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はじまりのマルゼルブとお肉屋さん【パリ】

パリのマルゼルブ通りは8区と17区をななめに渡っている大きな通りで、高級住宅街や、わりとおしゃれなお店の多いパリの中でも比較的治安の良い(とされる)エリアである。

マルゼルブ駅を出れば目の前にソルボンヌ大学があり、すぐそばにはEcole Normale de Musique de Paris、音楽院があるので建物の前を通りがかるとピアノや楽器の音が、かすかに心地よく聞こえてくる。

近くにはモンソー公園という緑が美しい場所があり、都会のオアシスといってもいいほどに公園内は時間が穏やかに流れている。朝には犬を散歩させる夫婦の姿、ランニングに励む女性などの姿を度々見かける。スリや治安のせいで無意識に身構えがちなパリでも、この場所は本当にゆったりと過ごすことができる。

わたしが最初にフランスに訪れたときの滞在場所は、このマルゼルブ通りすぐそばのアパートだった。Airbnbで借りたそのアパートは現在掲載を中止して、残念ながら再びその場所に訪れることはできないけれど、初めてのフランス滞在を色鮮やかに彩ってくれた。

最初の印象って、とても大事。

マルゼルブ通りを平行に走る小さな通りがある。レヴィ通り。

大きな道のマルゼルブ通りに対して、商店街のようになっているその細い通りは活気があふれていて、地元の人たちが野菜を購入したりワインを買ったりする街の人たちが普段行き交う日常的な場所。

ここに「Moutault Jean Pierre」というお肉屋さんがある。このお肉屋さんのお兄さんがとにかく優しくて、わたしは数分のやりとりで完全にパリをまるっと好きになってしまった。一連のやりとりを以下に掲載するが、本当に大したことではない。

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Bonjour! そう声をかけたら店員のお兄さんはすぐにわたしの存在に気づき、にこやかな表情で挨拶、颯爽と入り口までやってきてくれた。

どれが欲しい?これ?と指をさしながら品物を確認して、お肉、500g欲しい、わたしのつたない仏語で会話。お会計は...

ちょっとまってね、小銭を出したいから。

un, deux, trois euro... 彼は口にだして一緒にわたしの手のひらにある小銭の枚数を確認してくれた。なんて紳士なんだ...ゆっくりと数えるのも付き合ってくれて、なおかつ数字のレッスンもしてくれる、とわたしは勝手に舞い上がった。

(その時購入したお肉。美味しかったのは言うまでもなく...)

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買い物しているだけで、小さな気遣いや心配りと優しさが染み入る。心に余裕があるからなのだろう、パリの人は冷たいというけれどそんなことない、優しいかどうかは人によるのだと良くわかった。一概に物事は決め付けられないし、XXは△△だと一括りにもできない。

またお兄さんに会いに行きたいな、今なら仏語もしっかり話せるし、と2年後のある日、パリに旅行中のわたしはその場所へ向かおうとリベンジをした。

しかしその日、お店はシャッターを下ろしていた。落胆しつつもまだお店が潰れていないことだけにはほっと胸をなでおろし、また来ようと誓ったのである。

彼、今でも変わらずに優しいままでいるといいな。あなたのおかげで、最初のフランスの旅が美しい思い出になったんだよと、そう伝えたい。

Moutault Jean Pierre, 25 Rue de Lévis, 75017 Paris, フランス

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