見出し画像

広島の若者が感じる「性」のもやもや【後編】。性教育の不足も背景

 性のことは大切なのになぜかタブー視されがち。パートナーと互いを尊重し、信頼関係を築くためにはどうしたらいいのでしょうか。広島県内の学生4人に、座談会で引き続き語ってもらいました。(佐伯春花、栾暁雨)

【参加した学生】
  女子A(21) 大学3年
  女子B(22) 大学4年
  男子C(24) 大学院2年
  女子D(24) 大学院2年

《前編を読む》

―パートナーとの性的な行為で互いの意思を確認する「性的同意」って、どうしたらすんなり口に出せるんでしょう。

【男子C】 僕は彼女に毎回「性的同意」は取るんだけど、こういう考え方になったのは「性的同意」という概念を知ってから。だからこそ相手と対等になろうとする気持ちがある。この概念を知っていること自体が重要だと思います。

【女子A】 確かに。知っていると、嫌なときは嫌って断っていい、申し訳ないと感じる必要はないって思えるよね。大切な相手なら思いを尊重したいし。自分や相手を守るために知っておくことって大切ですね。

―自分の体や心に関する大切なことなのに、性のことを話しづらいのは、知らないからなんでしょうか。

【女子D】 やっぱり教育が足りていないですよね。学校の授業では生理や妊娠の話ばかりで「性=生殖」としか捉えられない。エッチなもの、恥ずかしいもの、人に隠すべきもの、という風潮が出来上がってしまってる。
 教科書でも、いきなり赤ちゃんができたところから始まったりしてて、そもそもなぜ受精卵になったのかなど妊娠の過程を取り扱わない。避妊しなさい、中絶という選択肢もあるよ、ということは伝えるようになっているのに、どうやって妊娠するかは教えられない。そこからしてすごく変で。
 今の高校生の性教育の授業でも、費やす時間が圧倒的に少ないんです。2年間で7時間くらい。海外ではもっときちんと授業をしているのに、日本は遅れていますね。

【男子C】 男子同士だと性の問題は飲み会とかで面白おかしく語られることが多い。どうしても、からかい半分、ネタみたいな感じで真剣な話にはならないですね。

【女子A】 性に関することへの禁止事項が多いからかなと思います。18歳未満は閲覧できないとか、フィルタリングをかけて規制するとか。もちろん未熟な子どもを守るためには必要なことだけど、禁止事項が多いから「隠さなきゃいけない」とか、「それをすり抜けて得る情報だ」みたいなイメージがあるのかなって。

座談会に参加した広島の学生

―ただ、性的な行為への同意能力があるとみなされる「性的同意年齢」は、日本では13歳です。刑法で定められており、明治時代に制定されてから変わっていません。

【女子A】 やばいと思う。ただでさえ性教育が不足しているのに、13歳って何も教えられてない段階です。私が性行為について学校で聞いたのが高2の外部講師の講演会だったので、13歳って本当に子ども。スマホ持っていない子やネット環境がない子もいる。何か起きても声を上げられるとは思えません。

【女子D】 例えばセクハラもそうだけど、知識としてセクハラという被害があると分かって初めて「これってハラスメントなんだ」と気付ける。教育の場できちんと扱わないのに、被害に遭った時だけ声を上げろって無理だと思う。もしその加害者がよく知った人で、その人に「内緒だよ」って言われたら、13歳とかそれより小さい子たちって声を上げられるのかな。自分が被害に遭ったことにも気づかないまま生きている子も多い気がします
 あと、日本では異性の親とのお風呂タイムの期間が海外に比べて長い。親だから体に触れるのは問題ないとされるけど、本当は物心つくくらいから「プライベートゾーンは人に触らせちゃいけない」と教えることが大事だと思う。
 そうした教育が足りていないから、現状では自衛するしかない。自分で守らないと誰も教えてくれないし、色んな場面で自己責任論がすごく強い。無知なあんたが悪いんでしょ、となる。それを知らせない教育や社会が悪いのに。
 しかもやっかいなことに性被害は可視化しにくい。例えば、触られた方の心の傷は外からは見えない。だから被害者は訴えにくいし、加害者も犯罪意識を持ちにくいのかなと思います。性暴力で心は確実に削られているのに。
 そうならないためにも義務教育で性のことを扱うのが最後のとりでだと思う。中学を卒業して社会に出る子もいるし。

―教育が大切なんですね。それを踏まえつつ、私たちが互いを尊重するために必要なことって何でしょう。

【女子D】 性の問題って結局、コミュニケーションの問題かもしれない。例えば性的な意味がなくても、触られたい人もいれば触られたくない人もいる。どれくらいの距離感が心地いいかも人それぞれ。普段の生活だと人に「ペン借りてもいい?」っていう一言がないと「勝手に使われた」ってなるのに、そこが性の話になると途端に同意を省きがちになってるなって思います。いちいち了解を取るのは「スマートじゃない」みたいになってる。

 【女子A】 でも「スマートじゃない」で片付けるべきじゃないよね。じゃないと、どちらかが傷つく。避妊具なしで性行為しようとした元彼には、「嫌な思いをした」という私の感情に向き合ってほしかった。別れた後もLINEで「もしかして浮気してた?」って聞いてきて、「こいつ何で振られたのか全然分かってないな」ってがっくりした。

【男子C】 僕は男性だから、そういうところに関して無自覚でいられたんだなって思います。例えば酔った女性に暴行するという犯罪がよく起きるけど、男性だと被害者になることは女性に比べて少ない。だから性的同意についても、知らなくても普通に生きていけてたかもしれない。これはある意味、自分が優位な立場にいられてたってことなんだなって。
 でも性を巡る場面では同意をきちんと取れた方が、絶対に相手とも良い関係が築ける。それは性のことだけじゃなくて、普段から相手と心地良い関係であるためにコミュニケーションを丁寧に取るのと同じこと。繰り返しになるけど、お互いに「嫌」と言える関係性を作ることが重要で、その延長線上に性的なことも含めた信頼関係ができるのかなと思います。

 【女子D】 あとは、日本社会では男性の優位性が根強いことも背景にあるかも。最近マッチングアプリを始めたんですけど、やっぱりどこか「男が選ぶ側」という価値観を感じる。選ばれる側の女はいかに自分の商品価値を高めるか、みたいなところがあって。「金持ちの男に選ばれる女性ってこんな人」みたいな記事もネットにはあふれているし。
 プロポーズだって女性からすると「逆プロポーズ」、バレンタインに男性がチョコをあげると「逆チョコ」。それ誰が決めたの? っていう謎の規範が社会に多いですよね。

 【女子A】 確かに。それでいうと男性も大変なのかも。「男らしさ」とか求められて、女性をリードしなきゃいけないと思い込まされている。だから性体験がないことが恥ずかしい、経験が多い方が男として上、みたいな感覚が生まれる。今の彼氏は割と中性的な子で、「男らしさがしんどい」タイプ。男性だってつらい面はあると思うから、無自覚で生きてこられたっていうのは私も同じで、ジェンダーをしんどいと思う人たちの声を聞かなきゃいけないなと思います。

 【女子D】 そうだよね。マッチングアプリにはデート費用はどうするかという選択欄があるんだけど、「男性が全て払う」という項目はあるのに、「女性が全て払う」はない。男女の賃金差への配慮もあるんだろうけど、男性が払うべきだという圧力はあると思う。経済力がないとモテないみたいな

 【男子C】 僕自身もそう思っている部分がある。女性におごったり多めに払ったりした方がいいんじゃないかって。大学生になって特に感じる男らしさの指標の一つが「デート代を多く払うべき」ということ。互いに変なジェンダーバイアスにとらわれている面はあるよね。性差による偏見はまだかなり残っています。

 【女子B】 だからこそ、まずは学ぶことから始めたい。自分は関係ないと思わずに、色んな立場の人がいて多様な価値観があることを知ることからしか、社会は変わらないと思います。