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【ディスクレビュー】クレンペラー指揮、バイエルン放送響:メンデルスゾーン「スコットランド」

没後50年に先立って

指揮者(・作曲家)オットー・クレンペラー(1885-1973)の遺した数ある音源で多くのクラシック音楽ファンの記憶に浮かぶ一番手は1960年1月にフィルハーモニア管弦楽団とセッション録音したメンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」だろう。
当時EMIプロデューサーのウォルター・レッグのもと、クレンペラーが音楽監督を務めていたこのオーケストラはコンサートマスターのヒュー・ビーン、フルートのギャレス・モリス、ホルンのアラン・シヴィルなどを擁し、個人技とアンサンブルの両面で最盛期にあった。
クレンペラーは全曲を通じて遅めのテンポで進めつつ、凹凸のくっきりついた生命感あふれるサウンドを展開。スケールの拡がりとシャープさが高次元で両立している。フィルハーモニア管弦楽団の弦のキレ、木管の潤いの中にサッと翳の差す音色も見事でクレンペラーの棒に応えている。

ただ、この音源はあまりに有名で今さら筆者が書き連ねるのも野暮だから、ここでお役御免。
本稿の主役はクレンペラーが1969年5月23日にミュンヘンのヘラクレスザールでバイエルン放送交響楽団を指揮した「スコットランド」のライヴ録音。

2つの楽団はともに戦後の創立(フィルハーモニア管弦楽団が1945年、バイエルン放送交響楽団が1949年)。
双方ともある種の目的意識を伴って誕生し、結成当初から国際性豊かな指揮者陣(フィルハーモニア管弦楽団は一度も英国人の首席〔常任〕指揮者を迎えたことがなく、バイエルン放送交響楽団も初代のヨッフムを除きドイツ人以外がポストに就いている)のもとコンサート、レコーディングの両面において名声を博した。
高度な演奏能力を有し、手垢にまみれない音楽性を持つ点も共通しており、クレンペラーとの相性がよかった背景と考えられる。

ヒストリカル音源に通じた方ならご存じと思うが、バイエルン放送交響楽団のライヴ録音でクレンペラーは第4楽章のコーダを自身が同楽章の第2主題を使って作曲したものに入れ替えている。どうやらフィルハーモニア管弦楽団との実演でも同様の措置を実行したようだ。

「コーダ」改変と演奏自体の差異

ライヴ録音CD(EMI)の解説書にはこうある。

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