こりうるのである。神に誓って。
とにかく、ナニがナニし始めてるのであるからして、それはとにかくナニとしてもナニを落ち着かせなければならないのである。レム睡眠に入っていたのだなとか納得している場合じゃないのである。とりあえず、眼を閉じて寝てる振り続行のまま緊急対策会議の招集である。

とにかく僕は仕事のことを考えることにした。戻ればやらなきゃいけないことが山ほどある。ほら、思い出せ。


ところがさすが仕事をほっぽって来ただけのことはある。さっぱり深刻になれないのである。


そして、このおばさん、ここにきて股関節ばかりを攻めるのである。ちょっとナニに指が触れていますよ〜。完全にわざとである。


ここで、自転車の空気入れをぐいぐい上下させるおばさんのイメージがカットイン。あえなく仕事イメージの負けである。

くそっ。こんなおばさんに負けるわけにはいかないのである。この俺のことを女みたいと宣った奴である。僕は続いて、高校時代のクラスメイトの顔を思い出す様にしてみた。こいつの顔ほど萎えるものはない。若かりし頃よく頼っていたこのセルフコントロールテクニック、これでどうだ。


しかし再び、いっそうハンドルに力をこめてぐいぐい上下するおばさん。項にうっすらにじむ汗。ちょっと艶っぽい。いや、ウソウソ。そんなはずない! するとおばさん、カメラ目線で不敵にニヤリ。

ついにおばさんの手はナニに直接リズミカルに当たる様になって来たのである。まるで「ここはもとよりマッサージ領域ですよ。そこに膨らんで侵入してきたナニが悪いのですよ。」と言わんばかりに。白昼から堂々と。

僕は思わず彼女の手を払いのけた。するとおばさんが言ったのである。


「ワタシ、ウレシイ。」

ナニを言ってるんだ、このおばさん。


そして、ナニを言われてるんだ、このおばかさん。


ある晴れた昼下がり、仕事中にマッサージ屋に行って、そのサラリーマンは自分のことが少し嫌になったという。






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この詩篇はフィクションです。
実在の人物・会社とは 一切関係がありません。

ローリング・サラリーマン詩篇 prologue
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 1: CONVENIENCE STORE
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 2: E-MAIL
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 3: 7:00AM
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 4: TRAIN
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 5: GODZILLA
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 6: BIKINI MODELS
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 7: PRESENTATION
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 8: MASSAGE
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 9:  STAFF
ローリング・サラリーマン詩篇 poem:   なりたいもの
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 10: TAXI DRIVER
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 11:  NIGHT LIFE
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 12: GHOSTS
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 13: NICKNAME
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 14: JAZZ CLUB
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 15: NURSE
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 16: LUNCH
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 17: FAREWELL PARTY
ローリング・サラリーマン詩篇 the last chapter: パリで一番素敵な場所は



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