見出し画像

パンダ人形をつくる人たち

 ある種の人々はずっとパンダをつくっていた。より可愛いパンダをつくりたい。彼らの目的はそれだけだった。

 しかし、『パンダがいるところに人が集まる』。その現象に注目した人々がいた。そして、それは彼らにとってとても重要なことだったので、次第にパンダづくりを手段とする人々が増えていった。つまり、人を集めるためにパンダをつくり始めたのだ。

 いつしか街には、パンダづくりを教えるスクールができた。
スクールには、そもそもパンダづくりにまったく興味がなかった人間までもが大量に押し寄せた。

 スクールの講師は言った。

 「ここでぶっちゃけよう。実際にパンダは可愛くなくてもいいんだ。真面目な人間はすぐに『可愛いパンダをつくらなきゃ』と考える。それは大きな間違いだ。 アホか 俺は言いたい。可愛いパンダなど、そうそうつくれるものじゃない。

 重要なのは可愛い感じの雰囲気だ。それが醸し出せれば十分なんだ。抜群の雰囲気さえあれば、人は可愛い可愛いと騒ぎ立てる。一定数がそれを認めれば、周りの者も同調していく。そしてその数はどんどん増えていく。笑いと同じだね。みんなが笑っていれば、そのうち何がおかしいのか分からない人間も、とりあえず笑いだす。そういうことなんだ。
 
 あとね、パンダは生きていなくてもいいんだよ。ここもよく誤解されるところなんだが。生きてるパンダをつくるなんて、そりゃあ手間がかかって仕方ない。生きているように見せればいいんだ。パンダが本当に生きているか、それを判断できる人間なんて、本当にごくわずかしかいないんだから。

 とにかくパンダをつくって人を集めるんだ。人は多ければ多いほどいい」

 講師の話が一段落したところで、彼は質問した。

「人を集めて結局どうするんですか?」

「今の段階ではそんなことは考えなくていいよ。とにかく自分なりのパンダのつくり方を見つけだして、人を集めるんだ」

「どうしても知りたいのですが?」 彼は食い下がった。

「OK。今日は特別に答えよう。彼らには武器を買ってもらうんだ。戦争で戦うためのね。誰もが勝ちたいと思ってる、より優れた武器を必要としているんだよ」

「それはもちろん、武器のような雰囲気を醸し出している、実際は武器ではないものですよね」

「……」

「そもそも実際、戦争なんて起きていないんですよね?」

 彼はスクールからつまみ出された。
 冬の風は相変わらず冷たかったが、彼はなんともいい気分だった。やはり自分は生きたパンダをつくりたい、彼は思った。

いつも読んで下さってありがとうございます。 小説を書き続ける励みになります。 サポートし応援していただけたら嬉しいです。