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【コラム】マーメイドはひとりで躍る①


「あなたが学生時代力を入れてきたことは何ですか」

 聞きなじみのない問いが、突如として僕の身に降り注いでくる。これは、「ガクチカ」と呼ばれる就活において代表的な質問のひとつである。話によると、ほとんどの企業でこれと似たような質問がなされ、ある者は体育会系の部活でのエピソードを、ある者は海外でのボランティア経験を語らうらしい。就活生にとって、絶好のPRのチャンスである。

 一方、僕はというと、まるで大喜利番組でいい回答が思い浮かずに上空を見上げる芸人みたいに、情けない面でパソコンとにらめっこをしている。いや、決して大学生活がつまらなかったわけではない。どころか大いに満足している。友人にも環境にも恵まれ、自分の好きなものを好きなだけやっても、みんな優しく許してくれた。人並みに恋をして、傷ついて、恥もかいた。6年間、男子校という狭い動物園で生息していたあの頃と比べたら、人間的にも成長することができた。正直なところ、普通の大学生よりも大学生活を豊かにしてきた自信だってある。

 でも、僕はこの大喜利を答えることができずにいる。いや、こう考えてしまっているというのがふさわしいか。「このお題になんて答えたら、IPPONを取れるんだろう」。

 僕とパソコンとのにらめっこは、まだ決着がつかない。
画面の向こうで僕のエントリーシートを読んでくれる面接官の人は、青学生にどんな回答を求めているだろうか。どうにか、審査員ウケのいい回答を絞りださなきゃ。ただ、時間だけが過ぎていく。そのことにしびれを切らし、新しいタブを開く。


 「どうもー! 村上です!」
 「その、ズッ友です」
 「マヂカルラブリーです!」「おねがいしまーす!」


 それから3分後、僕の悩みは杞憂だったことに気づく。


 「これは漫才じゃない」・「M-1に本気で挑んでるのか」。数多のお叱りをものともせず、彼らは自分たちの道を進み続けた。なぜなら、彼らにとってそれが本気の漫才であり、自己表現であり、最も力を入れてきたことなのだから。「審査員ウケなんて知ったこっちゃない。俺らのいちばん面白いと思うものをやるだけだ」そんな捨て身のタックルだって、チャンピオンになったじゃないか。受け入れられるために自分が変わることもひとつの策だが、ありのままの自分を受け入れてくれる人を探し続けるのだってひとつの方法だろう。きっと、その延長線上にあるのが「ガクチカ」の答えだ。


 僕とパソコンとのにらめっこは、決着がついてしまった。「漫才王」となった二人の姿に、思わず笑みがこぼれた僕の負けだ。


 PS. 徳山さん、背景画像作ってくれてありがとうございます。

 「マーメイドはひとりで躍る」では、マーメイド侍が思ったこと、感じたこと、消化したいことなどを自由にコラム形式で書いていきます。不定期更新になります。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。


執筆・マーメイド侍


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