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フードバンクがパンク? どうしたらいいのか、広島の現場を歩いて考えてみた

「フードバンク」ってご存じですか。食べられるのに捨てられてしまう食品を、必要としている人に届ける活動のことです。広島県内でも広がってきましたが、このところ新たな課題が浮上しています。それは、フードバンクに集まる食品が増えすぎて「パンク」しそうになっていること。現場を歩き、どうしたらいいのかを考えてみました。(川村正治)

集まる食品の量が増えて、さばききれない?

 「手に負えないほど、集まる食品の量が増えているんです」。福山市のNPO法人フードバンク福山の代表理事、小林由卓さん(49)は困り顔で言う。「せっかく善意で食料を寄せてもらっているのに、断らなきゃいけなくなる」


 フードバンク福山に企業などから寄せられる食品は、2017年度は26トンだった。それが19年度には2倍の50トン。21年度は70トンを超える見込みだ。すさまじいスピードで増えている。
 食品を必要な人に配るため、スタッフや車を大幅に増やすのは難しい。運営は賛同する団体の寄付金に頼っており、限りがあるからだ。
 広島市安佐北区でフードバンクに取り組む「あいあいねっと」でも、ここ数年は毎年10トン近く増えている。さばききれずに受け入れを断る時もあるという。

日本の食品ロス 年間600万トン

 さて、そもそもなぜフードバンクに集まる食品が増えているのだろう。
 まずは、食べられるのに捨てられる「食品ロス」の量が日本国内で多いことがある。国の推計では年間570万トン。国民1人当たり毎日茶わん1杯分の量を捨てている計算になる。

 また、フードバンクに食品を提供する企業にはメリットがある。その一つは、余った食品の廃棄費用がかからないこと。しかも、フードバンクへの食品の提供は「寄付」ではなく「廃棄」とみなされるため、企業は提供分を損金として計上でき、法人税の節税につながる。

 そうした事情でフードバンクはパンクしそうになっている。一方で、コロナ禍の中でフードバンクに食料を求める声は増えているそうだ。何とかならないのだろうか。

民間の団体から「行政の側面支援を」

 広島市安佐北区の「あいあいねっと」の代表を務める原田佳子さん(69)は、「行政の側面支援があったら助かるのですが…」と話す。食品の保管場所として公共施設の空きスペースを貸してもらったり、活動を支えるボランティア募集の広報を手助けしてもらったり。「自治体も当事者の目線に立って一緒にどうすればいいか頭をひねってほしい」と注文する。

 全国48団体が所属する「全国フードバンク推進協議会」(東京都)でも、同じような話を聞いた。「民間のフードバンクを自治体がサポートする仕組みが整っていないんですよ」

行政のサポートの現状、聞いてみた

 実際、行政のサポートはどうなっているのだろう。ひとまず福山市の環境啓発課や生活福祉課に聞いてみた。すると「うちの課が担当ではないと思う」と返事が返ってきた。フードバンクの活動は、環境や福祉、経済、農業とさまざまな分野に関わるからか、福山市では担当課さえはっきりしていない。
 とは言っても、福山市も貧困世帯から相談があると、当面の食料を確保するためにフードバンクを紹介するケースがあるらしい。市も頼りにしているにもかかわらず、民間のフードバンクを援助する仕組みがないことには疑問が残る。
 では、国レベルでの支援はないのだろうか。今度は農林水産省に聞いてみた。すると、車や倉庫のリース料を補助する支援メニューがあった。でも「最大で利用できるのは3年間」という。これでは継続的な活動の支えになりそうにない。

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寄せられた食品を並べる神石高原町の職員

 一方、自治体が独自でフードバンク事業を始めるケースもある。広島県神石高原町は2021年8月にスタート。福山市も家庭で余った食品を集める「フードドライブ」を2021年10月に実施し、11月以降も続けることが決まった。こうした自治体の動きはうれしいし、応援したい。でも、民間のフードバンクの課題解決の議論がすっぽり抜け落ちていることをあらためて寂しく思う。

捨てられる食品、もっとほかの使い道は?

 そもそも捨てられる食品に、もっと使い道を作れないものだろうか。フードバンクの関係者に取材を進めると、「提供先は貧困家庭などに限って」という企業側からの条件にぶつかる状況もあるようだ。一般家庭が自由に無料の食品が受け取れるとなると、食品の商品価値にも関わるためだそう。その理屈も分かるが、日本の食品ロスの量の多さを考えると、とても福祉関連の利用だけで消費できそうにない。

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 ちょっと自分なりに妄想を膨らませてみた。
 大規模イベントで振る舞えば、一斉消費ができるだけでなく、国連の持続可能な開発目標(SDGs)について考える機会になりそう。目標の12番目は「つくる責任 つかう責任」だ。ほかにも、家畜の飼料や農作物の肥料へ転換していく仕組みを作り上げてもいい。食品の市場価値への影響を抑え、捨てられるはずだった食品に新たな使命を与える道はたくさんありそうだ。

若い世代の関心は高い!

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 フードバンクの取材を進めていると、若い世代が自然環境への関心が高いことにもあらためて気付いた。2021年秋の衆院選の頃、街頭演説を取材した同僚の記者の話では「環境問題がテーマになると、通りかかる高校生たちが足を止めて聞く」というのだ。SDGsの考え方が広がり、学校で学ぶ機会が増えたためだろう、というのがその記者の分析だった。スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさんの活躍も注目を浴びている。
 この機運を生かさない手はない。若い世代の柔軟なアイデアも取り込んで、食品ロスの解決に向けて議論を深められたらと思う。

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