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Vertical SaaSのCSはいいぞ

初めまして。物流の真価を開き、あらゆる産業を支えたい下吹越です。

この記事は、Vertical SaaSのカスタマーサクセスに興味をお持ちの方に当てて書いています。
タイトルの繰り返しになりますが、改めて言わせてください。Vertical SaaSのCSは、いいぞ。

Vertical SaaS自体が決して多くはないので、この記事ではまずVertical SaaSについて述べたのち、プロダクトの特徴によるCSの違いを解説し、その後Vertical SaaSの実例/そのCSの面白さを説明していきます。



Vertical SaaSの特徴

・市場性が違うため、Vertical SaaSではマルチプロダクトやマルチサービス(プロフェッショナル・サービスやBPaas)提供が必須
・業界の固有事情(法規制等)から発生する課題を深掘り、解決する必要がある
・ドメイン知識の学習、キャッチアップが常に求められる

一般に、業界をまたいで共通の「職種」向けに開発・導入されるSaaSプロダクトはHorizontal SaaSといい、個別の「業界」に特化して開発・導入されるSaaSプロダクトをVertical SaaSといいます。

Horizontal SaaSであるfreee、SmartHR、バクラクなど人事・総務・経理や、Salesforce、HubSpotなどの営業・マーケティングなどのプロダクトは、(基本的には)共通した業務の型がある職種に向けて開発・販売されているため、業界を問わず販売可能であり、市場(TAM)が大きくなります

一方、Vertical SaaSは業界特化のため、国内市場のみをターゲットにすると必然的にTAMが小さくなります

例えばアセンドはトラック運送業のお客様に対して運送管理システム「ロジックス」を提供していますが、トラック運送事業者自体が日本全国に6万社程度、かつ導入効果を実感いただきやすい車両台数20台以上の事業者様は12,000社程度です。

従って、TAMの制約からVertical SaaSベンダーは高単価なAll-in-One SaaSの提供や、複数プロダクト/サービスの提供が必要となります。

この点を指して、ALL STAR SAAS FUNDのパートナー、神前さん(@tatsuyakozaki)は下記のようにまとめています。

Vertical SaaSは特に単一ソリューションを提供したとしても価値を発揮することが難しく、TAMの制約ゆえにAll-in-oneや複数のプロダクトを展開の必要性が高いビジネスモデルです。

神前達哉(ALL STAR SAAS FUND)SaaS新世代の野望〜コンパウンドスタートアップと戦略的ポジショニング〜

また、Vertical SaaSは業界特化のサービスのため、業界の固有事情(法律や商慣習)により発生するペインの把握・解決を追求することとなります。 例えば労務管理でいえば、トラック運送業は労働基準法に加えて改善基準告示という業界独自の労務管理指標があるため、その管理・可視化・改善にプロダクトとして独自の対応が必要です。

更に言えば、そうした法律や商慣習の変化に伴い、会社・プロダクトはその変化にキャッチアップし、対応する必要があります。
実際、アセンドでは2024年問題による改善基準告示改正を受けたプロダクト対応と各メンバーの再学習を行っており、顧客との会話・サービス提供を行い続けるために、組織として業界動向を先んじて理解し、学習し続けられる取り組みが必要となっています。

まとめるとVertical SaaSは複数サービス/プロダクトの立ち上げを伴い、法規制・商慣習への深耕と対応が常に必要となる事業といえるでしょう。

ここまで整理してきたことを踏まえ、続いて、カスタマーサクセスの動き方に大きな影響を与えるプロダクト自体の特徴について説明していきます。

SaaS自体の区分

・SaaSサービスはツール提供型、企画・運用型と大きく大別される
・ツール提供型のCSは、デジタル/オフライン両面で提供されるカスタマージャーニーを滑らかにする動き方でサクセスを創出する
・企画・運用型のCSは導入~運用のプロジェクトを顧客に合わせたカスタムメイドで作り、リードする動き方でサクセスを創出する( = CSがプロジェクト・マネージャーとして動き、プロフェッショナル・サービスの種も検証~実践する)

私見ですが、SaaSプロダクトは(プラットフォームを除けば)1. ツール提供型、2. 企画・運用型の2つに大別できます
ツール提供型の代表例はフォーム作成ツール「formrun」や、ビジネスチャットの「Slack」などがあり、企画・運用型はWebとアプリの売上最大化ツール「Repro」や、クラウド経営管理システム「ログラス」などがあります。

ツール提供型のSaaSは、基本的には自分で設定・操作を始め活用するセルフサーブ型のプロダクトで、一部業務の自動化・効率化を支援する月額1,000円程度の低価格サービスです。
これらを前提とすると、ツール提供型SaaSはPLG型の成長戦略が採用されるなど、あくまでもプロダクトの体験を基軸にした選定~導入~利活用を志向するプロダクトといえるでしょう。

そのため、ツール提供型のCSはデジタル/オフライン両面で提供される体験を通じて、カスタマージャーニーを滑らかにすることでサクセスを創出する形の動き方となります。

一方、企画・運用型SaaSはユーザー企業のPMとCSが協力する形で設定・操作や導入の手順~利活用浸透までを担い、導入プロジェクトが立ち上がる形で導入を進めるプロダクトです。
サービスの特徴によりますが、部署をまたいだ全体最適的な業務効率化や、分析・改善などの業務改善に留まらない経営インパクトの創出を志向する、月額10万~以上の中単価以上のサービスです。

各社に合わせた設定や運用オペレーションの構築が必要とするプロダクトも多く、選定~導入にあたり人の介在が必要となるためプロダクトの体験以上に、導入~利活用を対応するCSによる支援が重要です。

従って、企画・運用型SaaSのCSはユーザー企業の導入から運用までの支援をプロジェクトとしてカスタムメイドで立ち上げ、リードする形でサクセスを創出していくこととなります。
かつ、部署をまたぐ業務効率化や、業務効率化に閉じない価値提供を目指す中で、プロダクト単体では実現できない支援領域の期待をいただくことも多いのも特徴といえます。
実際に、ログラス社は顧客の声を受け新規サービスとしてLoglass サクセスパートナーの提供に至っています。

「高度な分析に向けたデータ整備を支援して欲しい」、「現場部門とのコミュニケーションを支援して欲しい」など、プロダクト導入の前後に存在する業務課題は多く、時には私たちが予算策定フォーマットをアップデートすることや、経理部門と連携してデータ作成フローを整備することもありました。今回のLoglass サクセスパートナーは、そのような取り組みがきっかけとなり立ち上がっています。

あさみゆうき「エンタープライズ向けSaaSを展開するログラスが、"BPaaS"に取り組む理由」

前述の通り、Vertical SaaSはTAMの制約で単価が高いAll-in-One SaaSの提供を志向しやすいため、部署をまたぐ企画・運用型のプロダクトが主流です。

必然的に、Vertical SaaS CSの動き方はプロジェクト・マネジメントや後工程の営業~企画提案を主軸に置く動き方が色濃くなると言えるでしょう。

さて、ここまではSaaSを市場や、類型化した形で見てきました。ここからは、アセンドで提供しているVertical SaaSの運送管理システム「ロジックス」を例にとって、Vertical SaaS CSの実態を見ていこうと思います。

トラック運送業の概要

まず前提として、アセンドが支援しているトラック運送業について少しだけ説明させてください。

運送管理システム「ロジックス」は「トラック運送業界の、業務・経営のデジタル化」を支援しています。

トラック運送業は、

・日本全国に約6万社、デジタル化が重要な規模(車両台数10台以上)の事業者は約27,000社
・インフラ産業のため、人口動態以外での市場縮小は見込みにくい
・業界のクラウド利用率は24.7%で、全産業平均最下位(メーラー、ビジネスチャット等のソフトも含む)

まず、企業数から見てその市場は決して広くはありません。
上掲のようにデジタル化が進んでおらず、その背景には業務や法律要件の複雑さがあります。実際に弊社のお客様も、請求書発行システムや、業務連絡用にビジネスチャット等を導入しているのみの状況が多く見受けられました。
システム導入を進めにくいのは、具体的には下記のような状況があるからで、まさに「業界に向き合ってプロダクトを作る」必要がありました。

・業界独自の労働規制があり、それに対応したサービスがほぼ存在しない。
・業界特徴として、給与制度上に歩合給が採用されており、給与計算用の費目が多い。結果として、給与明細を出す以上に活用できる給与計算サービスが存在しない。
・荷主から支払いを受け取る各「案件」と、「案件」を実行する(モノを運ぶ「運行」)が一致せず、「営業管理」が困難
 ※例:翌日配達対応のため、1つの仕事に対して夜-昼でドライバーが2名で対応するが、支払いは1件分のみ等


運送管理システム「ロジックス」について

ロジックスはこうしたトラック運送業のお客様の業務・経営のデジタル化を支援しています。
サービスとしては運送事業者の「事務所内」のほぼ全業務(配車、請求、労務管理、車両管理)を行える基幹システム(ERP)型のSaaSです。

運送管理システム「ロジックス」概要

これまで紙・Excelで行っていた業務を基本的には全て代替する基幹システムのため、導入以降ご利用いただく方の職種は広く、下記のようになります。

ロジックスをご利用いただく職種

そのため、基本的には導入決定前後で配車・事務・経営等すべての役割の方と話し、業務を載せ替えていく導入プロジェクトを組んでオンボーディングを進めることとなります。


アセンドのカスタマーサクセスの動き方

アセンドではロジックスの導入推進をオンボーディング(業務装着~定着、ライトサクセス実現)、アダプション(データ活用、経営改善等の成果創出)の2つに分けて管理しています。

オンボーディングについて

運送業のお客様はシステムの利用経験が決して多くはなく、かつ紙・Excelで業務が回っていることもあり、各担当者に業務が属人化している/しやすい状況があります。
また、ロジックスは基幹システムといえど、(使い込んだ)Salesforceのように「何でもできる」わけではないため、オンボーディングにあたっては導入プロジェクトの立ち上げ、そして導入範囲の定義を行っていきます。


オンボーディングプロセス概要

1. 導入キックオフ(導入責任者/担当者決定、導入推進ロードマップ策定)
2. 現行業務の棚卸、運用範囲選定
3. 業務資料、マスタ資料受領~初期設定実施
4. 対応要否整理
5. 運用トライアル、調整(配車担当者、請求担当者)
6. 本運用開始

CSのオンボーディングプロセスとして変わったことはしておらず、特徴があるとすれば3. 4. の業務資料の受領~対応要否整理という業務整理です。

ロジックスはAll-in-One SaaSとして運送業の営業・請求業務で使われる紙/Excelの大半を代替するシステムです。
そのため、誰が・どの紙/Excelを・どのタイミングで作成しているかを整理し、仕様的な対応可否や、業務オペレーションの要否を確認し、部署をまたいだ全体最適の実現を目指した業務整理を行っています。

こうした過程を挟むことで、「システムを使ってもらう」だけではない、業務コンサルタントに類似した価値をオンボーディング中に提供し、現場との関係構築とシステム導入(初期設定)を推進しています。

ただし、導入時の前提は「今までお客様は(改善点があるかもしれないとはいえ)業務を回せている」ということであり、「使ってね」というだけでは切り替え・学習コストが高いため、誰も業務利用しないままになってしまいます。

そのため、ReproさんのCS改善例にあるように、導入推進時に誰を巻き込む必要があり、導入推進にあたり何を・いつまでにできると当初目的が達成できるのか、そしてどういう会話をしていると長期の解約阻止につながるのか。そうした要点を押さえた、部署をまたぐ会社のDXプロジェクトを立ち上げて、一緒に進めることが求められます。


アダプションについて

アダプションフェーズでの支援内容は現状お客様により異なりますが、ロジックスは「業務ができる」こと、ひいては「業務が経営とつながること」を目線に置いたシステムなため、下記の様な取り組みを多く行っています。

・データ活用に即した形でのシステム活用オペレーション(再)設計
・運用が進み蓄積されるデータ活用の支援(給与計算、経営状況可視化)
・評価・給与制度設計や運賃交渉支援等のプロフェッショナル・サービス提供

導入完了時に業務改善効果(請求書でのExcel作成撲滅等)は出ますが、例えば取引先・運行コース先ごとに収支分析を行うなどデータ活用を行いたい場合は、分析ができる様なデータ入力を業務上どこかのタイミングで・誰かが行う必要があります。
そうした対応のため、業務自体の棚卸・再構築を各担当とコミュニケーションを行うケースがあります。

また、給与計算の効率化とドライバーや配車担当の評価適正化(≒数値化)の要望がある場合もあります。
その際には、評価・給与制度(評価する指標の設定、評価スパン)の設計自体にプロフェッショナル・サービスで対応し、その上でシステム/業務オペレーションと接続(指標計算用の入力項目や、その入力タイミングの決定)していくような支援も行います。

こうした支援は「単なるツール活用としてのCS」ではなく、「顧客が実現したい企業運営に資するCS」を目指した結果として提供しています。なおかつ、CSのこうしたプロフェッショナル・サービスとしての動きは、将来的な事業のタネ探し/新規事業の実行としての役割をも担っています。


Vertical SaaS カスタマーサクセスの面白さ

これまでアセンドでのCSの動きについて解説してきましたが、改めてその面白さや培われる力は下記3点だと思っています。

  1. 業務コンサルとして、事業/部署をまたぎ、データ活用を見据えた業務構築(DX)を推進する経験

    1. 業務手順自体の変更や、そのオペレーション設計(入力担当が配車担当から事務員へ、など変遷)

  2. システムコンサルタントとしての、現場から経営層まで巻き込んだプロジェクト・マネジメントを行う経験

    1. 期待値の把握(活用深化に伴い勝手に進化する)から、どう実現できるのかの提案/断り/プロダクトの改善

  3. 「顧客への提供価値最大化」を見据えた動き方

    1. システム活用が進むにつれ出てくる、データ活用を見据えた業務自体の再構築の支援

    2. 顧客への提供価値最大化を見据えたプロフェッショナル・サービスの提案と、新規サービスの模索


最後に。Vertical SaaSのCSは、いいぞ!一緒にやりませんか?!

お読みいただき、ありがとうございました!少しでも参考になったこと、学びになったことがあれば幸いです。

アセンドはここまで書いてきたCSとしての動きを、Bizチーム全体でやりきって、顧客に提供する価値の最大化を進めてきました。ただ、T2D3への挑戦を迎えた今、CSへの課題は山積みです。

「物流の真価を開き、あらゆる産業を支える。」 これが、アセンドのミッションです。

私は物流業界の経験もなかったですし、実はいうと紙・Excelが跋扈する領域でのCSはかなり苦労したこともあります。(※現在も、まだまだです)
ただ、産業構造が不合理であり、そこで働く人の給与も高くはなく、そして「みんなが憧れない」とされる物流業界の不を解決する( = 物流の真価を開く)ことは、持たざるものの味方でありたいと考えている私にとっては、為すべきことだと思っています。

物流それ自体への興味を現在お持ちでなくとも、全く問題ございません。

Vertical SaaSの面白さや、市場の可能性、そして社会課題の解決に関心があったら、ぜひ一度お話ししましょう!

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