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森林で働くってかっこいい。島根の山で若者たちが思うこと ~連載「めぐる森林」から

 林業にチャレンジする若い人たちが増えつつあります。体力勝負でハードなイメージの仕事。人手不足が続いていますがなぜなのでしょう。どんな人たちが、何に魅力を感じながら働いているのか。面積の約8割が森林という島根県内の現場を巡りました。(鈴木大介、松島岳人、寺本菜摘)

渡辺和樹さん(29)かっこいい機械に魅せられ

 島根、山口の県境に近い山林。伸共木材協同組合(益田市)の渡辺和樹さん(29)が手際よく操作しているのは、ハイテクの林業機械だ。スウェーデン製のハーベスタというアタッチメントを付けた6、7㍍のアームが、ヒノキの丸太を同じ長さに次々と切り分けていく。

 不要な枝葉を落とすのも長さを測るのも、1台でできる優れもの。迫力があって、かっこいい機械は、林業に携わる若者たちの心もつかむ。渡辺さんは笑顔で話す。「木の太さや曲がり具合を考えながら動かすのが楽しい。人力だと半日かかる作業も、1時間でこなせるんですよ」

 コロナ禍前には、機械化が進んでいるスウェーデンの技術者から操縦の指導を受けた。「刺激を受けた。コロナ禍が収まったら、スウェーデンに行ってみたい」と話す。海外の風も好奇心を呼び起こす。

栃谷徳子さん(39)と杉原愛梨さん(23)「女性の力で」

 さまざまな機械化によって、林業で女性が働くフィールドも広がりつつある。飯南町の山林では、飯石森林組合(雲南市)の栃谷徳子さん(39)と杉原愛梨さん(23)がチェーンソーで木を切り倒していた。「どーんと、足場も揺れる。切る人しか味わえない迫力がある」と栃谷さんは汗をぬぐう。重機も操り、力仕事だけでなく細やかな技術も求められる。「男性の職業というイメージを払拭し、女性の力で林業を盛り上げたい」と2人は意気込む。

 スポーツクラブのインストラクターだった栃谷さんは、2017年に森林組合に転職した。「女性が少ない場所で働いたら面白そう」と未経験だった林業の世界に飛び込んだ。「まだ自分のことで精いっぱいだが、機械操作の技術を他人に教えられるレベルまで磨きたい」と目標を語る。

 杉原さんは、重機の操作に興味を持ったのをきっかけに、県立農林大学校林業科(飯南町)で学んだ。就職して3年がたち、「山を育て、山の命をいただく仕事」だと実感する。

 2人は「林業って想像しにくい」と口をそろえる。山林に足を踏み入れなければ、その仕事ぶりを目にする機会は少ない。「林業を体験する場がもっとあれば、ハマる人は出てくる」と信じる。

湟川満正さん(43) 移住し「生きている実感」

 林業は田舎暮らしとの相性もいい。「過疎発祥の地」と言われる益田市匹見町では、移住者たちが林業に励む。湟川ほりかわ満正さん(43)もその一人だ。

 米を作り、ニワトリを育てる。自宅に冷房はなく、夏になると目の前の匹見川に漬かり涼を取る。「生きている実感がある」と表情は充実している。

 高校卒業後、東京でプロキックボクサーとして活躍した異色の経歴を持つ。引退後は広島市内の運送会社で働いていたが、3人の子どもに恵まれ「自然の中で子育てをしたい」という思いが強くなった。テレビで林業の特集を見て担い手が減っている現状を知り、「自分の居場所はここにあるのでは」と林業への転職を決めた。

舩木海さん(28)フリーランスのきこりは「山のヒーロー」

 雲南市を拠点に活動するのはフリーランスのきこり、舩木海さん(28)。林業を志したきっかけは、小学生の頃にテレビで見た仮面ライダーだという。数あるシリーズの中で、山を舞台に戦うライダーに憧れた。「山に行けば自分もなれるんじゃないかと。今もヒーローごっこをしている感覚はある」と笑う。

 森林組合で技術を身に付け、独立して3年。公園やキャンプ場などから山林の整備を任される。個人宅の草刈りや庭木の剪定も引き受ける。「山間地の便利屋みたいなものです」と言う。

 昨年から、参加者を募って山林整備と遊びを兼ねたイベントも企画する。まき作りや枯れ木を見極めるワークショップ、チェーンソーの使い方講座などを開いた。「そもそも林業って何?というレベルの人が多い。人と山の接点をたくさんつくりたい」と思い描いている。

「格好いい林業」の発信に力

 島根県内で林業の新規就業者は、17年度の70人から増加傾向にあり、20年度は90人に伸びた。全体の平均年齢は46歳前後で若返りつつある。アウトドアブームや新型コロナウイルス禍で自然に目が向き、各事業所は人材確保の好機と捉える。

 林業の各団体や企業は若い世代をターゲットに、「格好いい林業」の発信に力を入れる。

 2021年3月に美郷町林業推進協議会が作った冊子の表紙には、「いい木になりやがって。」との文言が走る。チェーンソーを手に、サングラスをしたひげ面の男性が大写しされる。

 表紙のモデルには、実際に伐採現場で働く社員を起用した。「若い人がつい手に取ってみたくなる表紙にしたかった」。美郷町の林業担当で協議会事務局の下垣真太郎さん(28)は振り返る。

 津和野町の地域おこし協力隊の林業チーム「ヤモリーズ」は、子ども向けの森林教室や間伐体験に参加する際、おそろいの赤のジャケットとヘルメットを身に着ける。町農林課が掲げるのは「格好良くないというイメージを変えて、子どもたちが憧れる存在になるのが目標」。多彩な試みが広がっている。