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メイクで前向きになれた私―。「マスク女子」から資生堂の美容部員になった小佐井千菜津さん(25)=広島

 デパートやドラッグストアなどで化粧品を販売し、お客さんにメイクやお手入れ方法を紹介する美容部員。資生堂ジャパン中四国営業本部(広島市中区)の小佐井千菜津さん(25)に、メイクの力を生かすマイルールを聞きました。(聞き手・栾暁雨、写真・浜岡学)

小佐井さんってこんな人
 広島市西区生まれ。山陽女学園高、安田女子大心理学部卒。2019年に資生堂ジャパン入社。ドラッグストア「ウォンツ」の化粧品コーナーで、資生堂の主力ブランド「マキアージュ」や「エリクシール」を担当する。

美容部員って美意識が高くて、きれいな人が多いイメージです。もともとメイク好きだったのですか。

 全然です。私、中学から大学の途中まで「だてマスク女子」でした。風邪でもないのに年中マスク姿。コンプレックスの塊で、素顔を見られるのが恥ずかしくて隠していたんです。

 小さい頃は豚っ鼻で、いつも「もっと伸びろー」とつまんでいたし、大きくなっても悩みが尽きなくて。くすんだ顔色も、一重まぶたも、エラが張っているのも全部嫌で、ずっと鏡を見るのが苦痛でした。女子高時代、みんなが前髪を直したりリップを塗ったりするトイレでも手を洗って終わり。鏡から目を背けすぎて、自分がどんな顔なのか忘れちゃうくらいでした

そんなマスク女子が、どうしてメイクに目覚めたのでしょう。

 大学に入るとメイクをしてキラキラしている同級生が増えたんです。彼女たちを見て、自分も少し変われるかもしれないと興味を持って。ユーチューブ動画や化粧品メーカーのサイトを見て練習を始めました。

 顔の印象って眉の描き方やアイライナー、ファンデーションでこんなにも変わるのかと、驚きました。見たことがない自分に出合えるのが面白くて、空き時間は鏡の前でひたすら練習。おかげで3年生の頃には上達していました。マスク時代を知る人たちには「変わったね」「かわいくなった」と言ってもらえて、うれしかったですね。

 社会人になってからは毎朝、三面鏡で自分の顔を観察するのが日課です。むくみやほうれい線を解消するマッサージをしたり、美容液で丁寧にスキンケアしたり。自分の顔に満足はしていないけど、今はメイクの力を借りることができる。以前のように「これが私」と悲観しなくなりました。

 不思議なことに、外見が変わると内面まで前向きになったんです。これまでは引っ込み思案な性格で、超インドア派。でもメイクを始めてから人の出会いに積極的になり、「あそこ行きたい」「これ食べたい」と意思表示もできるようになった。自分を少し好きになった気がします。

大学では心理学を学んでいたんですね。美容部員になるのは大きな転換だったのではないですか。

 社会科の教員免許を持っていて、学校の先生になるつもりでした。お化粧は好きでも仕事にすることは考えていなくて。でも就活を控えたある日、友人とコスメを探しに行ったデパートで進路が変わりました。

 資生堂のカウンターで出会った美容部員さんがすごく魅力的だったんです。メイクも接客も上手で、「この商品はこう使ったらもっと映えるよ」と的確な助言をくれました。自分では選ばない色を勧められて試してみたら、私の肌に合っていたことにも感動して。「この仕事がしたい」との思いがこみ上げて、資生堂の採用試験を受けることにしました。

人の顔にメイクするのは難しいと聞きます。

 そうですね。皆さん骨格も肌色も違いますから。まずはカウンセリングで普段のお手入れやメイク方法、悩み、希望するイメージを聞くんです。その上で個々の顔立ちに合う、美しく見えるメークを考えます

 目が小さめの人にはアイライナーを長く伸ばし、頬骨が高い人は優しい色のチークを水平に入れて立体感を抑える。メイクを通じてお客さん自身が気付かない魅力を引き出し、自社商品の購入につなげられるのがこの仕事の面白さです。

 上達のためには練習が欠かせません。社内研修で一定の知識と技術は身に付きますが、やはり実践するほど洗練されていく。女友達や自分の彼氏にお化粧させてもらうことも多いですよ。彼氏は顔が濃いので引き算のメイクを学ぶのに役立つんです。

練習と研究が大切なんですね。

 SNS時代の今は流行の移り変わりが早い。引き出しを増やすために、まずは自分の顔で試します。基本を押さえつつ絶えずアップデートして、若い世代の気分にマッチしたメイクを提案したいですね。

 ちなみに今季の旬は統一感のあるメイク。コロナ後を見据えた明るい色の洋服が多いので、メイクの色もリンクさせます。「囲み目メイク」も再流行の兆しです。10年ほど前は黒のアイライナーで太く囲んだギャルっぽい雰囲気でしたが、令和の囲み目はナチュラルさが鍵。古くさく見えないよう、カラーのアイライナーやアイシャドーで抜け感を出します。

 日々違うテーマの化粧をして、出社したら先輩たちに見てもらう。「うーん、今日ちょっと変」と言われることもありますが、率直な意見とアドバイスは勉強になります。

熱心ですね。ところで、韓国アイドルのライブ映像を見るのが趣味だと聞きました。

 TWICEやBLACKPINKのファンなんですが、トレンドを先取りしたメイクをするので参考になるんです。彼女たちが大きなラメを使ったり涙袋を強調したりするメイクをすると、しばらくして日本でも流行しました。
 
 今は洋服もメイクも韓国が流行の発信地。アイドルを観察するとトレンドがつかめて、仕事にも生かせます。色白のアイドルたちへの憧れからか、資生堂でも明るい色のファンデが売れています。BTSの人気もあって「メイク男子」も増えていますよね。男女とも美意識が高いので、映像を見ているだけでモチベーションが上がります。

 もちろん外見が全てではないけど、努力が成果として見えやすいのがメイクの良さ。自分のコンプレックスが大きかったからこそ、私にとっては心に光が差す魔法です。来店時には無口だったお客さんが、メイクするうちに「前はこの化粧品を使っていたの」と少しずつ会話が増える。完成した姿を見て「すごーい!」と目を輝かせてくれる。スキルを磨いて、誰かを明るくできるお手伝いができたら幸せです。