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「ちょっと思い出しただけ」鑑賞記録(2022/2/14)

クリープハイプ「ナイトオンザプラネット」のプロモーションビデオが最近のお気に入りである。というのも、映画「ちょっと思い出しただけ」のワンシーンがまるっとプロモーションビデオとなっている。特に東京タワーが印象的だが、東京の夜の風景とクリープハイプの落ち着いた曲調と歌声が見事にマッチしている。

かくいう「ちょっと思い出しただけ」では、ある男女を中心とした人々が歩む6年間の人生の“軌跡”が描かれる。軌跡”といっても、描かれるのは、きまって"7月26日”という一日である。2021年7月26日から始まり、2016年7月26日まで遡っていくことにより、点と点であった物語が線になっていくという仕掛けである。伊藤沙莉と池松壮亮が主人公の男女を演じている。

2021年7月26日、この日34回目の誕生日を迎えた佐伯照生(池松壮亮)は、朝起きていつものようにサボテンに水をあげ、ラジオから流れる音楽に合わせて体を動かす。ステージ照明の仕事をしている彼は、誕生日の今日もダンサーに照明を当てている。一方、タクシー運転手の葉(伊藤沙莉)は、ミュージシャンの男を乗せてコロナ禍の東京の夜の街を走っていた。目的地へ向かう途中でトイレに行きたいという男を降ろし、自身もタクシーを降りると、どこからか聴こえてくる足音に吸い込まれるように歩いて行く葉。すると彼女の視線の先にはステージで踊る照生の姿があった。
映画『ちょっと思い出しただけ』オフィシャルサイト

2人の男女(主人公)だけでなく、その周辺の人々は、月日を経ることで変化をしていくのだが、それでもなお、決して変化することのない(揺るがない)気持ちもある。そんなことに気付かされる。少し具体的に言ってみれば「別れてもなお誰か(何か)のこと思い出す」といったところだろうか。

この作品は、恋愛関係に限らない広い意味での“別れ”が一つのキーワードであるように思う。今作においては、物理的なことも心理的なことも指している。と同時に、“別れ”というものをより前向きに捉えるべきではないか、というメッセージのようなものを感じ取った(恐らくは、明確にそういったセリフはないはずである)。

“別れ”には悲しみが伴う。だから、なるべく直視したくない。特に意に反してそうせざるを得ない場合は、なおさらのことである。悲しくて、悔しくて、やりきれない感情に苛まれる。ただ、一時の悲しみを経て、一歩でも半歩でも前に進むことができるのだとするのならば、決して悪いことではない。たとえ月日が経とうとも、共に生きてきた人やその時のことに思いを馳せることによってでも、人は前に進んでいけると良いな、と思う。当然、どれだけの時間を要するかは人それぞれなのだが、さまざまな“別れ”に焦点を当ててストーリーが展開されたことには、それなりの意味があるのではないか、と勘ぐっている。

ずいぶんと時間が経ってから感想を記録することになってしまったが、ふとnoteを開いて書いてみたくなった。と同時に「あらすじ中心主義」的な文章からの脱却を試みるにはちょうど良い、余韻を感じさせる作品に出会えたことを嬉しく思う。

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