見出し画像

コロナ禍の学生生活、6割が「不完全燃焼と感じる」。広島の就活生焦りや戸惑い

 新型コロナウイルスが感染拡大した2020年春に大学に入った広島市内の3年生の約6割が、大学生活を「不完全燃焼」と感じている―。そんな実態が中国新聞社が市内の6大学に実施した就職活動に関するアンケートで分かった。思い描いた学生生活とのギャップに悩む声や、就職後に「オンライン慣れ」の生活から一転して対面で人と接する機会が増えることに戸惑う姿も浮かび上がった。(加納亜弥、栾暁雨)

 アンケートは今夏実施し、市内の公立2大学と、学生数3千人以上の私立4大学の3年生計566人が回答した。入学時から対面の講義やサークル活動が軒並み中止となった世代。大学生活の満足度については、327人(58%)が「不完全燃焼の感覚がある」とし、「満足している」とした170人(30%)の2倍近くに上った。

 採用試験でよく聞かれる質問「学生時代に力を入れたこと」(通称ガクチカ)は、「ない」が328人(58%)で過半数を占めた。「ある」は238人(42%)だった。

 コロナ禍が進路決定や職種選択に与えた影響(複数回答可)は「社会が急速に変化し、企業選びの基準が分からなくなった」の213人(38%)で最多。リモートワーク推進や転勤がないことを重視したり、資格取得に魅力を感じるようになったとの回答も目立った。

 自宅でオンライン講義を受けるなど、ステイホームに慣れた反動を心配する声も。「対面で人と接する自信がない」または「毎日定時に出社する自信がない」とした学生が計136人(24%)に上った。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 広島市内6大学の3年生566人が回答した中国新聞社の就活アンケート。回答や自由記述からは、多くの学生が新型コロナウイルス禍で行動が制限された学生生活に物足りなさを感じる一方、就職後に対面で人と接する機会が増えることに不安を覚える学生も一定数いる傾向が見てとれた。キャンパスライフに空白をつくったコロナ禍が就活に与えた影響を探る。

■希望する職種や勤務地

 一般企業を希望した学生が426人(75%)と最多。公務員は56人(10%)、大学院などへの進学は27人(5%)だった。希望する会社の規模は「問わない」が376人(76%)で、「大手」の122人(24%)を上回った。4割以上の250人が広島県内や出身地など地元で働きたいと望み、県外の大都市部を目指す89人を大きく引き離した。

■大学生活への満足感

 現3年生が大学生になった2020年春は最初の緊急事態宣言下にあり、多くの大学で入学式が中止に。その後も断続的に行動制限があり、講義の大半がオンラインに切り替わった。対面授業がおおむね再開されたのは21年秋以降だった。

 大学生活への満足度を尋ねた設問には、327人(58%)が「不完全燃焼の感覚がある」と回答。「満足している」は170人(30%)にとどまった。69人(12%)は「どちらでもない」とした。

■「ガクチカ」

 採用試験でよく聞かれる質問「学生時代に力を入れたことは何ですか」(通称ガクチカ)。238人(42%)が「ある」と回答した。TOEICのスコアアップや簿記などの資格取得、オンラインでの部活動やインターンシップの経験など、巣ごもり生活でも自分なりの「ガクチカ」を積み重ねていた。

 それでもやはり、過半数の328人(58%)がガクチカが「ない」とした。ある学生は「サークルで小学校への出前講座などのイベントを企画したのに、新型コロナの感染拡大によって直前で何回も中止になった。諦め半分での活動になった」と嘆く。

 「ガクチカ」の有無は、就活に影響するのか。リクルート就職ジャーナルの中田充則編集長は「コロナ禍で学生の行動が制限されていることは企業の人事も承知している」と指摘。企業は、学生の人柄や『らしさ』に着目し、入社後の仕事でそれがどう再現されるかを想像しながら面接しているという。「すごいエピソードや自慢話を探す必要はない。身近な経験談でもいいので、自分らしさを表現してほしい」と助言する。

■コロナ後の社会人生活への不安

 3年生の多くが就職する24年春。「ウィズコロナ」や「アフターコロナ」の中、社会人として働く上での不安を尋ねたところ、最多の198人(35%)が「勤務先で自分が望むワークライフバランスを実現できる環境があるか不安」が回答した。

 72人(13%)が「オンラインなどに慣れてしまい、対面で人と接する自信がない」、64人(11%)が「ステイホームに慣れてしまい、毎日定時に出社する自信がない」とするなど、「コロナ慣れ」した学生生活と社会生活のギャップを不安がる声も一定数に上った。職種を選ぶ上でも「リモートワークの推進」「転勤がない」など、働き方の柔軟性を重視する学生が多い傾向も分かった。

 企業側はどう対応すべきだろうか。就職ジャーナルの中田編集長は、コロナ禍でリモート化が一気に進み、新入社員が上司や先輩の仕事を間近で見る機会が減っていることを考慮する必要があると語る。

 「かつては『仕事が人を育てる。入ってから学べばいい』という考え方もあった。しかし人的資本経営の考え方が重要視される中、どう人の育成に力を入れ、それを企業が成長にどう結びつけるか。そこをクリアにし、学生側に発信していく必要があるでしょう」。採用活動を巡っても「うちの会社だと、あなたの能力はこう生かせるよ」「こんなキャリアデザインを描けるよ」と学生側に具体的に提示することが鍵になる、と提起する。