【レビューweb掲載】朝比奈隆とアイザック・スターンの復刻ボックス

タワーレコードのフリーマガジンintoxicate#147(2020年8月発行)に寄稿したレビューを同誌のnoteがアップして下さった。

アイザック・スターン(1920-2001)は2020年と2021年にわたって記念年を迎える巨匠ヴァイオリニスト。晩年は音楽祭でたびたび来日したがNHK-FMの特集シリーズ「~変奏曲」で取り上げられた以外注目されなかった。記念年にゆかりの音楽祭が中止となったのも痛恨事。

豊麗にして背筋の伸びた構えの大きい音楽作り、若き日にあのハイフェッツを震撼させたという伝説が残るG線の輝かしさがスターンの魅力。そして名前の通り自他に厳しいユダヤ・アメリカ音楽界の星だった。このあり方ゆえか「精神派」が主流の日本のクラシック雀からの受けは今も昔もいま一つ。従って数多い録音の殆どは廉価再発のシリーズに加わったと思ったら姿を消すの繰り返し。近年だと村上春樹の小説に登場したらしいシベリウスのヴァイオリン協奏曲の録音がわずかに再評価された程度。下記はハイフェッツとスターンの日本での受容について触れた筆者のブログ。

拙稿で記した全盛期の録音ボックスに耳を傾けると1950年代から前記シベリウスの録音が行われた1969年頃までのスターンの「打率」の高さは驚異的。それもアベレージヒッターというより全打席ホームラン級。様々な事情でバッハの無伴奏の全曲録音が実現しなかったのは惜しみて余りある。

2021年に没後20年を迎える朝比奈隆(1908-2001)が遺した十指に及ぶベートーヴェン交響曲全集録音の中で1996年~1997年にかけて大阪フィルハーモニー交響楽団とザ・シンフォニー・ホールでライヴ録音した演奏は確実にベストを争うセット。もう少し踏み込めば古今東西の全集録音まで拡げても上位に位置する存在。かつてブログでも取り上げた。

関西を拠点に活動し朝比奈隆とも親交のあった音楽評論家の小石忠男(故人)はかつて交響曲の全曲録音に求められる条件として次の3つを挙げた。

①一定の期間に集中して行われていること

②収録会場が同一であること

③1つの録音システムで収録していること

できそうで意外に満たしづらい条件だが今回取り上げた朝比奈隆のベートーヴェン交響曲全集は全て満たしている。約1年弱の間に1つのホールで全て江崎友叔率いるチームが収録したものだから。そして実際の演奏内容は9曲とも高水準で揃っている。ディテールの解像度と音響のスケール感の捉え方のバランスが巧みな優秀録音であり、大阪フィルハーモニー交響楽団の状態も上々で弦の発音など望外と言えるほど澄んでいる。本音源のSACDハイブリッド盤がボックス化されたのは今回の復刻が初めて。価格面でもお買い得なので敬遠していたひとは迷わず手に取って欲しいと思う。

※文中敬称略


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