【公演レビュー】2022年7月31日/飯森範親指揮、パシフィックフィルハーモニア東京

充実の内容、寂しい客席

《プログラム》
ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」から前奏曲と愛の死(森谷真理〔ソプラノ〕
ベルク:叙情組曲より第1、第5、第6楽章(T.ファーベイ編曲弦楽合奏版)
~休憩~
ツェムリンスキー:叙情交響曲(森谷真理〔ソプラノ〕・大西宇宙〔バリトン〕

パシフィックフィルハーモニア東京は1990年に「東京ニューシティ管弦楽団」の名称で発足してから30年余り、珍しい曲目や版を含めたプログラミング、お得な会員システムなど独自の試みを続けてきた。
演奏力も近年着実に向上し、今や他の在京楽団にひけをとらない指揮者、ソリストの顔ぶれが並ぶオーケストラとなっている。
そして2022年7月31日に第150回の定期演奏会を迎えた。

Instagram投稿の通り、演奏自体は聴き応えある出来ばえ。日本のオーケストラにとって決して再現容易でない演目を並べたが、瞬間的精度や音色の魅力といったこの楽団に限らない課題を横に置けば、音楽の山と谷をしっかり摑み、真正面から堂々と切り結ぶ響きを奏でた。
2曲目のベルクの叙情組曲は元々弦楽四重奏のために書かれた全6楽章の作品。第4楽章にツェムリンスキー:叙情交響曲の第3楽章が引用され、第6楽章でワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」に頻出する「トリスタン和音」を使っている。
本作の弦楽合奏版には原曲の第2楽章~第4楽章を含む作曲者自身の版と第1、第5、第6楽章で編んだオランダの作曲家T.ファーベイの版があるが、今回は恐らくプログラムの順番を考慮して第6楽章が聴ける後者を選んだ。
冒頭の「トリスタンとイゾルデ」、メインの叙情交響曲に登場したソリストも安定した伸び方のしなやかな声を客席まで届けた。力んで歌い口に変な「こぶし」が入らず、歌詞と音楽を丁寧に融合させた。

2022年度から現名称に改め、飯森範親が音楽監督となり、5月11日の記念演奏会は大盛況。この第150回定期も同じく飯森範親の指揮だったが、上記の好プログラムなのにいささか空席が目立った。区切りの数字なのだからSNS経由のチケットプレゼントを行うなどもう少し「営業努力」しても良かったと思う。

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