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U35世代が足を運ぶバンクシー展。 その魅力について考えてみた。

 何という光景でしょう。広島市中区のひろしま美術館の前に行列ができています。最近はコロナ禍でひっそりしていたのに―。美術担当になって2年の私・福田(30)は感激ひとしおです。人気を集めているのは「バンクシー展 天才か反逆者か」。とりわけU35世代の姿が目立ちます。バンクシーの何が心に「刺さる」のでしょう。来場した若者を中心に聞きました。どうやらポイントは三つあるようです。(文・福田彩乃、写真・山田太一)

①行列

1.その自由さ

 「なんか、自由っすね」。こんなふうに第一印象を語る人が何人かいました。確かに自由なんです。何もかもが。まず、その創作スタイル。バンクシーといえば、街中の壁に絵を描くことで有名ですが、他にもいろんな所をキャンバスにしてしまう。橋とか、電車の中とか。
 作品の雰囲気もさまざまです。シュールで不気味な絵もあれば、ポップでかわいらしい作品も多い。色彩もモノトーンだったり、カラフルだったり。それにミッキーマウスやミケランジェロのダビデ像など、実在する他者の「作品」も遠慮なく表現の素材として活用してしまう。本当に自由です。

②ラフ・ナウ

⇧「ラフ・ナウ」 

③バンクシーVSミュージアム

⇧「バンクシーVSブリストル・ミュージアム・ポスター」

 この自由さって、すなわち見せ方の「引き出しが多い」とも言えそうです。お友達と訪れた広島市西区の会社員本光優香さん(25)は、鑑賞中、スマートフォンが手放せなかったそう。「何でもありで面白いな、と純粋に楽しめるんだけど、なぜこんなふうに表現するんだろうと『引っ掛かる』ところも多くて。気になって、解説サイトや英文の意味をつい検索しました」
 どんな場所に、どんなタッチで、何を描くか。バンクシーは、頭の中にあるたくさんの引き出しから、その時々で最適なパーツを選び取っているのかもしれません。自在に広がる表現の世界。誰にも縛られない伸びやかさが、刺さるポイントの一つなのでしょう。
 そうそう、自由といえば今回展示されている作品は撮影OK。もちろん個人的に楽しむ範囲であれば、ですが。会場では、スマホのカメラを向ける人がたくさんいます。作品をとても身近に感じることができて、うれしいですよね。

④ラブ・ボム

  ⇧「ボム・ラブ」をスマホで撮影する来場者

2.気付く。考えさせられる

 バンクシーの作品は、現代の社会を風刺したものばかり。大勢が当たり前に受け入れている社会のシステムにも、鋭い目を向けています。例えば「セール・エンズ」という作品。「今日でセールはおしまい」という文字の周りで、人々が大げさに悲しんでいます。消費することに翻弄される現代人をユーモアたっぷりに皮肉っているようです。
 府中町の会社員女性(27)は「資本主義への批判精神を感じました。自分には無い視点。そんな考え方もあるんだなって」と新鮮に受け止めます。

⑤セール・エンズ

⇧「セール・エンズ」

⑥ラブ・イズ・イン・ジ・エア

⇧「ラブ・イズ・イン・ジ・エア」

 もう1枚の絵。これ、見たことありませんか?「ラブ・イズ・イン・ジ・エア」という代表作の一つです。男性は、何かの抗議活動に参加している人に見えます。振りかぶったポーズで、火炎瓶や石を投げるのかな―と思いきや、手にあるのは花束。何ごとも平和的に解決しよう、というメッセージでしょうか。
 「受験勉強の合間の息抜きに」と、1人で会場に訪れた高校3年生の高松知広さん(17)=広島市西区=は「ちょっと難しいなと思うけど、いろいろ考えるきっかけになって刺激的」と話してくれました。「若者だって社会問題に興味はあります。大人よりずっと考えてるんじゃないかな」と。
 例えば、地球温暖化が進んで将来困るのは若い世代でしょ?と高松さん。なるほど。「バンクシーのような海外の人が、社会の課題をどう見ているのかもうかがえて、面白いです」

3.姿を見せない仕掛け人

 英国を拠点に活動するバンクシーですが、素顔や年齢すらはっきり分かりません。こんなに謎めいた超有名人って、他にいるでしょうか。
 会場には、バンクシーの正体を少し垣間見ることができる展示があります。普段、創作活動をしているスタジオを再現した写真。本人が公表した映像などから作られました。作品が雑多に並び、床には物が散らばっていて、まるで秘密基地のよう。会場では、まずこの写真が来場者を迎えます。バンクシーを一気に身近に感じる空間です。

⑦スタジオ

⇧バンクシーのスタジオを再現した「アーティスト・スタジオ」の写真

 柳井市の大学3年生の女性(20)は「どんな人なのか気になります。どうやって作品を描いているんだろう」と想像を膨らませます。やや先輩世代の来館者にも話を聞いてみました。「神出鬼没でロマンがあります」と語るのは、廿日市市の会社員男性(42)。新婚旅行先のイタリアで、バンクシーの作品を実際に見掛けたそうです。

⑧ガール・ウィズ・バルーン

⇧「ガール・ウィズ・バルーン」を撮影する人々

 「企画力もすごいですよね。何かしら面白いことを仕掛けている」と男性は言います。確かにバンクシーはとっぴな発想で、何度も世間の話題をさらってきました。代表作の「ガール・ウィズ・バルーン」は2018年、オークションで落札された瞬間、額縁に仕掛けられたシュレッダーで絵の半分ほどが細断されてしまいました。この騒動でバンクシーを知った、という人も多いのでは? 実は私も、その一人なんですが。
 イスラエルとパレスチナの分離壁のそばに、自分の作品でいっぱいのホテルを建てるなど、バンクシーは絵を描く以外にもいろいろなアクションを起こしています。謎に包まれた、切れ味ばつぐんの仕掛け人。ミステリアスな人物像も強く引かれる理由なのでしょう。

◆チケットは予約制
 会場には約70点が並んでいます。展示は12月5日までで、会期中は無休。入場は原則予約制のため注意が必要です。日時は自分で指定できます。チケット購入は展示の公式ホームページから⇩