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ゲンくんには関わりたくない

小学1年か2年の頃、近くにいたらうるさすぎる男子の1人に
ゲンくんという名の男の子がいた。
ゲンくんはいつだったか、
帰りの会の前の休み時間に、
クラスメートの一人一人の頭に自分の手の平を数回ずつ押し付けて「ゲリ!ゲリ!」と
大きな声で言う独自の遊びをはじめた。
みんな、ゲンくんがまた変なことをしてると笑っていたが、
彼はおよそ30名ほどいる生徒の全員に
すごい集中力でそれをやってみせた。
とても相手にできないくだらないことであったが、
数秒愛想笑いでもして自分の席に座っていれば、
頭を押され終わって、
また別の人のところに行くゲンくんを、
私も他の人と同じようにやり過ごした。


ただ、このことが今も記憶の中にあるわけは、
帰りの会が終わってからのいきさつにある。
いつも通り学校から家に帰ってくる時だった。
私は大変な腹痛に襲われて、ギリギリのところで
家のトイレまで駆け込んだ。
それが、私が覚えている、最も古い下痢の記憶だ。
それまで、おしっこが漏れそうなことはあったが、
うんちのために腹痛を伴ってトイレに駆け込むなんて初めてだった。
あと少し遅かったら、というほどの秒単位の戦いだった。


母が帰ってくるとすぐにこのことを驚きを持って伝えた。
ゲンくんがゲリの魔法をかけてきたというその日一番のニュースは
母を抱腹絶倒させたが、その笑い声を聞いても、
私はこのことをちっともおもしろいと思えない。
絶対に今頃クラスメート全員が下痢で大変なことになっているのだ。
いつもいろんなことをしだすゲンくんが、
みんなの頭を根気よく押す遊びをしたのは、その日1日だけだった。

私は翌日、昨日大変じゃなかった?と、恐る恐る友達にきいた。
でも下痢をしたなんて答えは帰ってこない。
当然だ、みんなそんな恥ずかしいこと口にできない。

私はますますゲンくんに関わりたくないと思った。





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