見出し画像

岐路に立つNFTビジネス |【連載】メタバース・ビジネスの歩き方(第6回)

こんにちは。中央経済社note編集部会計実務担当です。
読書の秋です。読書といえば神保町で秋といえば「東京名物 神田古本まつり」(今年は第62回)、そしてわが社も参加する神保町ブックフェスティバル…。10月29日(土)、30日(日)です。そして今年はなんと神田古本祭りの開催にあわせて、神保町古書店街が、メタバースの商業施設に出店するらしい(https://soranoue.com/6006)。さっそく編集子ものぞいてみると、絵本で有名な「ブックハウスカフェ」さんや、最近すずらん通りにできた共同書店「PASSAGE」さんが出店していて大興奮! 
…そんなわけで、前回メタバース、Web3.0でもバックオフィス(裏方)のデジタル化がすごく重要だよということを言及していただいたところで、今回は昨今のメタバース、Web3.0ブームの核心ともいえるNFTの現状や今後の可能性をみていきます。

調整局面に入ったNFT市場

ここ数ヶ月、暗号資産全体の相場が大きく下がっています。
Coin Desk Japanのデータによれば、ビットコインの価格は昨年の11月ぐらいを上限に年明けから値が下がる傾向が続き、6月からはさらに大きな値下がりとなっています。
原因はいろいろと考えられます。ウクライナの戦争の影響もあるでしょうし、中国の不動産不況に絡む様々な問題もあるかもしれません。5月に、ステーブルコインとして価値が安定しているはずのUST(TerraUSD)とそのトークンであるLUNAの価格が暴落してしまった(USTとドルとのペッグが外れてしまったために、売り圧力がかかり価値を戻すことができなくなってしまった)ことも、仮想通貨全体の信用低下に拍車をかけているのかもしれません。
ちょうど同じ5月頃には、STEPNの価値も大きく下がってしまっており、Play To Earnとしてあまり稼げなくなってしまったという声が聞こえてくるようになりました。同じように、NFTへの資金流入も下火となっており、昨年に高値で購入されたNFTも、ほとんどが買い値を大きく下回って取引されているようです。
そもそもNFTが新しい資産として注目されるようになったきっかけは、2021年3月にNFTアーティストであるBeepleの作品《Everydays - The First 5000 Days》が約75億円で落札されたことです(Beeple (b. 1981))。同じ頃、Twitter創業者のジャック・ドーシーによる初めてのTweetが約290万ドル(約3億1,000万円)で売れたことなどから、NFTの販売が新しいビジネスチャンスとして脚光を浴びるようになったのです。
当時のNFTの想定以上の価値については下記のような説明がなされていました。

  • コンテンツとしての価値。美術品や写真集など、作品としての価値が高い。

  • 希少性。唯一無二であることが証明されており、誰も持っていないものを持っていることに意味がある。

  • ゲームアイテムとして、特定のゲーム内で使えて、ゲームを有利に進められる。

  • 優待券として、特定のNFTを所有している人にのみ得られるサービスがある。

  • メタバース内の土地など資産としての価値がある。

  • 値上がりが期待できるので、運用資産として持つ意味がある。

これらの説明は誰もが納得できるものではありませんでしたが、NFT市場は拡大を続け、転売で大きく資産を増やした人も中にはいたでしょう。しかし、前述のとおり、仮想通貨市場の冷え込みとともに、下火になりつつあります。NFTの販売により莫大な利益を得ることが期待されていた企画であっても、ほとんどが売れ残ってしまっているケースも散見されます。前述の約3億円の値がついたTweetのNFTも、所有者が今年の5月に転売しようと市場に出したところ、買値の1%程度での買い手しか現れず、売却は取りやめになりました。また、メタバースプラットフォーム「Decentraland」の土地の所有権であるLandというNFTは90%以上価格を下げています。
結局とのところ、本来の価値以上の値段が付いていたと思われるNFTに関しては、現在は調整局面に入っているように見受けられます。

NFTの価値基準

確かにNFTはバブルの様相を呈していて、本来の価値以上の価格で取引されていたように見受けられましたが、そもそもNFTの価値は何で決まるのでしょうか。
価格決定要素を分解してみると、NFTの価値を決めているのは、「作品としての価値」と「得られる特典・機能」であり、そこに二次流通で値上がりするという期待感が上乗せされて、取引価格が決まっていると考えることができます。

筆者作成。

作品としての価値

例えば、Beepleや村上隆の製作したアートをNFT化したものは、NFT以前にそもそも美術品として価値が認められており、そこにNFTであることの物珍しさなどのプレミアムが付いて取引価格が決まっていると思われます。仮に、NFTとしての価値がゼロになったとしても、美術品としてすでに一定の評価がなされている場合は、取引価格がゼロになることはないでしょう。
また、OPEN SEAなどの市場で上位の価格で取引されているCryptoPunksなども、そもそもデザインに人気があり、Twitterのアイコンにちょうど良いようにデザインされていることも価値を上げている要因の1つと考えられます。仮想通貨で資産を築いた人にとって、高額なNFTであることが知られているものをTwitterのアイコンにすることは、高価なブランド品を身に着けて街を歩くことと同じ感覚なのだと思います。
いずれにしろ、NFTであるかどうかに関係なく、アートやデザインとしてどのぐらいの価値で評価されるかは都度議論されるべきですが、情報が少ないものや、偽のブロックチェーンに登録された偽物も多く存在しているため、健全な市場が形成されるにはまだ時間がかかると思います。

得られる特典・機能

一方でNFTを機能的な側面で捉えた場合は、その用途が明確である必要があります。例えばAxie InfinityやSTEPNのNFT(キャラクターやアイテム)は、ゲームを始めるために必要なツールでもあります。ゲームを有利に進めることができるレアなアイテムであれば、ゲームの人気度合いによっては高額で二次流通するでしょう。
また、トークンを持っている人だけが参加できる特別なイベントがあるなど、入場券や優待券のような性質を持つNFTの場合はどうでしょうか。この場合、そのイベントに人気があれば、自ずとNFTとしての価値が高くなります。他にもAir Dropといって、NFTを持っている人だけに定期的に追加のトークンが配られる特典があります。それがゲームなど何かに使えて、役に立つのであれば価値も上がっていくでしょう。NFTを持っている人だけが参加できるオンラインサロンや、コミュニティの中で発言権が与えられるトークンなどは人気が出ると思います。
このようにNFTをアート作品として気に入って購入する人もいれば、NFTで得られる特典のために購入する人、さらにはそのどちらでもなく、二次流通市場で高値で転売することを目的に購入する人もいます。こうして市場での価格が形成されていくのです。

NFTとクラウドファンディング

つまり、これからは、作品としての価値もありつつ、ユーティリティ(有用な機能)があるかどうかが成功の鍵となります。
例えば、優れたデザインを持つアートとして価値のあるようなNFTを作成します。そこに会員権としての機能も付与して、そのNFTを持っている人だけが発言できるコミュニティを作り、様々な活動に対する意見交換ができるようにする、といったことなどが考えられます。機能としては、クラウドファンディングとオンラインサロンを組み合わせたような形です。
クラウドファンディングの場合は、様々な金融規制に対応する必要があり、集められる金額には限度がありますが、NFTをただ販売するのであれば単なる物販に該当すると考えられますので販売する金額の上限はありません。もちろん収益に対して一定の税金がかかりますが、収入を使って何かを成し遂げるための経費も計上できるので、プロジェクトの原資としては、クラウドファンディングよりは使いやすかもしれません。
クラウドファンディングについては、矢野経済研究所の調べでは、国内における2021年のクラウドファンディングの市場規模は1,642億円とのことで、前の年に比べて大きく減少しています。その原因として、プラットフォーム側の審査が厳しくなったこともあると思いますが、一定数がNFTに流れているのではないかとも考えられます。なぜなら、クラウドファンディングは金融取引であるために金融規制の対象となり、制約が多いのに対し、NFTの販売自体は上述のとおり単なる物販であるため、誰でも扱うことができるという特徴があるからです。
そもそも、ブロックチェーンとともに生まれたトークンには、次の3種類の機能があります。

① 証券型:株式のように金利やリターンを発生させる株券のようなもの
② 決済型:仮想通貨のように代金の支払に使えるもの
③ 優待型:法定通貨との交換価値は持たせず、優待券のように使われるもの

一般的にNFTはこの優待型のことを指します。他の2つはそれぞれ対応する金融免許や登録・届出などがなければ扱うことができません。優待型のトークンの販売には金融免許が必要ないことが発行しやすさにつながっており、結果的に一般の消費者からは一番購入しやすいものとなりました。金融システムと最も遠いところにいたはずのNFTが資金調達手段として使われるようになるのは、大変興味深い現象だと思います。

コミュニティ管理に使えるNFT認証

NFTがクラウドファンディングに勝る部分は、金融規制の対象となるかどうかだけでなく、デジタルの証明書として、購入者の管理が容易になることも挙げられます。
例えば、お金を払った人だけが参加できるコミュニティを作って運営する場合、クラウドファンディングの場合は、お金の管理と出資もしくは寄付した人の管理は連動しておらず、クラウドファンディングのプラットフォーム上で、メールアドレスやユーザーIDなどを用いて別途紐づけすることが必要になります。寄付した人への特典付与も、別途郵送やメールで行う必要があります。
NFTの場合、購入したNFTを所有している人だけが参加できるコミュニティは、NFT認証を使えば簡単に作成でき、NFTとオンラインミーティングやチャットなどのグループの参加者の管理を連動させることができます。特典についても、NFTを表示させることでイベントの入場券としたり、デジタルコンテンツのAir Dropを実装することもできます。
このようにNFTを活用することで、コミュニティの管理と活性化が今まで以上に手間をかけずにできるようになる可能性があります。NFTがそもそもデジタルの証明書であるという利点を最大限活かした新しいNFTを設計することが成功の秘訣となるでしょう。

著者略歴

東海林 正賢(しょうじ・まさより)
Jazzy Business Consulting株式会社 代表取締役
一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会 代表理事

新卒で外資系システムサービス会社へ入社し、新規事業開拓を担当。2015年にコンサルティング会社に転職。フィンテックに関する専門組織を立ち上げ、統括パートナーとして組織をリード。2021年に一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会を立ち上げ、代表理事に就任(現任)。2022年に独立し、Jazzy Business Consulting株式会社を立ち上げ、代表取締役に就任(現任)。

バックナンバー

第1回 メタバースが経済をつくる
第2回 メタバースでイベントを開催したい!
第3回 Play to Earn事例で考えるメタバースの収益モデル
第4回 メタバースを収益化するためには?
第5回 Webの進化に追いつけない“裏側”のデジタル化

第7回はこちら

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!