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【感想】ザリガニの鳴くところ

2021年5月17日時点で、今年ベストの本にめぐり会うことができた。

アメリカの作家、ディーリア・オーウェンズによるミステリー。
帯には堂々と、本屋大賞翻訳小説部門第1位の文字がおどっている。

2020年にアメリカでいちばん売れた小説というふれこみだが、それだけの素晴らしさが光った傑作だった。

ずっと震えながら、耐えながら、祈るように呼んでいた。

小橋めぐみ氏(俳優)

Amazonにいくつか上がっている書評としては、これがいちばん肌になじんだ。

主人公のカイアは、幼い頃に家族と離れ離れになり、ひとり孤独に湿地で生きている。人を怖がり、自然を愛する”湿地の少女”に訪れるのは、幸せなことばかりではない。

物語は同時並行して、村の青年チェイスの死体が発見されたことが明かされる。しかし遺体の周囲に痕跡はなく、事件なのか事故なのかもさだかではない。

湿地の少女と、村の人気者との間にどんな関係性があるのか。
最後の1ページまで油断できない。

本作のみどころはミステリーとしての構成もさることながら、少女の無垢な目をつうじて描かれる湿地の描写だ。

作者のオーウェンズは動物学者で、自然と触れあってきた視点は人並み外れて鋭い。自然のなかで育った少女を描くことができたのは、その豊かな経験にのるものだろう。

しかも本作は69歳ではじめて書かれた小説だというから驚きだ。
ザリガニの息づかいまで聞こえてきそうな深い部分まで物語を落とし込んだその筆力に、ぜひ触れてみてほしい。


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