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就活がテーマの『ワタクシハ』を大学生が読んでみた

羽田圭介著『ワタクシハ』を読んだ。次にあげた三つの部分が面白かった。

①主人公太郎を通して見る現在の就職活動

一つ目は主人公山木太郎の視点を通して見る現在の就職活動だ。単行本は2011年1月に刊行されていて、すでに十年以上の月日が経っている訳だが、周りに流され焦り、インターネットで情報を収集しながら、とりあえず就活を始める太郎の姿は、現在の大学三年生とそれほど変わらないと思う。また太郎は内定獲得に奔走する就活の当事者でありながら、元有名人ギタリストTAROというプライドを持っており、「就活は経験」と周りの就活生をどこか客観的に見下している節がある。

「まあ、就職はするけど、どこに入っても三年で辞めるよ」
(P.169)

noteに生息しているエセ文化人が考えそうなことだ。全能感に包まれたブロガー大学生(笑)、エッセイスト、ブックレビュー、雑記、旅行記、人と話すのが苦手、繊細、思ったことを記録しています等々

あー!全身がむず痒い!!反吐が出る!!!(ぜ、全部自分に心当たりがあるってだけですよ! 誰かを攻撃している訳ではありませんよ!!!)

②メタな視点を持ちつつ素直に行動できる太郎

だが、太郎には、noteの文化人気取りと決定的に違う部分がある。それは、客観的でありながら、自らに厳しく、行動によって前進している点だ。

これが二つ目の面白い部分だ。主人公の太郎は、批判的な視点を持ちながらも素直に行動に移すことができるのである。

例えば次の文を見てみよう。

「ただ、意味が無いかもしれないことのために知らない人に会いに行く、という努力は、悪い事じゃないと思う」
「家に籠もってくだらない自己分析地獄にはまったりするよりかはよっぽど立派だよ。くれぐれも、自分のことを自分の目だけでわかろうなんて思わないでほしい。常に他人の目に晒されていないと、自分のことなんてわからないよ」

これは、OB訪問に訪れた太郎が企業の社員から言われた言葉だ。自分のことを一番理解しているのは自分自身だと信じて疑わなかった私にとって、「常に他人の目にさらされていないと、自分のことなんてわからないよ」の一文は致命傷となった。体中のありとあらゆる穴から出血しながら現在もこの文章を書いているくらいだ。

③ナンバーワンかオンリーワンを目指すかの葛藤

三つ目は、内定をもらうため社会に迎合する自分と、ギタリストである自分との葛藤の部分だ。世界で一番大切な自分自身が、会社という大きな枠に組み込まれ、大衆の一部と化してしまう。対してギタリストは、自分自身を際立たせ、大衆からはみ出す職業だ。

「大企業の社員として名もなき年収1000万円を目指すか、ギタリストとしてなのある貧乏人を目指すか。金と名声、両方欲しい」(P.120)

社会人になることを「大人になる」と定義した際に、就職をしない選択は、意思があり、高い理想を抱いている高尚な行為のように思える。と同時に、社会に迎合することができず、大人になることを拒んでいるだけの幼稚な人間、と見ることだってできるだろう。正解は自分の外にあると信じるか、自分のうちにあると信じるか。どちらも正しく、どちらも間違っている。この究極の問いに太郎はいかにして決断を下すのか。ワタクシ(=太郎)は一体何なのか。作者は怒るだろうが、ブックオフ等で投げ売りされているので、見つけ次第読むことをおすすめする。

この本を手に取った理由(超個人的なオナニー文章)

『ワタクシハ』を手に取った理由は、今現在自分が就職活動に関係しているからである。「関係している」と書いたのは、いわゆる「就活」であるES、webテスト、面接をしたわけではなく、zoomによる仕事体験とセミナーを受けてきた程度の浅い経験値だからだ。

弊社ではグローバルチョベリグナウイ事業をしています。福利厚生がハッスルハッスルで、パンピーゾッコンな人材を求めています。

社会人と接したくない怖いお☆
常日頃こう思い続けている私にとって、セミナーや説明会は己の対人関係不足や知識の欠如が露呈してしまう、プライドズタズタ傷つきまくり恐怖イベントだ。しかもこれは圧迫面接や落選の通知では無い。全員参加型のセミナー、顔出し不要の説明会、企業のアピールをする仕事体験といった、いろはの「い」的な優しい催し物だ。もう一度言おう。いろはの「い」なのだ。

そんなガラスのハートである私は、宇宙よりも速い速度で膨張していく不安をいち早く解消したくなった。そうだ、こんな時こそ小説だ!思い立ったが吉日!ってことで最近はまっている羽田圭介に救いを求めたという訳だ。

だが、彼は、そんな甘ったれプライド高すぎ男(=私)を逃さなかった。とにかく、行動、行動、行動。現在に変化を加え、前進の推進力となるものは、自らが踏み入れていない未踏の地を進む「行動」しかないという事を小説を通して教えてくれた。

これからもっと傷つく(なぜ自分はいつも被害者面してるのだろう?)しかないんだろうな、と思いながら心の盾になってくれる至高の文章達をノートにメモしたのであった。

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